槍穂高連峰縦走その3(西穂山荘→西穂高岳→ジャンダルム→奥穂高岳→穂高岳山荘)
前回記事『槍穂高連峰縦走その2』からの続きです。
3日目は西穂高岳から奥穂高岳間の岩稜帯の難所越えがメインの一日。地震後の登山道の状況が分からず、スタートした時点では難所区間は迂回するつもりだったのですが、小屋で奥穂高岳方面に向かうという方と遭遇。前日奥穂高岳から歩いてきた他の宿泊者が居り、コースも問題なく通過できたとの事で、少々悩みつつも自分も当初の予定のコースを辿る事に……西穂独標までの区間は前日登ったので予習済みですが、以降は全くの未踏。細かい岩峰を辿って西穂高岳の本峰に登頂するも既に中々の険しさ。しかし以降は前評判通りの難路で、岩を登ったり下ったりで思うように距離が稼げない。ともあれ赤岩岳、間ノ岳、天狗の頭と各ピークを通過し、天狗のコルから大きく登り返してジャンダルムに登頂。以降もロバの耳、馬の背といった難所を越えつつ無事に奥穂高岳、そして宿泊地である穂高岳山荘に到達しました。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2021年9月】槍穂高連峰縦走についての情報と記録 - 山とか酒とか
目次
- 西穂山荘→西穂独標→ピラミッドピーク(8峰)
- ピラミッドピーク(8峰)→西穂高岳
- 西穂高岳からの展望
- 西穂高岳→赤岩岳→間ノ岳
- 間ノ岳→天狗の頭→天狗のコル
- 天狗のコル→ジャンダルム
- ジャンダルムからの展望
- ジャンダルム→ロバの耳→馬の背→奥穂高岳
- 奥穂高岳→穂高岳山荘
- 翌日、停滞日の過ごし方
西穂山荘→西穂独標→ピラミッドピーク(8峰)
まだ多くの人が寝静まる未明に出発。崖スレスレで展望を楽しめる一等地に張れた西穂山荘のテント場ですが、日没が近付くにつれてテントは増える一方で、最終的にはそこそこの密具合。犇めき合うという程ではないですが、タープを短くしたりずらしたりする必要に駆られました。
やけにトイレが近い人のテントが隣接していて物音であまり眠れませんでしたが、自分も早立ちに備えて朝2時からごそごそやってて煩かったと思われるので、お互い様という事で。
[4:06]西穂山荘出発
未明の西穂山荘です。前日の内にあれこれ情報収集を試みましたが結局の所、地震後の奥穂高岳方面の縦走路の状況が分からずじまい。道が崩れたりしていて身動き取れなくなっても困るなという事で、この日は一旦上高地方面に下りそこから岳沢小屋に登り返す腹積もり。行ければ奥穂高岳を乗り越えてこの日の内に穂高岳山荘まで行きたいという事での早立ちとなりました……つまり、この時点では上高地に下る気まんまん。
出発前に水を汲みに小屋内に立ち寄ると既に身支度を整えた人の姿が。随分と早い出発だなと自分の事を棚に上げて感心しましたが、西穂山荘からの早出というと奥穂高岳方面に向かう以外はあまり考えられない。まあ焼岳方面に向かう人も多少は居るでしょうが。
訊ねてみるとやはり奥穂方面に向かうとの事。その人の話によると、前日奥穂高岳から縦走してきたグループが小屋泊したらしく、縦走路も特に崩落は無かったとの事。
暫し悩みます。初志貫徹という考えもありますが朝令暮改、こと登山において行き当たりばったりで方針が定まらないというのも正直どうかと思う。行くべきか行かざるべきか、相反した二つが脳内で鬩ぎ合い、束の間の脳内会議を終えて導き出した答えは……その人の背中を追っていく事でした。まあ、その為に荷物を軽量化してきたという事もありますし。
早朝というよりはまだまだ夜の帳が下ろされたままの景色。西穂独標までの区間は勝手知ったる道……という訳ではないですが、前日歩いたばかりなので暗闇の中でも難なく歩ける。
ヘッドライトの灯りを頼りに進んでいると、東の空が赤く染まり始めました。長い長い一日の始まり。
朝日の後光が差す八ヶ岳。右から順に、編笠山から権現岳、赤岳、横岳、硫黄岳、少々立て込んでいる辺りが天狗岳、左に少し離れた所の高い所に北横岳、蓼科山と分かりやすく並んでいますね。阿弥陀岳は赤岳と重なってしまい見えない様子。
僅かですが麓の街明かりも見えてます。松本盆地、塩尻の市街地辺りでしょう。
前日も通過した西穂独標直下の岩場の様子。これ以降奥穂高岳までの間、延々と岩場の登り下りが続くので、ここはその始まりの場所とも言える。
[5:08-5:23]西穂独標
およそ20時間ぶりの西穂独標です。脇目も振らず登っていたので1時間程度での登頂となりました。まだ太陽の姿はありませんが空は着実に白みつつある。
前日はスルーしましたが、独標とはなんぞやという事でその由来と解説。独標とは独立標高点と呼ばれる地図上(西穂独標の場合、国土地理院2万5千分の1地形図)に標高が記載されたポイントの事。一方で連続した標高点が線として記されたものは等高線とされる。
現行の2万5千分の1地形図を見ると西穂独標の位置には2701の独立標高点が記されている。この場所は西穂高岳の属峰(11峰)でもあるので、便宜上頭に西穂と付けられ今日のように西穂独標と呼ばれるようになったという訳です。
西穂独標の標柱とその周辺の展望。麓には雲海が広がっていますが、それより上は殆ど雲一つ無いと言っても良い、この日は絶好の登山日和とも言える一日でした。
右奥には前日雲に飲まれ気味だった笠ヶ岳方面の稜線が明瞭です。抜戸岳の右奥には黒部五郎岳なんかも見えてますね。去年登った時はガスの中だったなと苦い記憶が呼び覚まされる。
次第に明るくなり始めた東の稜線。先程見えた八ヶ岳に加えて、その右側には南アルプスの山々も姿を現しつつある。
遠くに見える山々を望遠して繋いだもの。この日は空気が澄んでおり、八ヶ岳、南アルプス、中央アルプスといった山脈の細かいピークの一つ一つまでもが細かく確認できました。
先程も見えた八ヶ岳を更に望遠で。南北アルプスに比べると規模は小さいですが、起伏に富んでおり存在感がある山脈です。蓼科山から左側、手前の稜線と重なる右奥の所には両神山らしき鋸のようなギザギザ稜線が見えます。
南アルプスから中央アルプスの方面の稜線。南アルプスの西端、甲斐駒ケ岳の左後方には富士山の大きな山体が鮮明に見えてます。南アルプスの方に関しても、大きく切れ落ちた北沢峠を挟んで白根三山、塩見岳、悪沢岳、赤石岳、聖岳、そして少し離れた所に光岳と、主峰と言える主峰は総じて確認できます。
中央アルプスの方も多くのピークが見えますが、南北に連なる稜線なので重なってしまいがち。最高峰の木曽駒ケ岳は当然の事ながら容易に判別できますが、空木岳、南駒ケ岳といった南部の主峰はこの時点では見えるかどうか微妙。
まだまだシルエットのような状態の穂高連峰。左端の一際大きく見える三角形がピラミッドピーク(8峰)で、西穂高岳の本峰はその右側に見えるピークでしょうか……写真中央辺りにはジャンダルムらしき台形状のピークも確認できます。
これからの難所に備えてヘルメットを装備したり行動食をつまんだりしてたら段々と明るくなってきました……山肌が露わになればなる程、険しい印象が増大していく。
笠ヶ岳方面の稜線と、その奥には黒部五郎岳。登ったばかりのピークはどうしても贔屓目に見がちで写真も多くなる。
稜線を望遠したもの。笠ヶ岳から抜戸岳の間は平坦な尾根が続いており、展望も良く歩いていて楽しかった記憶。
西穂高岳を目指して出発します。こちらは前日も見下ろした最初の下り坂ですが、前日と違って天気が良いので高度感も中々のもの。
傾斜こそ急ですが足場やホールドが安定しているので特に問題なく下降できます……しかし急峻なアップダウンは進む先に幾つも見えており一筋縄ではいかない感じ。
この区間を進む人は難所越えに備えて軽装という方が多く、テント泊装備で鈍重に進む自分とは対照的に皆一様に軽快な足取り。奥穂高岳に到着するまでの間、10人以上に追い抜かれました。
独標から下った所の鞍部から広がる雲の海と笠ヶ岳より左側に見える稜線。雲海が続く先の辺りには白山が見え、その山頂の肩辺りには地平線に沈みつつある月の姿があります。
白山と沈みゆく月。色合いから御来光のようにも見えますが、西側なので紛う事無く月です。朝日の陽光に照らされて赤く染まっているのでしょう。
こちらは東側、太陽が登ってくる方角。ヘッドライトも不要という程に明るくなり。頭の窮屈感から解放される。
正面に見えるのはピラミッドピーク(8峰)です。間近という程でないにせよ距離はそう遠くはない所に見えますが、間に小刻みな岩場の上り下りを挟む。
歩いてきた方向(独標方面)とこれから進む方向(ピラミッドピーク方面)をそれぞれ一枚ずつ。人の姿は多いですが、全員が全員奥穂高岳を目指している訳ではなく、西穂高岳でUターンする人も半分ぐらいの割合。
少し先の鞍部から、雲海越しに八ヶ岳と南アルプス。朝焼けに照らされた富士山が赤く染まる。
ピラミッドピークを目前とした所。左側の岩場に9という文字があるので、あと1回下って登れば登頂という事なります。
9峰直下の下り。この付近も傾斜は急なものの、ホールドが安定しているので特に問題無く通過。独標と西穂高岳までの区間はそこそこ険しい岩稜帯なんですが、全体的によく整備されているので見た目よりは簡単に歩ける道でした。まあ実線コースですし。
ピラミッドピークの登りです。先程の9峰から見えた三角形の肩の辺りでしょうか。
西穂独標方面を振り返った所。まだ薄暗いので見辛いですが、9峰からピラミッドピークの間はナイフブリッジ気味になっている細尾根(赤い人が見える辺り)があり、鎖も設置されていないので少しスリルがあります。
独標のピークはその左側に標柱が立っている辺り。岩場の登り下りが多く距離は中々稼げない。これまでも、これから先も。
ピラミッドピークまでのガレ場の登り。傾斜は緩いです。
ふと西側を見ると笠ヶ岳の山頂部が照らされ始めていました。御来光は前穂高岳辺りの稜線に隠れてしまって見えませんでしたが、岩登りに四苦八苦している間に日の出の時刻を迎えていたようです。
笠ヶ岳の望遠……均衡の取れた美しい形のピーク。山頂のすぐ右側、肩の辺りには笠ヶ岳山荘の建物も確認できます。
東側、前穂高岳とか明神岳とかの立て込んでいる辺りから太陽が姿を表しました。御来光感はあまり無い。
ピラミッドピーク(8峰)→西穂高岳
[5:51-5:53]ピラミッドピーク(8峰)
ピラミッドピークに到着。ここは他の峰のような褪せたペンキではなく立派な標柱が設けられていました。正面には西穂高岳の主峰が聳える。ジャンダルムも心なしか近付いているように見えます。
山頂と周囲の山々。左側には北アルプス裏銀座方面、水晶岳や鷲羽岳が見える……双六岳との間に見えるなだらかな形のピークは雲ノ平近くの祖父岳。
南側方面。谷間にはそこそこ層の厚い雲海がフィットするように収まっている。焼岳や乗鞍岳といった山々も陽光に照らされ始めました。
特に見えるピークは変わっていないですが、少し明るくなった頃の南アルプスと中央アルプス。
こちらは八ヶ岳と蓼科山。奥秩父方面の山はこの真裏にあり見えない。
西穂高岳の主峰を目指して進んでいきます……ピラミッドが8峰だったので、その数字の回数分のアップダウンを控えているという事に。つまり、大して進んでいないという事。
無数にある岩場の上り下りの内の一つ。人が登っている様子を見ると、実際にどんな感じの岩場か把握しやすい。
西穂高岳の右手前、チャンピオンピークの横に見えるジャンダルム。奥穂高岳の属峰ですが、手前に位置しているという事もあってか、右奥の突起のような主峰よりも大きく存在感がある……ちなみにすぐ右に見える岩峰が難所として知られるロバの耳。
岩場の登りを見上げる。朝っぱらから険しい道だなーと思いつつも、これより後にもっと険しい道を控えているという事を考えるとウォーミングアップとしては適当かもしれないと思ったり。
補助的な鎖が設けられたトラバース。楽しめる岩場というのは個人的にはこのレベルまでですね。これ以上に険しいものは緊張で疲れるので苦手です。
西穂高岳の主峰との距離を詰めていきます。少しずつですが着実に近付きつつある。
6峰と書かれたピークから正面にチャンピオンピーク(8峰)、左奥には山頂に標柱立つ西穂高岳の主峰が見えます。
ガレの急登と上高地付近に広がる雲海。日も高くなりつつありますが、富士山は依然として鮮明。
正面に見えるのがチャンピオンピークで、左側に西穂高岳の主峰。ペンキのマーキングは多い。
ピラミッドピーク方面を振り返る。左側から南アルプス深南部、中央アルプス、霞沢岳、恵那山、乗鞍岳、御嶽山。右側には白山に笠ヶ岳、黒部五郎岳と一線級の名峰が一堂に会する。
[6:17-6:22]チャンピオンピーク(4峰)
何のタイトル保持者かは知りませんが、ガレの登りを経てチャンピオンピークに到着。4峰なので主峰まであと少しですね。
やや擦れつつあるチャンピオンピークの文字。ピラミッドの方もそうですが、誰がこういうの名前付けてるんでしょうか……自分も適当な無名峰にクレイジーダイヤモンドピークとか名付ける仕事してみたいです。
チャンピオンピークからの展望。知らず知らずの内に標高を稼いでいたのか、ピラミッドピークや独標は既に見下ろすような形です。焼岳もこの頃には随分と低く見えますね。
岩場のトラバースから西穂高岳の主峰を臨む。途中の岩場に3の文字がありますが、こんな風にピークを辿らず巻いてしまう事も多いです。
主峰を見上げた所。この付近から主峰までの区間はそこそこ纏まった登りとなります。
トラバースの途中の2の文字。ここもピークを経由しない巻道。
2峰を過ぎた辺りから西穂高岳への最後の登り返しを見上げる。この辺りも岩肌に記されたペンキマークが豊富。
西穂高岳直下。そこそこ急登ですが鎖は設けられていないので、ホールドを掴み三点支持を崩さないように進む……三点支持なんて普通に山登ってる時は偶に脳裏を掠める程度ですが、この日は流石に意識しました。
登りそのものは短く、程なくして山頂が見えてきました。
西穂高岳からの展望
[6:49-7:13]西穂高岳
西穂高岳に到着。独標から西穂高岳の区間も十分険しい……と聞いていた通り、中々手強い道程でした。
切り立った岩峰なので殆ど360度の展望……この付近のピークはどこもこんな感じですが、主峰からの展望はやはり格別という事で。
一つ前の写真と似たような方面ですが南側の展望。眼下の岩稜帯を辿っていくとピラミッドピーク、独標、そして西穂山荘の赤屋根と歩いてきたコースが続いているのが見えます。更に辿っていくと前々日登った焼岳、安房峠を挟んで乗鞍岳、その左奥に御嶽山と続く。
上高地方面の雲海はまだまだ深く立ち込めていますが、新穂高温泉方面はいつの間にか綺麗さっぱり消失しており谷底まで覗けます。
上高地方面を少し露出を変えて。八ヶ岳、富士山&南アルプス、中央アルプスといった方面の山々も相変わらずよく見えます。西穂高岳の標高は2,909m、前穂高岳から南側に伸びる明神岳が同じくらいの目線になりました。
南側180度くらいに見える山々を望遠で。これくらいに広大な範囲の山々がはっきり見えてくれると文句の付け所もないというか……八ヶ岳と北八ヶ岳(蓼科山)の間の大きく窪んだ辺り、麦草峠の奥には奥秩父の山々も見え始めました。方面的に甲武信ヶ岳(三宝山)と思われます。ちなみに最高峰の北奥千丈岳や金峰山は赤岳付近の裏なので全く見えません。
山名入りです。八ヶ岳や南アルプスはもとより、意外にも中央アルプスの主峰が殆ど全て見えているという……現地から見た時は木曽駒ケ岳しか分からんなって感じでしたが。
八ヶ岳から中央アルプス、恵那山辺りに絞って望遠したもの。ほぼ全山が見渡せる南アルプスは圧巻。
中央アルプスを中心に更に望遠したもの。南アルプス赤石岳の手前には経ヶ岳と鉢伏山。鉢伏山の山頂には通信施設らしき建物が見えますね。少し離れた所に浮かぶ恵那山の存在感も中々のもの。
こちらは八ヶ岳と南アルプス北部&富士山。八ヶ岳と富士山の間に見える背の低い稜線が気になる。御坂山地とか御正体山とかの辺りだと思うのですが、山座同定を試みるには幾重にも重なりすぎてて難しい。
こちらは北アルプス方面。白山、笠ヶ岳から裏銀座、槍ヶ岳、奥穂高岳、前穂高岳といった並び。槍ヶ岳はこれまで西穂高岳の山体に隠れて見えなかったんですが、気付いたらそう遠くない距離にありました。
これから目指す奥穂高岳方面です。正面に高く聳えているのがジャンダルムですが、途中のピークに関しては現時点では把握できず。一体どれが間ノ岳でどれが天狗の頭なのか。
白山から笠ヶ岳、裏銀座、槍ヶ岳方面の山々を望遠で。大きく左右に伸びる笠ヶ岳の稜線の他、その右奥の存在感のある黒部五郎岳、双六岳の奥に見える薬師岳、鷲羽岳と水晶岳等の裏銀座方面の山々の連なり、遠く離れた所に堂々たる立山と様々な山が見えています。
山名入りです。笠ヶ岳山荘や鏡平山荘といった小屋の建物も見えていたり。
笠ヶ岳から野口五郎岳までの辺りを更に望遠で。薬師岳から北薬師岳に続く稜線、双六岳から右に伸びる平坦な尾根(通称滑走路)等、かなり細かい所まで見えます。ちなみに立山は雄山、大汝峰、富士ノ折立といった3つのピークが並んでいる様子まで確認できますが、その奥に位置する剱岳は見えません。
初日の焼岳以来となりますが撮ってもらいました。難所を前に思わず口角に力が加わってしまい、緊張気味の面持ち。
偶には花でも愛でようと山頂近くに咲くイワギキョウ。去年剱岳登った時に見掛けて以来でしょうか、険しい岩場に咲くイメージの高山植物。
これから目指すべき奥穂高岳方面の山々を最後に。もう岩場は十二分堪能した気がしますが、まだまだ序盤戦。岩三昧の一日はまだ始まったばかり。
西穂高岳→赤岩岳→間ノ岳
西穂高岳以降の難路区間に足を踏み入れます。一度下って登り返した地点が赤岩岳P1と呼ばれるピークで、そこまでは道も良いので難なく進めるとの話。
P1の登りから西穂高岳を振り返る。なんか凄い勢いで落ち込んでますが、特に苦労せず下降できました。
P1のピーク上から西穂高岳方面の展望。西穂高岳でUターンという方でも、山頂が混んでたらここまで足を伸ばすのもありですね。山容もこちらから見た方が鋭角気味で格好いい気がします。
P1というペンキの文字と共に、此処から先は難路ですよといった旨の看板が。否応無しに気が引き締まる。
大きな壁が立ち塞がっているかのような存在感の奥穂高岳方面の山々。左に槍ヶ岳、右に前穂高岳を携え、さながら両翼を広げているかのよう。
P1から少し進んだ所。一番高い所に見えるのがジャンダルムで、上に人が立っているのが見えます。距離としては2km弱と意外と近いんですが、標準コースタイムでは5時間近くかかります……時速300mくらいでしょうか。
西穂高岳までの道と同様、岩稜帯なので岩場のトラバースが多いです。道自体はマーキング多めで分かりやすいんですけど、難路と言われるだけあってやっぱり険しい。鎖も無いと困るような最低限の所にしかありませんし。
上高地方面の展望。未だ雲が多く残っていました。
進む先の山々。割と安定していた西穂高岳までの道と違い、ガレ&ザレの連続で如何にも不安定そうな尾根道です。震度3ぐらいで崩れそう。
ジャンダルムの手前に間ノ岳、その更に左手前に赤岩岳と見えているのですが、間に何度登り下りを挟むのか。
下ってきた道を振り返る。写真は水平に撮っているので、斜めの石に足を引っ掛けて、斜めの石を掴んで進んで行くという事になります……先が思いやられる感じの道。ペンキのマーキングはこれまで以上に多いのでルートを外れる心配は無さそうですが。
その直後に現れるのは谷底に落っこちていくような斜度の鎖場。ほぼ垂直で下った先も切れ落ちているので、ズルっと行くと一瞬で上高地に下山できます……というか実際にズルっと行く人がしばしば現れる場所らしく、地図にも危険箇所として記されてました。
このくらい急だとザックが引っかかってまともに下れないので、面倒でも谷に背を向けてのクライムダウンが安全です。というか殆どの岩場でそうして通過しました。
最初の難所を前に一呼吸、雲が消えつつある上高地と、その背後に聳える霞沢岳を眺めて和む。
下り終えたら登り返し。どの岩場も技術的には難しくないのですが、神経使いっぱなしなので疲れます。
赤岩岳P1を振り返った所。一つ一つの起伏の大きさと急峻さは西穂高岳までの区間の比ではないです。
中央左に見えるガレ場のピークが赤岩岳です。こうしてみると近そうですけど、その間は大きく落ちていて登り下りを一回挟む。
赤岩岳手前の下り。後々通るロバの耳もそうですけど、手がかりが少ない所をトラバース気味に下降する箇所が苦手ですね……足場もホールドも斜めで安定しませんし。
下り終えたら赤岩岳の山頂目指してのガレ場の急登です。こちらは特に難所という訳ではないですが、浮石が多いので注意深く進む。
浮石だらけの赤岩岳の登り。この付近は落石で頻繁にコースが変わるらしくマーキングも錯綜気味でした。
[8:00-8:10]赤岩岳
赤岩岳に到着。西穂高岳から300m進んだ程度ですが、細かい起伏が多くやけに時間が掛かりました。西穂高岳の辺りまで追い越し追い越されで歩いていた人も随分と先の方を歩いている……時間には余裕があるのでのんびりマイペースに。
赤岩岳からの展望……気付けば上高地の雲海は消えて無くなっていた。どのピークも視界を遮るものが無い360度の展望なので、景色を眺めたり写真を撮ったりする名目で休息を取れるのが良いですね。
次はこの場所以上に浮石だらけで有名な間ノ岳を目指します。
間ノ岳への登り返しは尾根を辿らず若干トラバース気味にコースが設けられているのですが、その途中見るからに危険そうな箇所が。
間ノ岳直下のザレ場の急登を望遠で……人が登っている姿が見えますね。見た目程には傾斜は急ではないのですが、浮石が積み重なったような足場は非常に不安定で、どれだけ注意を払っていても落石は必至です。
西穂奥穂の縦走において緊張した箇所は意外にも少なかったのですが、二箇所ほどやべえなって所がありました。ここはその二箇所の内の一つ。
先程のトラバース路に入る手前から間ノ岳の山頂を見上げる。大した標高差ではないので、登り返しはそこまで長くは無さそうですが……。
先程登った赤岩岳を振り返った所。こちらも山頂部はザレてますが下降は容易でした。
先程人が立っていた辺りです。案の定ザレザレで足を置くとズズズという音を立てて滑ります……とは言え思っていたより傾斜は緩く、地震でも起きない限り滑落の心配は無さそうな感じでした。
見た目程ではない……にせよ傾斜は結構あります。落石は気をつけててもやらかしそうなので、万一を考え後続の人に一声掛けてから進みました。
間ノ岳山頂近くなると傾斜も緊張も緩まります。登り返しそのものは先程登り返しを見上げた時に思った通り短いものでした。
間ノ岳→天狗の頭→天狗のコル
[8:50-9:07]間ノ岳
西穂高岳を出発してから1時間半で間ノ岳に到着。山頂看板みたいなのは見当たりませんが、右側の岩肌に間ノ岳の文字が。ひとまず小休止。
間ノ岳からの上高地方面の展望。右側、山頂に人の姿が見えるのが西穂高岳ですが、距離的に全然進んでないなというのが第一印象。南アルプスや富士山方面の稜線に雲が掛かり始めており、判別できなくなったピークも幾つか。
奥穂高岳方面の展望。次の目的地は正面ジャンダルムの中腹辺りに見える天狗の頭で、そこから一旦天狗のコルまで下った後、遥か高みに見えるジャンダルムまで大きく登り返す。
天狗の頭の手前にはかの有名な逆層スラブが見えています。どこからどう登るのか、遠目からでは把握できない。
槍ヶ岳の辺りを望遠で。穂先のすぐ左側には槍ヶ岳山荘の建物が見えます。左には立山と野口五郎岳。
東側、視線を下げてみると岳沢小屋の建物が見えました。山際みたいな所に立地していて良さげなロケーション。
天狗の頭目指して出発します。こちら側もトラバース気味にザレ場を下りますが、西穂側と比べると浮石は多少マシのような。
間ノ岳の少し先から奥穂高岳、前穂高岳、岳沢小屋など。奥穂高岳の登山においての主要コースである重太郎新道は岳沢小屋から背後の前穂高岳に直登するコース取り。あちらはあちらで登りが長くて疲れそう。
天狗の頭手前の鞍部までの下り坂。例によって90度近い急な下り坂ですが、感覚が麻痺してきてこの程度では苦にも思わなくなってたり。
標高を下げていく内に、次に登る天狗の頭が目の前に立ち塞がるように存在の主張を始める。ボスであるジャンダルムを目指して進んでいたら唐突に中ボスが現れたような感覚。
天狗の頭の山肌、逆層スラブの辺りを望遠してみると今まさに人がよじ登っているのが見えました。一見するとオーバーハング気味の垂直の岩を登る、一筋縄では行かなそうな難所ですが……。
天狗の頭方面。間ノ岳からの下りが中々手強く、進むのに時間がかかる。
逆層スラブの辺りを再び観察。左の写真の下の辺りに見える広場っぽい所が最鞍部で、そこから若干左に移動した所から鎖場が始まる。
東側、霞沢岳方面の展望。全体的に茶色っぽい色合いで、なんとなく秋らしい雰囲気です。
鞍部が近付いてきた所。険しい下り坂でした。
逆走スラブの直下に到着しました。間ノ岳と天狗の頭の間の最鞍部で、両者の頭を取って間天のコルと呼ばれるらしいです。逆走スラブは一見するとどこから登るんだって感じですが、先程人が登っている所を観察して予習した通り、まず鎖が垂れ下がっている左側へ移動。
登り返しの基部から見上げた所。逆層スラブと何度も書き綴っていますが、逆層というのは主にクライミングで使用される単語で、凹凸が下向きに突き出ている岩の事。岩と言えば通常上向きに凹凸があり、対してこちらは順層と呼ばれます。
つまり逆層のスラブ(平面な一枚岩)とは写真のようにのっぺりしていて手がかりの少ない岩という意味になります。
逆層スラブの登りに取り掛かる前に間ノ岳の方を振り返ってみる。恐らく右側をトラバース気味に下ってきたものと思われますが、どこからどうやって辿ってきたのか謎。
逆層スラブの登りです。傾斜が思ったより急ではないので、石が乾いているとフリクションが働いて意外とすんなり……というか全く問題無く進める道でした。ただ、下りでの利用だったり雨とかで濡れてたりすると恐ろしいだろうなと思ったり。
ちなみに右の写真の奥辺り、岩場を登り切る所が少し急峻で手がかりも少ないので難儀しました。鎖も錆び気味で細っちょろく全体重預けるにはなんだか心許なそうな感じでしたし。
逆層スラブを登りきった所から目前となった天狗の頭方面。山頂は写真左側の盛り上がりで、以降は緩い登り下り。緊張も解ける。
天狗の頭の手前から西側の展望。笠ヶ岳、黒部五郎岳、双六岳、左奥には白山。おなじみの並び。
天狗の頭の直下の登り。難所でもなんでも無い場所ですが、こういう普通の上り坂の方が体力的に堪える気がします。
[9:52-10:09]天狗の頭
賑やかな天狗の頭に到着しました。丁度奥穂高岳方面からスタートした方々とかち合う時間帯のようで人の姿も多く、難路区間とは思えない程に和気藹々とした空気。流石はシルバーウィーク。
天狗の頭からジャンダルム方面。ジャンダルムまであと一回の登り返しを残す所となりました……その一回の登り返しが今までとは比べ物にならない程に長い激登りなんですが。
ジャンダルム方面を単体で。正面に大きく聳え、いよいよ近付いてきたと思わせられる。
天狗の頭から上高地方面、前穂高岳と西穂高岳の間に見える景色。間ノ岳、西穂高岳とそれぞれピークの上に人の姿が見えますね。
もう何度目かという所ですが笠ヶ岳方面の稜線。白山も別山とかを含め端から端まで見渡す事ができ、その左手前には高山盆地が。槍ヶ岳、裏銀座、立山の方面も相変わらず雲は少なく、遠くの山まで見通せます。
岩場が好きではない自分としては、こんな所に来るのは多分一生で一度。折角なので記念に写真を撮ってもらいました。ジャンダルム方面がバックですが、ジャンダルムのピーク自体は手前の岩峰に隠れて見えません。
鞍部の天狗のコルはどこだろうと覗き込んでみますが、深々と落ち込んでいてよく分からず。
次の目的地である天狗のコルに向かいます。この区間は天狗のコルの手前に少し急な鎖場がある以外は特に問題無く進めます。距離もそこまで長くはない。
天狗の頭から下る途中からジャンダルム。飛騨側にトラバースしながら下っていきますが……正面に聳えるジャンダルムの標高差300m近い強烈な登り返しに圧倒される。
黒部五郎岳を正面に眺めながらの下り坂。若干ザレ気味ですが傾斜はそこまで急ではないです。
下れば下る程ジャンダルムを見上げるような形となり、威圧感も相当なものに。これ登り返すのか……と思わず溜め息。
天狗のコル手前からジャンダルムを見上げる。手前の方にはジャンダルムに向けて進み始めようとする人の姿も見えます。
コル手前の急な鎖場です。殆ど垂直くらいなので真下を見下ろすような格好。手がかりは豊富ですが、岩を巻くように斜めに通されているので少し下りづらかった。
天狗のコル→ジャンダルム
[10:28-10:43]天狗のコル
鞍部の天狗のコルに到着しました。コースタイム的には西穂高岳から奥穂高岳間の区間の中間ポイント的な場所で、ここから岳沢小屋に下るエスケープルート(難路扱い)が分岐していたりします。
体力的にはそうでもないのですが、一歩踏み外したりしたら終わってしまう所が延々続くのでだいぶ神経がすり減ってきた……集中力を保ち続ける為にも一旦休憩。
山を眺めてメンタル回復。V字に窪んだ鞍部という事もあって、時折冷えた風が通り抜けていき心地良いです。
笠ヶ岳から裏銀座方面の山々。視界に入っている山は粗方登っており、思い入れが多いものも多く見ていて飽きない……ぼんやり眺めていたらそこそこ回復しました。
こちらは岳沢小屋方面。小屋の辺りまでザレまくりで傾斜も急です。先日の地震の際は崩れて土煙が上がったとの事で、エスケープだとしてもこんな所は下りたくないなと。幸いエスケープせずに済みそうなので先に進みます。
さて、ぼちぼち登りましょうとジャンダルム方面の登り返しに着手。天狗の頭から眺めた際はとんでもない急登に見えていましたが、意外にも傾斜は緩い。普通の登山道レベルの上り坂で少し拍子抜け。
登っている途中、天狗の頭から笠ヶ岳方面の展望。長い登りなので景色を楽しむ余裕を持ちつつ進む。
地道な登り返し。難所ではない分、体力勝負的な感じの区間です。
逐一登っては景色を振り返り息をつく。そろそろ正午に近付いてきた頃ですが、この時間帯でも雲は殆ど見当たらない。快晴と言ってもよい青空が広がっていました。
天狗の頭を中心とした展望……左に霞沢岳、右に笠ヶ岳と見えます。天狗の頭に見えるかどうかはさておき、一際目を引く形をしたピークである事は確か。
登山道の様子。これまでの難所と比べるとマーキングは少なめなので、特に考えず歩いてるとコースを外してしまいがち。
岩にへばりつく黒い紙みたいなのは岩茸と呼ばれるキノコの一種。100g1万円くらいする高級珍味ですが、こんな所できのこ狩りを楽しむ余裕は流石に無い。
振り返ると天狗の頭の標高は越していて、再び西穂高岳まで見通せるようになりました。だいぶ歩いた気がしますが、西穂高岳から距離にして1km程度しか進んでいないという事実。
その西穂高岳のピーク上を望遠で。2人くらい人が立っているのが見えます。手前には先程の天狗の頭のピークの標柱。その奥に間ノ岳、赤岩岳と続いています。
ガレ場。この付近は浮石も少ないので安心して歩ける。
進む先の岩峰の幾つかを観察。ジャンダルムは中央左奥の岩峰の裏で、この地点からは死角となって見えない。
これまでは気ままに歩ける道でしたが、ジャンダルムに近付くにつれて次第に岩がちになり両手を使って登る所も増えてきた。
地道に登っている内に標高も高くなり、笠ヶ岳や裏銀座方面の山々も見下ろすような形となる。真下に伸びる白い川は穂高岳山荘からの下山路の一つである白出沢ですが、2020年の地震で崩落し通行止めとの事。
正面に聳える岩峰。巻くようにマークが付けられているのでそれを辿っていきますが……ジャンダルムは未だ姿を現さず。
振り返り西穂高岳。独標の方にいた頃は見上げるようであった山々ですが、今や随分と低く見える。
巻道からの尾根上への復帰。中央やや右側に見える岩の溝の辺りを登り返します。
尾根への登り返し。区間は短いですが傾斜が急で鎖が設置されていました。登りなら使わずに進めるかな……という程度の岩場。
登り返した所にテント場チックな広場があり、肩寄せあって2張り行けるかという程度の広さ。この区間内のテント適地としては天狗のコルが知られていますが、あちらよりも地面がフラットなので幾分か快適そうです。
広場からジャンダルム方面。登りはもう暫く続くようです。
広場から上高地方面。梓川が乗鞍岳の方に向かってまっすぐ、今回の登山のスタートの地点の中の湯付近まで見通す事ができます……よく見ると十石山の手前の山腹を横切る道路沿いに中の湯温泉の建物があるような。
霞沢岳麓に見える上高地のバスターミナル手前の川沿いには建物が多く立ち並び、ちょっとした集落のような様相。
暫く難所は無く、一般登山道レベルの登り坂が続く。
ここまで来ると西穂高岳もたくさん見えるピークの一つという印象です……標高は既に3000近く、視界に入る中で現在地より高いピークは遠くに見える乗鞍岳と御嶽山くらい。
延々続くようなガレ場の登り坂。主峰である奥穂高岳やジャンダルムが全く見えない状態で上りが続くので、今現在どれだけ進んでいるか把握しにくい。
緩い登り坂を上がり切ると正面には一際大きな岩の塊。天狗の頭ぐらいから見えていた、ジャンダルムを覆い隠すかのように立ち塞がっていた岩峰です……ジャンダルムを目指して登っていると常に見えているので、心の中でずっと偽ジャンダルムと呼んでました。
付近は展望台のように突き出ており、そこからの眺め。崖っぷちの上なので高度感は中々。展望も超一級。
先程見えていた偽ジャンダルムへ。こちらの岩場は巻かずに乗り越えるタイプ。やけに険しかったので途中、これ本当に登るのか?と自信が無くなり、引き返そうと思ったら少し先にマーキングを見つける。
偽ピークを乗り越えるとようやくジャンダルムが視界に入りました。既に目と鼻の先という距離で、山頂に立つ人の姿が見える。
少し近付いた所からジャンダルムと奥穂高岳のセット。奥穂高岳も山頂の祠が肉眼で見える程度には御近所でした。
[12:30-12:43]ジャンダルム取り付き
ジャンダルムの登頂は西穂高岳側からのみ可能……つまりこの場所を基点として山頂までのピストンという形になるので、荷物を置いて身軽になってから目指します。
写真中央の鎖が垂れ下がっているのが奥穂高岳方面へ向かうトラバース路で、こちらはジャンダルムを経由しません。ジャンダルムに登る道は写真の人が立っている辺りから左方面に続いています。
ジャンダルムの短い登りにも明確に道が存在し、岩肌を若干左に移動してそこから取り付くコース。豊富なマーキングに従って進みます。
ジャンの文字を辿り頂上へ。登り10分くらいとの事でしたが、鞍部からジャンダルムの頂上までは雑に登って5分も掛かりませんでした。登りそのものは急峻ですが、これまでの岩場と比べると区間も短いので楽です。
ジャンダルムの山頂が見えてきた所。老若男女、皆一様に我を忘れてはしゃいでる……そうさせる魔力がこの岩峰にはあるのでしょう。
ジャンダルムからの展望
[12:47-13:23]ジャンダルム
荷物が重さが次第に堪えてきてスタートから8時間以上掛かりましたが、思ったより余裕のある時分にジャンダルムに到着……ちなみに標高は遂に3000を上回る。大台を越えるような山に登ったのは去年の立山以来でしょうか。
よく写真で見かける天使の看板と奥穂高岳の山体。看板は2004年頃に突如として現れ、今ではジャンダルムのシンボルのような扱いになっているらしいです。剱岳近くの仙人温泉小屋のホームページ(※現在はリンク切れ)には製作者とされる方の製作の記録が残されており、その内容によると現在のものは二代目との事。
目印となるように親切心で置かれたようで、一見すると微笑ましい話なんですが……実はこの看板、許可を取る等して正規の手順を踏んで設置されたものでは無く、無関係の人間が勝手に残置していった所謂私製看板とされるもの。法的に色々とグレーな存在だったりするので、設置には賛否あるらしいです。
山頂の様子。西穂高岳よりは広いかなという程度ですが、端の方から急に落ち込んでいるので崖っぷちに立つのは危険です。
奥穂高岳方面の展望です。右側に前穂高岳、左側に穂高岳山荘、北穂高岳、槍ヶ岳と奥穂高岳を基点に稜線が延々と伸びているのが見えます。北穂高岳の背後には大天井岳、燕岳、餓鬼岳といった表銀座方面のピークも幾つか……今回の登山ではこの餓鬼岳もしくは燕岳辺りからの下山と考えていたので、恐ろしく先だなと遠い目。他、これまで見えなかった後立山連峰方面や頸城山塊辺りの稜線も見えますが、雲で埋もれつつありピークの判別は難しい。
本日の最終目的地である奥穂高岳や穂高岳山荘は距離としては非常に近い所に見えますが、奥穂高岳の右手前に見えるロバの耳、その先のガレ場を登りきった所にある馬の背と、このコースの核心部とも言うべき難所を幾つか挟む。
望遠ではないので主峰や要所のみですが山名入りです。奥穂高岳の右背後に浅間山が見えていたりします。
本日テントを張る予定の穂高岳山荘を望遠で。奥穂高岳と涸沢岳に挟まれた狭い鞍部にフィットするように収まっています。槍ヶ岳山荘程ではないですが、北アルプスの山小屋の中でも規模は大きい部類。
奥穂高岳の山頂を望遠で。コロナ禍という事もあって大賑わいという訳ではないですが、10人前後が蠢いている様子が窺えます。
両手を上げて伸びをしていたら手を振っていると誤解されたのか、こちらに大きく手を振ってくる人の姿が……無視するのも失礼だと思い振り返す。少し気まずい感じのコミュニケーションが無事成立。
左の写真は八ヶ岳とその右側、奥の方に向かってぽつぽつ続いていく盆地の様子。糸魚川静岡構造線(糸静線)と呼ばれる断層線で、ブラタモリを見てる人ならピンと来るでしょう。手前の広がりは松本盆地の塩尻の市街地付近で、小さな山を一つ挟んで奥に見えるのは諏訪盆地です。少し左側には諏訪湖らしき湖面も見えてます。
右の写真はこの日何度も眺めている上高地と霞沢岳です。霞沢岳も焼岳や西穂山荘辺りからは山体も大きく見えていましたが、今や周囲の山に埋もれているかのよう。
奥穂高岳、前穂高岳を除いた方面の展望。これまで歩いてきた西穂高岳方面は大きくうねりながらも起伏が激しく、恐竜の背中のような稜線が乗鞍岳、そして御嶽山まで続いている。
同じ方面を望遠してみたもの。相変わらず空は青く澄み切っていますが、南アルプス、中央アルプスといった山々は雲に埋もれつつありピークは判別しづらい。北沢峠左側の富士山もいつの間にか見えなくなっていました。
山名入りです。こちらも望遠ではないので主峰のみ。だいたいどんな感じか把握して頂ければという程度。
南アルプスから中央アルプス、御嶽山、乗鞍岳、白山方面の望遠です。晴天は終日続くと思われましたが、奥の方から雲が湧いているのが見える。
白山の辺りの望遠。こちらも地味ではあるものの美しい感じの稜線が続いています。高山盆地の奥に見えるのが荒島岳で、左側の一際存在感がある山塊が能郷白山といった所でしょうか。以前の白山登山の際に辿った三方岩山方面に続く念仏尾根も鮮明。
最後に北アルプス方面の望遠です。非常に多くのピークが見えていますが、残念ながら後立山連峰の五竜岳以降は雲に埋もれつつあります。
同じ写真の山名入りです。白馬岳はピークは埋もれていますが、後立山連峰を代表する山岳なので便宜上文字を入れています。
槍ヶ岳から奥穂高岳辺りまでの狭い範囲の望遠。妙高山や高妻山のピークも一応見えています。物凄く微妙な所ですが、立山の右側、富士ノ折立の右背後に剱岳らしき岩峰が僅かに見えていたり。
ここでも一枚撮って頂きました。これから目指す奥穂高岳をバックに思わず正座。
ジャンダルム→ロバの耳→馬の背→奥穂高岳
名残惜しいですがジャンダルムから下山。荷物殿にお待ち頂いている先程の鞍部まで戻りました。
荷物を回収します。両側に切れ落ちているので置いておくには少し怖い所でした……こんな所で荷物を落としたら洒落にならないので慎重に再セッティング。
[13:27-13:41]ジャンダルム取り付き
荷物を担ぎ直し奥穂高岳を目指しますが、初っ端から結構な斜度の岩場。少し雑な感じに取り付けられたステップがあるので、それを足掛かりにして這い上がります。
登り切るとジャンダルムを迂回するトラバース路と続きます。
崖っぷちの天空回廊って感じの道。景色は凄いけど高度感も凄い。踏み外せば問答無用で谷底行きです。
先に進むとロバの耳のピークが見えてきました。その奥に馬の背、奥穂高岳の山頂と続く。人の姿もちらほら確認できます。
ジャンダルムの裏側に到着しました……流石にここからの直登はフリークライミングでは厳しいでしょうね。オーバーハング気味に反り返っていますし。
引き続き奥穂高岳方面へ。正面に見えるピークがロバの耳ですが、山頂は経由せず左手前の岩壁を乗り越え、その後は飛騨側をトラバースしながら馬の背との鞍部まで下ります。この難路区間の中でも屈指の難所とされるポイント。
ロバの耳の手前の所まで下りました。間近から見ると意外と小さなピークですが……実はこの時点では目の前のピークがロバの耳であると気付いておらず、本物はもう少し大きいピークでトラバースも大掛かりなものだろう、といった謎の思い込みに惑わされていました。
ロバの耳と上高地方面の展望。言われてみれば鋭角気味の形がロバというか馬の耳にも見えなくもないですね。
ロバの耳の肩の辺りをトラバースするように道が続いています。当然、ここがロバの耳だと気付いていないので感慨も何もなく、特に意識せず通過してしまう。
ジャンダルムを振り返ります。西穂高岳側から見た時は幅が太く見えましたが、こちらの側から見ると細く切り立っていて印象も随分と異なります……一般的なジャンダルムのイメージとしてはこちらのイメージの方が強いでしょうか。
[13:57]ロバの耳
ロバの耳の肩の岩場。ここも岩場のクラックにつま先をねじ込むようにして登っていく。鎖はここも錆びていて心許ない感じなので補助的に使う程度で。
ロバの耳の肩から馬の背方面の下りです。この下り坂は斜度がきつい上、岩が全体的にのっぺりしていて手がかり足がかりとなるものが少なく通過に難儀しました。
少しずつ下降していきます。間ノ岳の所でも書きましたが、今回のコースで個人的にやべえなと感じた場所は二箇所あり、このロバの耳の下りもその一つでした。
これまでは難路続きと言えど進退窮まるみたいな場面は殆ど無く、案外スムーズに進めていたのですが……この大きな落差を前にして少し思考タイム。爪先程度の足場を頼りにカニ歩きしながら行ったり来たりコースを模索。ここは大丈夫そうだな、というホールドと足場を選びながら慎重に下降しました。
難所を越えた後も鞍部まで急な下り坂が続きますが、以降は特に問題無く進めました。写真中央下のマーキング付近が鞍部で、岩壁に手を携えバランスを取りながら下っていく。
正面には次に登り返す馬の背が聳えており、ザレ気味で石が白っぽくなっている所がコースです。写真中央少し下の辺りには実際に人が登っている姿も確認できますね。
鞍部からの展望……なんですけど、なんか急速に雲が湧いてきて頭上に重々しい雲の層が。つい数分前まで雲一つ無い晴天が続いていたんですが。
天候悪化にちょっと肩を落としつつ馬の背に登り返します。前の写真では垂直のザレ場みたいに見えてますが、意外にも傾斜は緩やか……ですが、間ノ岳の時のように浮石が多いので注意しながら進む。
これまで辿ってきたロバの耳とジャンダルムを振り返るも、濃いガスが流れ込んできてこの有様。
馬の背のガレの登りです。この頃になると斜度は緩くなる。
少し登った所からロバの耳とジャンダルム。雲に包まれた姿が幽玄で、これはこれで浮き世離れした感じで良いですが。
進行方向の雲の中、本日最後の難所である馬の背のナイフブリッジがうっすらと見えてきました
馬の背に到着しました……岩に書かれたその文字に、あれロバの耳は?となり、無意識に通過してしまった事にようやく気付いたのでした。
馬の背に少し近付いた所。このピークは両側が切れ落ちていて巻けません。上の方までマーキングが付いている事から分かるように、細い岩尾根を辿るように登っていきます。
[14:47]馬の背
ナイフブリッジとなった馬の背の頂上部。僅かな幅の岩の切れ目に爪先を置きながらカニ歩き気味に進んでいく。跨ったり四つん這いになったりして通る人も居るらしいですが、そちらの方が余程怖いような。
岩の切れ目は幅10cmくらいあるので、見た目よりは足場として安定しています。ガスが無ければ足場越しに谷底が覗き、恐ろしくスリルのある場所なんですが……視界不良気味で全く堪能できず。ちょっと残念。
ナイフブリッジを通過した所。難所とされるポイントは全て通過し、気付けば奥穂高岳の直下という所にまで辿り着いていました。
振り返る。ガスは濃くなる一方で、ジャンダルムどころかロバの耳すら見えなくなってしまった
殆ど目前まで迫った奥穂高岳を目指して進みますが……ジャンダルムから眺めた時は人の姿も多く賑やかな印象でしたが、今や人の気配というものが全く感じられない。ガスが湧いたので皆揃って降りてしまったようです。
ガスに埋もれつつある馬の背を振り返った所。
雷鳥がグーグー鳴きながらお散歩中でした。前日に西穂独標手前で見かけて2羽目ですが、やっぱりガスが湧いてくるとエンカウント率高いですね。
岩の上に佇む雷鳥。すらっとしていてスタイル良い。
奥穂高岳山頂の祠が見えてきました。雷鳥と戯れてテンションは僅かに回復しましたが、このもくもく具合を目の当たりにしたら消沈するしかない。
西穂高岳、正確には赤岩岳P1にも立っていた注意喚起看板の反対側に無事到着。難所は無事完歩となりました。
確かに険しい道でしたが想像していたよりも数倍歩きやすく、道中では景色を楽しむ余裕もありました……とは言え、テント担いで歩くような場所ではありませんでしたね。実際、テント装備の大荷物組は何十人とすれ違った中でも1人見掛けた程度で、他の人は小屋泊か日帰り装備の軽装でした。
奥穂高岳→穂高岳山荘
[15:07-15:45]奥穂高岳
本日最後のピークである奥穂高岳に到着。しかしガスに包まれて辺りは薄暗く、常に強風が吹き付けているので寒い。
奥穂高岳は標高は3,190mで南アルプス間ノ岳に並ぶ日本第3位の高峰。北アルプスでは最も高いピークになります。
山頂に鎮座する祠は安曇野にある穂高神社の嶺宮との事。奥宮(上高地にある)の更に奥宮みたいな位置付けでしょうか。
こんな視界ゼロに近い状態で至極アレですが、登頂は初めてとなるので周辺の展望を……左側の尾根が先程辿ってきた馬の背、ジャンダルム方面で、右側がこれから向かう穂高岳山荘方面です。なんも見えませんが一応。
山頂のほぼ360度展望です。流石は日本第三位からの展望!とはしゃぎたかったのですが、そう思い通りには行かないというもので……西穂から無事ここまで辿る事ができただけでも良かったと、そうとでも思っておきましょう。
ガスも分厚くなる一方なので、奥穂高岳を後にして穂高岳山荘方面に移動します。暫く山頂に留まっているともう一人登ってきて、その方とガスの中お喋りを楽しんでいたのですが、その後流れで一緒に小屋まで行くような空気に。
穂高岳山荘方面の道。難路から一転平凡とした道程で思いっきり気が抜けますが、足の方にも結構来ているので足取りは慎重に。
時折岩場もあります。人通りの多い区間だからでしょうか、全体的にザレ気味で滑りやすい。
ガレ場を進んでいく。一面ガスの中なので、どんな所を歩いているのか終始さっぱりでした。
崖っぷちみたいな所に着くと、突如として穂高岳山荘の赤屋根が視界に飛び込んでくる。小屋からの取り付きとなるこの辺りは殆ど垂直。頑丈な梯子が設置されているので何ともない道ですが、渋滞してたりすると落石が怖いだろうなとか思ったりしながら下る。
少し上の方から臨む穂高岳山荘は人の姿も少なくひっそりとしていました。翌日は雨との事なので宿泊者も少ないのでしょう。段々畑のように設けられたテント場もガラ空きで好きな場所に張り放題。
[16:14]穂高岳山荘到着
本日の最終目的地である穂高岳山荘に到着しました。この建物内で道中追い越し追い越され(というか殆ど追い越され)していた何人かと再会。この日の西穂出発組(早朝出発組)は自分の到着を最後に皆無事に通過できた事が分かったとの話を聞き、ひとまずの安堵。
ちなみに自分はその組で一番の大荷物だったので、大荷物の人とかテントの人呼ばわりされていたらしく、テントの人中々来ないけど大丈夫だろうか……といった風に心配されていたとの話。実際、ロバの耳の下降で手こずったり、奥穂手前で雷鳥観察したり、奥穂山頂ではなんだかんだ長居してしまったりと、タイム的には何かあったのかと思われても仕方ない亀さんペースでした。
とは言え、皆無事であったという事は喜ばしく、難所通過の余韻に浸るかのように暫しの間お喋りを楽しんだのでした。
流石に暗くなってしまうのでお喋りは中断、テントを張りに移動します。
小屋前の広場から谷の方を見下ろすと涸沢ヒュッテが近い所に見えました。ガスに包まれているのは上の方だけのようで、小屋の辺りや正面の低い稜線はよく見えます。
涸沢ヒュッテの建物と隣接するテント村です。300張りは可能という超巨大テント場なんですが、見えるテントの数はそのキャパを考えると決して多くはないなという印象。
後で聞いた話ですが、先日の地震で入山を控えた方が多かったらしいです。上高地で引き返した人も少なくなかったとか。
雲の層が少し上がった所から少し遠くの稜線が見えました。見える山は蝶ヶ岳の付近で、左の少し尖っている所が蝶槍、右側には蝶ヶ岳ヒュッテの建物が見えます。蝶槍の左背後に見える山は浅間山。こちらはジャンダルムからも見えましたね。
雲の奥は青空が広がっているので、この穂高の稜線付近だけ雲が引っかかっているかのような状態なんでしょう。
テント場の様子。小屋に近い所は埋まっていますが、かなり高い所までテント場が続いているので場所は選り取り見取りです。
他の人とは離れた場所にテントを張りたいタイプなので、一番高く一番遠い、晴れていれば見晴らしが良さそうな区画にテントを張りました。小屋方面の往復は大変ですけど、せいぜいトイレに行く程度のものですし。
今回の登山においての最大の難所を無事通過できたので祝杯的な何か。
食事風景。相変わらず質素極まりないですが、この日は一日中緊張しっぱなしで疲れているのか前後の日よりも心なしか美味しく頂けました。
天気予報を見ると翌日はやはり雨予報。次に歩く大キレット越えの区間も、この日歩いた所程ではないにせよそれなりの難所。岩が雨に濡れていると少し怖い。展望が楽しめないのも勿体無い。荷物が濡れるのも嫌過ぎる。
特に反対意見も無さそうなので翌日は停滞という結論に至りました。
翌日、停滞日の過ごし方
西穂奥穂の難路を越えた翌日、前日決めた通り穂高岳山荘にて停滞となりました。夜の8時に寝て朝の6時頃までぐっすり……流石に寝疲れたので暇潰しがてら小屋に足を伸ばしてみる事に。
小屋内は空いています。自分と同様に停滞している人も居るには居るとの話でしたが、大抵の人は上高地方面に朝の時点で下山してしまったとの話。
暇なのでグッズコーナーをうろうろ。Gendarmeと書かれたTシャツが中々イカしてて良いなと思ったんですが、丁度良いサイズのものが売り切れ。奥穂高岳関係のものを選ぶにしても、初登頂を果たした前日はガスで何も見えなかったという事もあり、この時点では奥穂高岳というピークに対して何の印象も感慨も無かったので一ミリも唆られず。
あまりにも暇過ぎたので、穂高岳山荘の裏手に聳える涸沢岳に雨具着込んで登りに行きました。小屋から往復30分程度ですが運動不足解消には丁度良い感じ。
暇潰しに登った涸沢岳の山頂、実は日本国内において南アルプス赤石岳に次ぐ8番目に標高が高いピークだったりします……とは言え雨風が酷いので、登頂したらすぐに引き返す。当然こんな天気なので歩いている人の姿なんて皆無です。
黄色の我が家に戻ってきました。こんな天気で客も殆ど居ないでしょうにお昼頃から小屋で軽食の提供があるとの事でしたので、それまでの間また昼寝です。
暇なのでテントの中の様子を撮影。雨脚はそこそこ強く結構浸水してくれました。ザックも濡れると背中が濡れたり滴ってきたりして困るのでカバーを装着しています。
お昼ご飯を食べに再び小屋へ。そういえば山小屋って本とか置いてある談話スペースが大抵あるよな……だったら暇潰しがてら本を読んで過ごすのもいいなと思ったんですが、コロナ禍という事もあってか宿泊者以外は談話スペースへの立ち入りが禁止でした。おのれコロナめ。
お昼ご飯です。メニューは色々あって迷いに迷う訳ですが……担々麺が今年始めた新メニューですのでよろしければとおすすめされる。ストーブで暖を取りたくなる程には冷え込んでいたので、身体が温まって丁度良いです。
食後は再びテントに潜り、そのままだらだらと過ごして19時頃に就寝……しかし雨脚は強まる一方。フライシートに雨粒が物凄い勢いで叩き付け、マシンガンのような騒音。当然、中々眠れない。
寝付けず横になっていると一瞬テントの外が昼間のように明るくなりました。直後に轟音、地響き。やべえぞ落雷だ、と慌てふためきすぐさまテントのジッパーを開いて外の様子を確認。
テント内に雨粒が吹き込んでくるような豪雨の中、他のテント組は既に寝入っているのか耐え忍んでいるのかで避難している様子は見られませんが……間抜けな事にテント場の一番高い所を選んでしまったので、落雷リスクは己のテントが一番高い。少し悩みましたが、雨雲の動きを見た限り2時間くらい雷が収まりそうになかったので、雨具を着込んで近くの建物に避難する事にしました。
建物に入ると自分と同様にテントから避難している方の姿があり一安心。その後、場所をストーブのある小屋の方に移して暫し談話。落雷からの避難、しかも寝入っているような時間帯ともなると気が滅入るものですが、話し相手が居てくれたおかげでそこまで憂鬱にならずに済みました。
その方は自分と殆ど同じコース取りで、西穂高岳から奥穂高岳、槍ヶ岳と辿る予定だったとの事。しかし地震の影響で道の様子が分からないので、西穂から一旦上高地に下って涸沢経由で穂高岳山荘に登り返したとの話……ちなみにこの人とは下山した中房温泉で再会するのですが、その話はまた後程。
◆追記:どうやらその方Youtuberだったようで、今回の雷騒動の件も含めた北アルプス登山の一連の様子を動画として投稿されています。中々臨場感があって面白いので、是非とも視聴してみて下さい。→チャンネル『まるたび/おまるの大冒険』
次回記事『槍穂高連峰縦走その4』に続く