2020年8月、立山連峰縦走に出掛けてきました。この記事ではその場所についての簡単な説明、記録などを書き留めたいと思います。
目次
立山連峰についての案内
立山連峰とは
立山連峰は飛騨山脈(北アルプス)の中の一部であり、黒部川の西側に連なる山域を指し示します。
厳密には黒部川源流近くの三俣蓮華岳から東西に尾根が分かれ、その西側。黒部五郎岳、薬師岳方面に伸びる稜線が立山連峰。一方、その対となるのが後立山連峰でこちらは裏銀座と称される鷲羽岳、野口五郎岳方面と稜線が伸び、遠くは鹿島槍ヶ岳、白馬三山へと尾根道が続いています。
風景としては、全体的に風化や侵食が進んでおり植生の乏しい砂礫の稜線が多いですが、室堂平、五色ヶ原、太郎平~北ノ俣岳の稜線上など部分的になだらかな箇所があり、そういった場所では植生も豊かで高山植物の観察なども楽しめます。
今回経由した山々、モデルコース等の紹介
笠ヶ岳
笠ヶ岳は主稜から飛騨寄りに突き出した尾根上にあるピークで、ある程度距離を置いて見ると写真のように均衡の取れた三角形に見えるのが特徴的。深田久弥の日本百名山にも記載されています。麓に近い前衛の山ですが標高は3,000手前と高く、どの登山口からも標高差があり相応の急登が強いられます。平年であれば山頂至近の笠ヶ岳山荘が営業しているのでそこで一泊を前提とすれば行程は組みやすい。(コロナが流行した2020年度は休業しています)
コースとしては笠新道からの往復、もしくはそれの往路を鏡平経由に変更したものが人気があります。笠ヶ岳山頂から南に向かって伸びるクリヤ谷経由のルートはやや荒れ気味な上、増水時は通行不能になる事からあまり一般的ではありません。
笠新道の往復も含めコースが長いので1泊以上の行程が一般的ですが、健脚であれば早朝発の日帰りも可能です。
双六岳・三俣蓮華岳
双六岳は槍ヶ岳の展望が優れるピーク。三俣蓮華岳は鷲羽岳、水晶岳へと至る裏銀座方面の稜線と、雲ノ平方面、黒部五郎岳方面へのコースのジャンクションとなるピークです。
どちらのピークも展望は申し分無いですがそれ単体を目当てに来る人は少なく、裏銀座、雲ノ平、黒部五郎岳方面からの周回に際しての経由地としての位置付けが強いです。
単体で目指すのであれば、前日双六小屋に宿泊して小屋に荷物を置き、身軽な状態で往復するのが体力的には楽です。健脚であれば鷲羽岳・水晶岳もしくは黒部五郎岳の往復と足を伸ばして良いかもしれません。
黒部五郎岳
日本最後の秘境とも称される雲ノ平と黒部川を挟んだ反対側に位置するピークです。どの登山口からも遠く奥深い為に2泊以上の行程を組むのが一般的ですが、その分他の大勢の人が行き交う山域と比較すると若干秘境的な雰囲気が残っています。(百名山なので訪れる人自体は多いです)
コースとしては、富山県側の登山口である折立から入り、太郎平を起点として太郎平→雲ノ平→水晶岳→鷲羽岳→三俣蓮華岳→黒部五郎岳→太郎平と一周するものが特に人気です。また新穂高温泉から入り双六小屋を経由して黒部五郎小舎に一泊。翌日空荷で山頂を往復するというのもパターンとしては多く、逆に太郎平から往復という方も一定数見かけました。
薬師岳
薬師岳の山体は大きく他と若干独立した所にあるので遠くの山からでも目立ちます。こちらも日本百名山の一つで、太郎平から往復5時間程度と手軽に登れるという事もあり、単体で登られる他、黒部五郎岳の項で記載した雲ノ平経由の周回コースに絡めてついでに登られる事が多いです。
単体で登る際は、折立から太郎平に登り一泊、翌朝薬師岳を登りその日のうちに折立方面に下山するコースがポピュラーです。折立からの日帰りも健脚であれば可能ですが少し無理のある行程になります。
越中沢岳・五色ヶ原
どちらも薬師岳~立山の間にありますが、百名山ではなくそれ目的で登る人は少ないです。立山~薬師岳を縦走する際の通り道のような所。ただ通行量は他と比較すると圧倒的に少なく北アルプスの山にしては非常に静かな山歩きが楽しめます。
コースとしては前述した通り立山~薬師岳の縦走となりますが、黒部湖を起点として五色ヶ原を経由し立山まで周回する方も幾らか見られました。越中沢岳も五色ヶ原からであればそこまで距離はなく難所も少ないです。
立山(雄山)
立山はその名が示す通り立山連峰の主峰であり最高峰です。立山は雄山、大汝山、富士ノ折立の3つのピークの総称ですが、一般的には雄山神社の神殿が建つ雄山が山頂のような扱いとなってます。
立山自体、雄山神社の神体として扱われており予てより立山修験としての遥拝登山が盛んに行われていました。現在でも雄山の山頂には社務所や神殿などが立ち並んでおり、白山や御嶽山等といった山と同様に信仰の山という雰囲気が強いです。(麓の室堂という地名も、修験者が宿泊する為の堂が由来です)
コースとしては立山黒部アルペンルートである室堂、黒部湖から登るものがあります。圧倒的に多いのは室堂からの往復で、雄山単体であれば室堂から2時間程度で登頂が可能。沿道には山小屋や休憩所も多く危険箇所も少ないので、地元の小学校の遠足や家族でのハイキングなどで登られる事が多いです。
室堂、雷鳥沢等の室堂平内の散策路も含めて全体的に観光地的な雰囲気ですが、ピークの標高は3,000を越えるという事もあり荒天時は遭難の危険性もあるので、雨具等最低限登山の装備は必要です。
加えて立山三山という立山(雄山、大汝山、富士ノ折立)、別山、浄土山の3つの山を引っくるめた定義もあり、それらを周回するコースも人気です。(行程としては1日がかりになります)
剱岳
剱岳もその名が示す通り険しい山の形をしており、その急峻な見た目から多くの登山家から人気の山です。その分登山コースも鎖場が続く難路で、カニのタテバイ・ヨコバイといったその筋には有名な難所もあります。
一般コースは剣山荘方面から登る別山尾根コースと、北西に伸びる早月尾根を経由するコースがあります。他、岩稜帯である北方稜線がありますがクライマー向けで一般コースではありません。その中でも圧倒的に多く登られるのは別山尾根で、その場合は前日に剣山荘及び剣沢小屋にて一泊。翌日、天候の安定している午前中の間に登るというパターンが王道です。
鎖場が多くハイシーズンには渋滞が発生しやすいので時間には特に余裕を持って登るのが無難です。また難所が多い事から滑落事故も積雪期に限らず夏山でも多く発生しており、毎年のように死亡事故が発生しています。近年では2019年に発生した19歳女性の滑落事故は物議を醸しました。
各山小屋における新型コロナウイルス流行の影響
今年、2020年は新型コロナウイルス流行により日常生活はもとより、登山においても例年通りとは行かない部分があります。特に顕著な状況であるのが南アルプスで、山域にある山小屋を全面的に閉鎖し、登山口へと至る林道を封鎖してアクセスも遮断している等、徹底して登山自粛の姿勢を見せています。
その一方北アルプスでは、三密になりやすい環境である山小屋等で受入人数の縮小、完全予約制の導入等といった各種対策は行っているものの、概ね例年通りの状況でした。しかし今回通過した笠ヶ岳山荘を始め中には今年度休業の小屋も少なくはなく、事前の下調べは例年以上に必要となります。
山小屋は利用しない、日帰りのみであるという場合もある程度の注意が必要です。というのも基本、藪払いを始めとした登山道の整備は近隣の山小屋の持ち分なので、手入れされている年と違い藪が繁茂していたり道が崩壊していたりする場合があります。トイレ、水場等についても休業中の小屋では利用はできません。
また、テント利用に際しても今年度においてはソーシャルディスタンスに基づき受入人数を絞っている、もしくは予約制を採っている場合が多いので予め予約をしておくのが無難です。(小屋への宿泊については殆の所で予約制です)
以下に8月中旬時点での各小屋の営業状況を特にテント泊の観点から書き記しました。あくまで自分が訪問した当時の状況で、何かあれば状況は逐一変わると思われるので、実際に足を運ぶ際は山小屋に電話するなりして最新の情報を自分で収集して下さい。※以下の情報を元に不利益を被られても責任は持ちません。
わさび平小屋
受付のビニールカーテンや入館時の検温等はありましたが例年通り営業していました。登山口である新穂高温泉から近くそこまで利用者が多くない為か、テント場も予約は不要との事。
笠ヶ岳山荘
2020年シーズンは全面的に休業しています。トイレも使用不可能。キャンプ場の水場も既に枯れてしまっているという事もあって一帯での水の確保は難しいので、笠ヶ岳に登る際は飲料水は多めに用意しておきましょう。
双六小屋
小屋泊は予約制、テント利用は繁忙期のみ予約制との事でした。それなりに広いテントサイトがありますが交通の要衝にある人気の小屋という事もあり、運が悪いと埋まってしまう場合があるので予約が無難。軽食、水場、トイレは通常と同じく利用できます。(軽食の提供時間は10:00~15:00)
黒部五郎小舎
こちらも営業していましたが、宿泊、テントどちらにおいても今シーズン完全予約制との事でした。テントについては飛び入りでも空いていれば泊まれるかもしれませんが、テントサイトが狭い為に予約段階で埋まってしまう事が多く、その場合は無情にも断られるらしいです。(キャパの大きい三俣山荘への移動を促される)
太郎平小屋(薬師峠キャンプ場)
今回は利用していませんが普通に営業しており、宿泊、水場、トイレの利用も可能です。薬師峠のキャンプ場については14時よりテント受付との記載があり、例年通り事前の予約受付は行っていないようでした。(小屋泊については予約が必要)
ちなみに麓の折立のキャンプ場は人馴れした熊が出没するらしく、対策が講じられるまで利用禁止との事でした。
薬師岳山荘
営業していました。軽食や売店の利用も可能です。テント場は元々無いので宿泊は小屋泊のみとなります。(要予約)
水場は無いので飲料水を得たい場合は売店でミネラルウォーターを購入する形になります。
スゴ乗越小屋
こちらも例年通り営業。太郎平小屋と経営者が同じという事もあり、テント場の事前予約受付は行われていません。小屋泊は他と同様に要予約。水場、トイレは小屋に設置されています。
五色ヶ原山荘
黒部五郎小舎同様、テント泊も含めて完全予約制との事でした。水場は小屋から少し下った所にあるキャンプ場の方にあるとの事でしたが未確認です。(山小屋ではミネラルウォーターを含め飲料の販売のみ)
雷鳥沢キャンプ場
例年通り営業。MAXで300張とキャパが大きいキャンプ場という事もあり予約は不要でした。水場、トイレもテントサイトにあります。
剣沢キャンプ場
今回は利用しませんでしたが、ここも広いので予約は不要と思われます。コロナで自粛ムードの今シーズン中に埋まる事はないでしょう。小屋から少し離れた場所にありますがテントサイトに水場、トイレが設置されています。
実際の登山記録
今回は上記のコースで歩きました。
立山連峰縦走 登山口までの道程(松本→平湯温泉→新穂高温泉→わさび平小屋)
登山口までの移動日です。松本では高山行きバスの乗り換え待ちの間に市内を軽く散策。その後はバスで西進するも、安房峠を越え岐阜県内に入った途端に土砂降り。当初はクリヤ谷登山口から入山し錫杖沢分岐近くにてテント泊の予定だったものの、これでは渡渉は難しいと判断し変更を余儀なくされました。考えた結果、翌日の登りを笠新道経由とする為にわさび平小屋にてテント泊。
立山連峰縦走その1(わさび平小屋→笠新道→笠ヶ岳→秩父平)
実質的な登山初日。初日で荷物が非常に重かったという事もあり、稜線に出るまで登り6時間強の笠新道の急登に早々にバテて以降体調を崩しがちに。流石に標高3,000m近い稜線上からの景色は良いものの雲は多く槍ヶ岳は見えず。抜戸岳から笠ヶ岳の往復後も依然として体調は回復せず、宿泊予定だった双六小屋への到達を断念。周囲で熊がうろつく秩父平のテントスペースにて一泊しました。
立山連峰縦走その2(秩父平→双六小屋→双六岳→三俣蓮華岳→黒部五郎小舎)
2日目、体調回復したので続行する事に。しかしこの日は終始ガスが濃く、幾つかの鞍部を除いた稜線上は視界ゼロが続く。双六岳、三俣蓮華岳と晴れていれば展望の良い山も真っ白でしたが、黒部五郎小舎が見えてきた頃には徐々に雲が取れ始めました。小舎には正午過ぎと早い到達でしたが、以降は太郎平まで小屋がなく日があるうちに辿り着く自信がないので、やむなくここ一泊。進みの遅さに少し焦り始める。
立山連峰縦走その3(黒部五郎小舎→黒部五郎岳→北ノ俣岳→太郎平→薬師岳→スゴ乗越小屋)
3日目は黒部五郎岳の山頂でのご来光を目指し未明の3時前に小舎を出発。しかし山頂はガスが濃く、粘ったものの結局取れず意気消沈。テンション一気に下がったので折立から下ろうかと考えるも、徐々に天気は回復し気分も回復。北ノ俣岳前後のなだらかで雰囲気の良い尾根道を歩いている内に薬師岳の急登を登り返す元気も取り戻し、長丁場ながらもなんとかこの日の目的地であるスゴ乗越小屋まで到達しました。
立山連峰縦走その4(スゴ乗越小屋→越中沢岳→五色ヶ原→一ノ越→雷鳥沢)
4日目、立山の外輪を乗り越した先の雷鳥沢まで向かうという前日に引き続きロングな行程。しかし前日以上に天候は安定して展望は良く、スゴノ頭、越中沢岳といった急峻なピークを越えつつ、五色ヶ原の牧歌的な雰囲気もそこそこ満喫。さて次はいよいよザラ峠から立山への強烈な登り返し……と意気込むも獅子岳を越えた時点で猛烈な豪雨。終始楽にとは行かせてくれませんでしたが、雨は長続きせず予定通り雷鳥沢に到達。
立山連峰縦走その5(雷鳥沢→別山乗越→剱岳→剣山荘→剱澤小屋→雷鳥沢)
5日目はテントに荷物の大部分を置いて軽荷で剱岳の往復に行きました。この日は終始天候は安定しており、岩場も乾いていてグリップも安定。軽荷だった事もあって特に問題なく登頂し山頂からの景色を堪能。帰りもカニのヨコバイに少しびびるものの、特に問題なく下山。往路と違い剱沢を経由して帰路を歩くと雷鳥と遭遇したので暫し写真撮影会。時間に囚われず荷物も少ない、行程中最も気楽に歩けた日でした。
立山連峰縦走その6(雷鳥沢→別山乗越→別山→立山雄山→浄土山→室堂)
登山最終日に当たる6日目は前日同様に空荷で立山三山の周回に向かいました。天候が安定した前日以上に雲が少なく、別山からは富士山や日光白根山など遠くの山も見えて大いに満足しました。大汝山、立山雄山と進み、前々日通過した一ノ越を通過して浄土山を経由し、室堂に下山。そのままバスに……とは行かず、テント回収の為に雷鳥沢を往復。最後のこれがこの日一番きつかった。
立山連峰縦走 帰路(富山市内、岩瀬観光など)
移動日です。午前中は土産に鱒寿司を買うついでに富山市内を散策。路面電車で北前船の寄港地として古来より栄えた岩瀬地区を歩いたりで軽く観光しました。午後は在来線を使い、糸魚川から大糸線経由で適当に帰宅。