前回記事『槍穂高連峰縦走その3』からの続きです。
停滞日という実質的なインターバルを挟んだその翌日のメインは、難所として知られる大キレット越え……の前に、前々日訪れた際に全くの視界ゼロだった奥穂高岳にリベンジがてら御来光登山に向かいました。到着時は前回同様ガスの中でしたが、次第に流れて日の出を拝める程に回復、やや雲が多いものの日本第三の高峰からの展望も堪能できました。その後は穂高岳山荘に戻りテント撤収。涸沢岳に登り返し北穂高岳、そして大キレットと難所が続きますが、それを上回る難所を既に越えてしまっているからか特に苦労せず南岳小屋へ。予定では槍ヶ岳まで向かうつもりでしたが小屋到着時点でガスと強風、このまま強行しても楽しめないなと判断。よって時間的には少し早いものの、この日は南岳小屋で行動終了となりました。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2021年9月】槍穂高連峰縦走についての情報と記録 - 山とか酒とか
目次
奥穂高岳往復(御来光登山)
[4:45]穂高岳山荘出発
この日は大キレットを越えて槍ヶ岳へ向かう、今回の登山においての第二の難所を控えた一日。
本来であれば前々日ジャンダルム越えをした時と同様に早々に出発したい所でしたが、初めて登った日本第三の高峰のイメージがガスで真っ白のまま更新されていないというのは個人的には無し。後ろ髪引かれるどころか引き千切られるような力で掴まれているので、スルーして先に進むという選択はありませんでした。
ちなみに大元の大元、予定の計画段階では天気が良ければ御来光見物がてら再度登っても良いなとも考えていたのですが、奥穂高岳を朝一で往復すると槍ヶ岳までの到達が時間的に少し厳しくなるという事で最終的な予定ではカットとなっていました。
しかし穂高岳山荘で一日停滞してしまった事で、その予定も既にグズグズに崩れているようなものなの。丸一日のビハインドから挽回なんて現実的には無理な話で、であれば今更予定に拘る必要も無い。予定通り槍ヶ岳に辿り着けないなら途中の南岳や北穂高岳で泊まればいいじゃない、という良く言えば柔軟、悪く言えば行き当たりばったりな考えに帰結し、この度の御来光登山の敢行と相成ったという訳です。
しかしテントを出た時点で天候は写真のような暗澹たる有様。雷雨を伴った前日の積乱雲通過後は晴れ予報で、現時点での雨雲レーダーでも雲一つ無い快晴。頭上には満天の星空が広がっているはず……なのですが、何故か頭上には重々しいガスが蟠っている。
しかし全くの視界ゼロという訳ではなく、雲の下には赤く染まりつつある東の空が見えてました。雲の層そのものは薄い。もしかすると途中で流れてくれるのでは? そんな期待を懐きつつ、テントそのままで奥穂高岳へのリベンジに赴きました。
[5:16-5:55]奥穂高岳
闇を纏った濃霧の海を泳ぐかのように進み、日の出の時間前に奥穂高岳に登頂。気温は氷点下に達するかどうかという程度で、前々日来た時と同様に風が吹き荒れている。寒さ対策としてカイロを持参してきたので何ともないですが、バッテリーが冷えてカメラとスマホの電源が頻繁に落ちるのが煩わしい。
山頂に鎮座する穂高神社嶺宮です。濃いガス漂う中、晴れるか否かの一か八かみたいな賭けに打って出たギャンブラーは自分くらいだったようで、山頂には誰一人と姿はありませんでした。時間的にジャンダルムや西穂高岳方面に早立ちする人を見掛けても良さそうですが、そうした人も見当たらない。
天気もこのままでは前回の焼き直しに終わってしまいますが……時折ガスが薄くなり頭上に青空が顔を覗かせる事も。好転を期待して暫し待機します。
目論見通り雲の層が薄くなり、燦然と輝く月が確かに見えました。もう一押しという所。
殻のように覆われていた雲の壁が大きく破れ、外の世界と繋がった瞬間。前日は丸一日雲の中だったので二日ぶりでしょうか。
こちらは東の空。雲がほぐれて薄くなった所に朝日がぼんやりと浮いていました。
やや雲がちながらも御来光を確認。煌々と周辺の雲を赤く染めている。御来光はよく見えるか全く見えないかのどちらかという事が経験上多いので、こうした見え方をするのは少しレアな気が。
御来光見物というミッションに関しては無事コンプリートした訳ですが、天候は回復傾向で雲はどんどん流れていく……更なる好転も期待できそうだという事で、もう暫く山頂に留まってみる事に。
南側、乗鞍岳や御嶽山方面を覆っていた雲が途切れて視界が広がりました。奥の方、遙か先の地平線まで見通せる……という事は、やはり雲が掛かっていたのはこの付近だけだったのでしょう。
乗鞍岳と御嶽山を望遠で。共に3000m峰ですが、そうした山を見下ろせる高さのピークというと数が限られますし、登る機会となればもっと限られる。
前々日登ったジャンダルム方面の雲が流れてくれました。真ん中の丸く突き出た岩峰がそれですが……ジャンダルムから奥穂が近くに見えたのと同様に、奥穂から臨むジャンダルムもまた近くに見える。
ジャンダルムを望遠したもの。実は今回登ってみるまで、名前は辛うじて知っている程度のピークでした。ですが、こうして奥穂高岳の山頂から見てみると……なるほど、憧れのジャンダルムと言われる所以が理解できるような気がする。近いながらも近寄りがたい雰囲気がなんとなく。
ジャンダルムを中心とした大展望。こうして視界が広がる事もありますが、すぐに雲に覆われてしまうので慌てて写真を撮影。笠ヶ岳を始め埋もれているピークも多いですが、遠く離れた中央アルプスや南アルプスの稜線は鮮明。
こちらは吊尾根越しの前穂高岳方面。猛烈な勢いで雲が流れ、展望は目まぐるしく変化する。
薄いガス越しの太陽。日も高くなりつつあるのか、次第に周囲も明るくなってきました。
前穂高岳から南アルプス、中央アルプス、乗鞍岳、御嶽山方面の展望。到着時点では少しは見えてくれると良いな程度の期待でしたが、僅か30分の間にここまで視界が回復するとは……未だ誰の姿も現れませんし、天候好転ギャンブルの結果は自分の一人勝ちという事で。
南アルプスから中央アルプスにかけての望遠です。富士山こそ山頂部が雲に隠れてしまって判然としませんが、南アルプスの主峰は深南部も含めて概ね確認できます。中央アルプスも中腹辺りまでは若干埋もれていますが、木曽駒ケ岳の右側に空木岳や南駒ケ岳辺りのピークが、手前の稜線との明暗差でよく見えています。
御嶽山を単体で。こちらはかなり鮮明で、山頂の剣ヶ峰の他、手前に摩利支天岳、少し離れた右側に継母岳と細かくピークが見える。
ジャンダルムから笠ヶ岳方面の展望。笠ヶ岳は先程と同様に雲が乗ってしまって確認できませんが、その左奥には白山の稜線が薄いながらも見えます。陽光が当たり部分的に赤く染まるジャンダルムは厳しくも美しい。
雲は随分と流れてくれましたが、太陽は未だ雲の中を脱しておらず輪郭線が朧げ。山頂の祠の存在も相まって神秘的に見えます。
太陽を入れての東側の展望。雲が少し多いものの、これだけ見えれば十分というもの。
露出を変えて撮ってみたもの。前穂高岳の背後には八ヶ岳の稜線も見えてます。前穂高岳は西穂高岳から見上げた時は間に吊尾根を挟んでいて距離を感じましたが、こちらから見下ろすと意外に近く見える。簡単に往復できるのでは……という誘惑はなんとか振り切る。
再び雲に飲まれた太陽。しかし既に勢力を取り戻しており、分厚い雲越しにもその姿は確認できる。
前穂高岳方面の道標です。前々日は道標以外何も見えず何がなんだかといった状態でしたが、この日は視界もあり一帯の大凡の雰囲気は掴めるといった所。
先程の看板と前穂高岳、明神岳へと続く稜線。西穂奥穂の稜線よりも数倍険しそうですが、明神方面は完全にクライミングのコースで辿るのは容易ではないです。
天気は良くなる一方なのでもう少し粘っても良かったのですが、この日も難所を控えたそれなりにハードな一日。名残惜しいですがテント張りっぱなしの穂高岳山荘に戻ります。
山頂から下は依然としてガスの中でしたが、この頃になるとちらほら登ってきている人が居て、御来光見えました?と口々に訊ねられる。山頂の雲が抜けてくれて今頃は展望も……と返すと皆弾むような足取りで山頂を目指していった。
雲は概ね流れてくれましたが、槍ヶ岳を始めとした北アルプスの他の山々は未だ深々と埋もれていました。この広大な山域において、奥穂高岳のみ都合良く日の出に合わせて雲が抜けたのは僥倖という他ないでしょう。
その槍ヶ岳方面の山々も回復傾向にあります。穂高岳山荘を挟んだ先の涸沢岳の山頂が薄いながらも見えつつあります。
鞍部にすっぽり収まっているかのような穂高岳山荘の遠望。一際高い所に張った自分のテントが目立つ……こんな所に張ったせいで前日の雷騒ぎの時に避難せざるを得なくなった訳ですが。
穂高岳山荘→涸沢岳
[6:18-7:27]穂高岳山荘
1時間半ぶりに穂高岳山荘に戻ってきました。出発時点では人の動きと言えば小屋のスタッフが食事の準備に勤しんでいる程度のものでしたが、この頃になると朝食を終えた宿泊客が小屋前で身支度を始めていました。
登山している時って意外と冷静に人を観察する機会って無いのですが、テントを撤収しながら何気なく人の動きを眺めていると色々な種類の人がいる事に気付く。奥穂高岳へのピストンを前に気合を入れる人、マイペースに小屋前でコーヒー淹れて一息吐く人、高齢の同行者を引率しアンザイレンでザイテングラートを下降していく人、恐らく上高地からカモシカ夜行で歩いてきたと思われる超軽装のトレイルランナー……まさに十人十色といった感じ。
小屋前からの展望。手前には平坦な山頂の蝶ヶ岳、奥には浅間山、蓼科山、八ヶ岳といった展望が。この調子で天気がどんどん良くなってくれると有り難いんですが、そう都合よく事が運ばないのが山の天気というもの。
テント場の少し高い所に佇むぽつんと一軒家。日が出てきてくれたおかげで少しは乾いてくれたかなと期待しましたが全然でした。持ち上げると滴ってくるレベル。
テントを撤収して二晩お世話になった穂高岳山荘を後にします。展望の素晴らしい一等地……に張ったんですけど、堪能する時間は殆どありませんでしたね。
逆光気味で暗くなってしまいましたがテント場からの展望。撤収を始めた時点では雲の量もまだまだ多い。
テントを畳んだりしている間に雲も流れ、つい先程御来光登山してきた奥穂高岳の全容が露わになりました。
テント場は涸沢岳に続く登山道が貫いており、自分と同じ北穂高岳方面に行くと思われる人もちらほら通り過ぎていく。難所ではあるものの、槍ヶ岳と穂高岳という北アルプスを代表するピーク同士を結ぶコースなので、命知らずの物好きしか行かない西穂奥穂なんかと比べると往来はずっと多いです。
撤収完了時点ではこの雲一つ無い晴天と迫力ある奥穂高岳の雄姿。もう一度登り返したいという気持ちが暴れ出しそうなので、なんとか堪えておく。
小屋から奥穂高岳方面の登り返しを眺めているとと人の姿が。実際は大した岩場ではないのですが、こうして遠目から見ると垂直に近く、岩の壁に張り付いているように見える。
奥穂高岳の山頂付近を望遠で。山頂の上に立つはずの祠が見えないので、角度的に山頂は見えていないという事になる。
撤収完了……飛ぶ鳥跡を濁さず。背後には常念岳や蝶ヶ岳が見えていますが、その更に後ろにはこれまであまり見えていなかった稜線が。一際高い浅間山の左の方に見えるのは四阿山や志賀高原の山々。
パッキングを済ませて北穂高岳方面に再出発、まず最初に涸沢岳への登り……気付けば笠ヶ岳の雲も取れつつありました。
御来光登山を満喫していた所為で予定時刻よりも2時間遅れの出発となり、この時点で当日中の槍ヶ岳行きは黄信号。しかし大キレット越え程度であればまだまだ余裕がある時分でした。進める所まで進もう。
少し登った所から奥穂高岳と穂高岳山荘。ここまで移動すると先程は見えなかった山頂の祠が見えます。左側には前穂高岳が見える他、右にロバの耳、ジャンダルムへと続く稜線が。その更に右側、大きく下った所に見えるピークが西穂高岳でしょうか。
涸沢岳の登り。前日も雨の中暇潰しに登りましたが、その時は何一つと見えなかったので、実質的には初めて登る山であり初めて歩く道でもある。
小屋を挟んで反対側の奥穂高岳と同様にこちら側も岩山ですが、小屋から20分で登頂できてしまうので幾らかお手軽感あります。道も険しい所は特にありませんし。
傾斜の緩いガレ場が続く涸沢岳の登り。このオクホの文字は前日ガスの中で見掛けたのを覚えている。
涸沢岳山頂の少し手前から西側の展望。少し雲が掛かりつつも笠ヶ岳の稜線が左右に伸び、右端の所には黒部五郎岳が見えています……しかし奥穂高岳に登った時点では見えていた白山が雲に埋もれているのかで姿を完全に消している。風上である西の方角に雲、つまり湿気が多いという事はこの稜線もいずれは?
涸沢岳→最低コル
[7:45-8:00]涸沢岳
今回の登山で二回目の登頂となる涸沢岳に到着しました。前回は豪雨と暴風に加えてガスで視界ゼロという三重苦だったので、5秒の滞在の後に引き返してしまいましたが……今回の展望は期待できそうですね。
北側、槍ヶ岳を中心とした展望。雲が多少残っていて埋もれているピークも多いですが、全体的な雰囲気は掴める程度には晴れています。これから向かう涸沢岳の下りや、双耳峰の北穂高岳の先に見える大キレットの地に落ちるかのような深さが印象的。
望遠じゃないので細かいピークが見辛いですが山名入りも一応作ってみました。黒部五郎岳を始め雲に隠れているピークも多いので参考程度に。
少し望遠気味に撮ったもの。槍ヶ岳が雲が引っかかったり流れたり……そんな事を繰り返している間に雲の量が少しずつ、しかし着実と増えつつあります。先程、白山方面を眺めた時に危惧した通りの展開になりつつある。
こちらは南側、奥穂高岳方面の展望。一つ前の槍ヶ岳方面の写真と合わせれば360度の展望という所。奥穂高岳を中心に左側に前穂高岳、右側にジャンダルムと西穂高岳。焼岳辺りを歩いていた頃、行程前半で見えていた構図とは鏡映しのように正反対の並び。
こちらも山名入りを。南アルプスの山々もピークの一つ一つが確認できますが、逆光気味で少し霞んでしまっています。
山頂から北穂高岳方面に少し進んだ所からの展望。写真右側、手前に3つの起伏があり、その左のガレ積みから急激な下りが始まります。
ガスが湧いていれば雷鳥が散歩してそうな雰囲気ですね。快晴といってもよい現在は気配すらない。
北穂高岳方面に進むと急峻な下り坂が始まります。涸沢岳から北穂高岳の間も大キレットと同様に難所と知られる区間。奥穂高岳以降道も良くハイキング気分になりかけていたので、少し気を引き締めて進む……しかし緩い上りから一転して物凄い下りって、なんだかジェットコースターみたいな。
西穂奥穂の縦走の時と同じく、落ちたら助からないような傾斜が急な岩場です……とは言え危険そうな所には大抵鎖が設置されている上、石に杭を打ち込んで作ったステップも幾つかあるので安心感がある。
この辺りは意外と滑落事故が多いらしいですが、高度感でテンパったり、飛ばそうとして三点支持が疎かになったりしない限りは問題ない気がします。
崖っぷちのトラバース。北穂高岳はすぐ目の前という所に見えていますが、その間は深く落ち込んでおり鞍部を挟んだ登り下りも相応に大きいです。標準コースタイムも涸沢岳から2時間半と意外に掛かる。
地図に乗っていないような小さな岩峰を巻いたり乗り越えたりしながら進む。マーキングは豊富で道筋もはっきりしているので、迷いなく進む事ができます。
高度感のある岩場の下降。こういう所は雨の時に通りたくないですね……一日停滞したのは正解でした。
遙か先に聳える槍ヶ岳と、その手前の大キレットを臨む。穂先は見えたり見えなかったり……というかこの頃になると雲が増えてきて見えない時の方が多いです。
最低コルまで基本的には下りなんですが、尾根がギザギザの岩尾根なので登り下りが多い……が、乗り越えずに巻いてしまう事もしばしば。
岩場の巻道の様子。それなりに人が通る道のようで、極端に歩きにくい箇所みたいな所はありません。
涸沢岳方面を振り返る。この岩の塊からどうにかして降りてきたという事になります。その脇には奥穂高岳の山頂が見えていて、少し離れた左側には前穂高岳という並び。
最低コルを挟み、これから向かう北穂高岳を正面に見据える。大きく下方に切れ落ちており並々ならぬ高度感。
スリルある崖っぷちの鎖場。岩を巻きながら少しずつ高度を下げていく。
すぐ目の前に見えているはずなのに、中々距離を詰められない北穂高岳。下りはもう暫く続きそうな様子。
急峻な梯子の下り坂。直後の断崖絶壁とその先に広がる谷筋の景色。足は竦みますが、山肌を彩る紅葉が秋らしくて良いですね。
ようやく最鞍部に近付いてきたかという所ですが、前方に見える北穂高岳は先程の涸沢岳と殆ど同じくらいの標高……という事は、下った分だけ登らなくてはならないという事で。
痩せた岩尾根のトラバース。正面に見える沢は槍ヶ岳の直下を源流とした飛騨沢で、川幅が少し広くなった所には槍平小屋の建物も見えます。
岩壁に備え付けられた鎖。傾斜はそこまで急ではないですが、足元の岩がのっぺりしていてグリップが利きにくい。
これまで続いた穂高シリーズの締めくくりとなる北穂高岳を正面に見据える。奥穂、西穂、前穂とはまた違った厳しい感じのピークで、登り返しも中々手強そう。
最低コル→北穂高岳
[8:46]最低コル
たぶんここが最鞍部だろうな、という所に到着。手前にD沢のコルという別の鞍部があり、そこからゆるゆる登り下りを続けた先にあります。
何の変哲もない鞍部ですが、写真右側に錆び付いた円形のプレートが置かれており、この場所が涸沢岳から北穂高岳間の最低コルである事を示していました。
最低地点……となれば次は登り返しです。まるで壁のように聳える北穂高岳方面の岩峰、というか岩の塊を見上げて一息。
南側、涸沢カールの方を見ると穂高岳山荘からも確認できた涸沢ヒュッテの建物が。テントの数は幾らか減りましたが、涸沢を基点にして周囲のピークを周回したりピストンしたりするコースも人気なので、この時間帯でもちらほら残っている。
反対側、これまで歩いてきた涸沢岳方面ですが……ここに来て不穏なガスが流れ込んできました。
朽ちた古城のような雰囲気の北穂高岳。少し進んだ所から見上げるとピークの辺りにガスが掛かっているのが確認できました。天候の悪化は予想できていたけど予想より早かった。
涸沢カールです。死角となって小屋は見えなくなりましたが、斜面に雪渓が残っているのが見えます。量はこうして見ると僅かですが、一年通して雪が溶けない万年雪との事です。
北穂高岳方面の登り坂です。この時点では頭上に青空が広がっていましたが……。
数分後、少し進むと行く手を立ち塞ぐかのようにガスが立ち込めていました。今度のガスは層が厚いようで、辺り一帯が日中とは思えない程に薄暗くなる。
前の写真で看板に記されていたように、ここから先は奥壁バンドと呼ばれる難所との事。
奥壁バンドの岩場のトラバース。足場の狭い道が暫く続きますが、登りで使う分には特に問題無く進めました。ガスってしまったおかげで高度感も何も無く……。
なんだかよく分からない間に通過していた難所、奥壁バンド。ここは是非とも天気の良い時に通過したかったですね。
以降も岩場が続きます。両手が必要なレベルの傾斜はありますが、足掛かりは多いので難なく通過……地道な登りを続けていると頭上には青空が。ガスが抜けてくれたのではと気も足も逸る。
しかし直後、再びガスが立ち込めてきました。とは言え天候が流動的なので、もしかしたら……と僅かに期待を持ちながら進む。
安定した足場のガレ場の登り。このまま進むと前方のガスに突っ込む事になりそうですが。
暫く真っ白で視界ゼロの状態が続きましたが、もう少し進むと再び青空……ですが、結果的に言えばこれが本日のラスト青空となりました。正面のロケットの発射台みたいな岩は普通に巻く。
いよいよ北穂高岳が近付いてきたという所。北穂高岳は南北に二つピークがある双耳峰で、正面に見えるのが南峰。ガスに巻かれるのか切れてくれるのか、変化の度に一喜一憂しながら進む。
南峰手前の岩場のトラバース。ここも高度感が中々の所ですが、いかんせんガスのせいで恐怖も魅力も半減。難易度としては足一つ分以上の足場が続いているので見た目程には難しくないです。
岩場での譲り合い。こういう場所で鉢合わせるとお互いどうぞどうぞみたいになりがち。今回は自分の方が登りだった事もあり、どうぞどうぞされて先行する事に。
ガスの中の岩場は怖くはないけど面白くもない。ただ黙々と進むだけという感じになる。
正面左奥に見えるのが北穂高岳南峰のピークですが、登山道はピークを経由せず涸沢側を巻いて北峰や北穂高小屋の方へと続いています。
このマーキング乱舞の下降地点から正面に進めば南峰のピークに登れるのですが、このガス溜まりの状況ではその事に気付かず下り始めてしまう。まあ登った所で視界ゼロでしょうし別にって感じ。
南峰手前からの短いザレ場の下り坂。正面左奥に辛うじて見えるのは蝶ヶ岳方面の稜線です。
[9:52]南峰分岐
涸沢方面の分岐に到着しました。地図上では南峰のピークと殆ど重なってるかのように見えますが、分岐はその崖下にあるので直接は登れない。
北穂高岳……その北峰に向けて進みます。しかし、こうも向かう先にガスが立ち込めていると進む気も無くすというもの。テンションも下がれば歩行ペースも下がる。
北峰に向けての最後の登りです。登り返しそのものは短く、分岐から10分掛かるかどうかという程度。
岩の切れ目から覗く涸沢ヒュッテ。先程と見える角度が変わり、入口がこちらに向いている。
テント場もそうですけど小屋の方も結構な規模のように見えます。一体何席あるんだっていう展望テラスが圧巻。少し早めに着いてビールでも楽しみたくなるような雰囲気ですね。
北穂高岳→北穂高小屋→A沢のコル
[10:03-10:10]北穂高岳北峰
坂を登りきった所が北穂高岳北峰です。穂高連峰の幾つかの主峰の中でも北端に位置するピークで、360度の山頂からは大キレットを挟んで槍ヶ岳が見える……というものの展望はこの通り0度展望。けど目を瞑ればなんとなく浮かんでくる。多分。
山頂からは直下に位置する北穂高小屋の赤い屋根が見えます。3000m峰で山頂から直下とも言える所に小屋があるというのは珍しいのでは。同じく山頂直下の小屋とされる笠ヶ岳山荘とかよりも直下度は高く、赤岳頂上山荘とどっこいくらい。
穂高岳山荘程ではありませんが、こちらの小屋もそれなりの規模。建物は道を覆うようにして立ち並び、一つの町のような雰囲気。
[10:11-10:46]北穂高小屋
日本の営業小屋では最も標高が高い所にあるとされる北穂高小屋に到着しました。山頂直下の非常に目立つ場所に立地しており、後に訪れる槍ヶ岳や大天井岳からもその建物が確認できる。
小屋前はテラス席となっており、ついつい寛いでしまいたくなるロケーション……天気さえ良ければですが。
雲が掛かっているのは標高の高い稜線上のみのようで、意外にも谷側の方は見通せます。先程と同様に涸沢ヒュッテの建物も臨める。
一瞬だけガスが抜けて常念岳から蝶ヶ岳方面の稜線が垣間見えるました……そして、その奥に見えるのは青空。やはり北アルプスの主稜線にのみガスが掛かっているような状態なんでしょう。
テラス前で大キレット突入前の息抜きをしているとランチ営業の時刻を迎えたようで、小屋の人が外に出てきて「今からカレーの提供始まりましたのでよろしければ……」との悪魔の囁き。
ここはガスで落ち込んだ気分を鼓舞する為にも注文。コーヒーは前々日、西穂高岳で出会った人に北穂高小屋のコーヒーは美味いから一度飲んどけ的な事を言われ勧められたので、こちらも合わせて。
カレーは山小屋ではありがちの甘口カレー……かと思いきや、結構コクがあって本格的な感じ。山小屋のランチメニューってレトルトだったり冷凍だったりする事が多いですが、カレーは一から作ってる所が多い(恐らく従業員の昼食を兼ねている)ので迷った時のチョイスとしてはおすすめです。
コーヒーの方は、山小屋のコーヒーとしては珍しくハンドドリップで淹れているようで深みのある味わい。ブラジルベースのブレンドで、酸味が若干感じられるミディアム寄りのハイローストかといった所(適当分析)。なるほど、おすすめされるのも納得の味わいでした。
自分の普段の登山スタイルとして、ミル済みのコーヒー粉を持参して朝食後にペーパードリップして目を覚ますのが日課でもあり慣習化された儀式でもあったりするんですけど、今回は荷物軽量化の一環でコーヒー一式は持参せず。故にドリップコーヒーは久しぶりで、尚の事美味しく感じられる。
そしてクオリティもそうですが、何より代えがたいのはこのロケーションでしょう。しかし、この上でガスが無ければ最高だったのに……と画竜点睛を欠いているような状況を目の前に、溜息混じりにコーヒーを啜るのでした。
北穂高小屋到着時点で完全にやる気が消失していましたが、カレーとコーヒーのお蔭で幾分か気力回復。重い腰を上げて大キレット方面へ……以降、南岳小屋まで再び難所区間となりますが、開始からこんな感じのザレた急坂で先が思いやられる。
北穂高小屋、先程カレーを掻き込んでいたテラス席付近を見上げた所。今回は昼食利用のみでしたが、こじんまりしていて良い佇まいの小屋でした。
しかし行く先はガス立ち込める白の世界。道も傾斜が急な上に浮石も多く歩きにくい。小股歩きで進んでいく。
完全に真っ白だったら即座に気が滅入っている所ですが、先程同様に標高の低い所は雲が少ない様子で、展望も最低限レベルですが楽しめそうな雰囲気。奥の川筋の辺りは涸沢から下流方面に進んだ先の横尾谷でしょうか。右奥には蝶ヶ岳の稜線も一応確認できる。
ザレまくりの急坂を下降する。右の横尾谷の左側にオアシスのような池塘、北穂池が見えます。周囲も良い感じに紅葉が進んでいて、あんな所にテント晴れたら……なんて妄想しながら下る。
浮石注意的な奴。浮ついた足取りだとすっ転んだ時に大事なので、注意深く慎重に。
第一弾のザレ場は下りきったかなという所。途中でトラバース気味に左に舵を切ります。
尾根に近付くと岩場っぽくなります。この時点ではそこまで急でもない、ノーマルな岩場。
北ホ……なんだか力抜ける文字。思えば奥穂もオクホって書いてある事が多かったですが、ペンキって経年で褪せるので簡単な文字の方が良いのでしょう。
雲が少し抜けてくれて常念山脈の山々が見通せるようになりました。右から蝶ヶ岳、常念岳、東天井岳という並びですが、大天井岳はそれより更に左の雲の中……天気はアレですが、視界ゼロって感じではないので気分も少しだけ持ち直してきました。
当時は大天井岳だと思って撮ったもの。実際は横通岳と東天井岳で、山頂近くをトラバース気味に通された縦走路も微かに見える。
東側方面は楽しめる程度には展望が回復しましたが進行方向、本来であれば南岳や槍ヶ岳が見えるであろう方面は濃いガスに包まれています……しかし、こうもガスで行く先々のろくにピークが見えないとなると、一体どこを歩いているのかよく分からなくなる。
東側に見える常念岳だけが楽しみと言っても良い状況。せめてもう少し雲が流れてくれれば……と期待しながら進む。
進行方向は相変わらずガスもくもくで何が何だかという感じ。スリリングな岩場が続いても対して高度感が湧かないので何の感慨も湧かず進んでしまう。
再び現れたザレ気味のトラバースです。足元の矢印の先、大キレットの脇の辺りに残雪が見える。
岩稜帯の巻道も別段変な所はなく普通に進めます。濃霧時の為の物かマーキングがちょこちょこ豊富。
岩場の様子。鎖場やステップが多いので冷静に対処すれば問題無く進める道。
ザレの急坂。そこそこ傾斜がきついからか鎖が設置されていました。ここも浮石多めですが坂自体は短い。
少し進むと進行方向の雲が若干抜けてくれました。手前から伸びる切り立った岩尾根や、奥に見えるA沢のコルの鞍部なんかも見通せるように。
何事も無く進めていた所から一転、少し険しそうな岩稜帯です。ガスが切れてくれたお蔭で中々のスリル。
岩場の真下には先程も見えた残雪が。周辺の広がりは本谷カールという圏谷らしく、氷河による侵食で抉られるように形成されたもの。険しい山々の中にぽっかりと空いた平坦な空間がどこか異質的な雰囲気。
先ほど見えた岩場の続きです。この付近からA沢のコルを越えて長谷川ピークの辺りまでは急峻な登り下りが続く、大キレット越えにおいて特に難所とされる区間らしいです。
間近から岩場の様子。岩が斜めっているので、身体が谷底の方に引っ張られないように直立の体勢を崩さず進む。
斜め岩場地帯の後半には御親切な事にステップが設けられていました。岩尾根はそのまま先の方に続いていますが、先の矢印に従って途中で巻く。
岩場のアップダウンも次第に激しくなってきました。左側に見える稜線は笠ヶ岳方面ですが、やはりこちらも依然として雲の中。
この垂直の岩場の下りが大キレット越えの核心部の一つとされる飛騨泣きです。下りだと足場が見えづらいので、覗き込んでシミュレーションしながら慎重に下る……とは言えステップに成り得る岩は多いので難易度そのものは高くはないです。
飛騨泣きを下ってきた所。中央の丸印の岩の上から降りてきました。こうして離れた所から見ると大した事ないですが、上に立つと一つ前の写真のような高度感に。
飛騨泣きを少し手前から。ちなみに飛騨泣きとは、岐阜県側(写真手前側)に落ちると助からんぞ、という意味らしいです。実際、カールが広がっている信州側と比較して此方側は谷底にすっぱり切れ落ちてるので、いざ落ちたら五体満足では済まないでしょう。
その後は再びザレザレの下り坂。左側、少し先に見える雲が掛かるか掛からないかというピークが大キレット手前の長谷川ピークで、その手前辺りにこの坂を下った先の鞍部であるA沢のコルがあります。
ザレと岩場がミックスした激下り。写真中央下部の辺りが長谷川ピークとの間の鞍部であるA沢のコルで、石に記されたその文字も確認できます。滑りやすいので変な岩場よりも緊張する。
一つ前の写真を少しワイド気味に広げてみたもの。スリルある下りでした。
長谷川ピークと笠ヶ岳方面の稜線。A沢のコルまで下った後も再び登り返しが……大キレットまで素直に下らせてくれません。
ザレ場を下ったり岩を巻いたりしながら急坂を下っていきます。ここも浮石多めで恐怖ですが、見た目よりすんなり下れた気が。
急坂を下りきってコルが近付いてきた所。目の前には威圧感のある長谷川ピークの登り返しが……ガスってていまいちよく見えない。
A沢のコル→長谷川ピーク→大キレット
[11:50-11:57]A沢のコル
長谷川ピークの登り返しを控えたA沢のコルに到着。広々とした所ですが、前後に急峻な斜面がありV字に切れたような地形で、後に通過する大キレットよりもキレット感あります。
先程下ってきた北穂高岳方面の斜面です。よく下ってこれたなというような岩の塊。
A沢のコルから長谷川ピーク方面。大きな登り返しは無く、暫くは小刻みな岩場のアップダウンが続く様子です。大キレットは稜線続き、写真中央左のザレている辺りかな。
A沢のコルから西側。天気が良ければ笠ヶ岳が見える方面ですが、天気が良くないのでまあこんなもんです。
東側は常念岳が雲の下にくっきりと見えました。ピーク左側の鞍部には常念小屋の赤い屋根が見えます。こっち側はそれなりに見えるんですけどね。
少し先に進んだ所にある簀子の足場……やはり大キレット越えとなると、難所でもそれなりに人が通るコースだからか全体的に良く整備されています。
先に見えるのはギザギザの岩尾根。少し先にナイフブリッジっぽい所も見える。どうやら巻かずに上を渡っていく様子。
同じ場所からA沢のコル方面を振り返った所ですがコルは死角になって見えず。正面に先程通過した飛騨泣き以降の下りが見えます……視界に入るのは悉く岩とザレばかり。
西側の雲が一瞬だけ抜けて笠ヶ岳方面の稜線が。しかしやはり笠ヶ岳のピークは見えない。
先程見えたナイフブリッジをよじ登ります。上の方はのっぺりした岩ですが、ステップ打ち付けられているので楽に登れます。
西穂奥穂だったらステップも鎖も無いような所……なんて調子に乗ってしまいがちなので、意識して気を引き締める。落ちたらまず助からないのはこの岩場も同じ。
岩尾根の天辺を伝っていくような道……三点支持が取りづらい岩場が続きます。右に見えるの長谷川ピークが徐々に近付いてきた。
長谷川ピークへの登りと雲立ち込める大キレット。最後の方も険しそうな岩場が見えますが、下りだと少し怖いかなという程度でした。
大キレット方面を覗き込んでみます。切れ込みは深いですが、前後に小さなアップダウンが続いており、一見してどこが大キレットなのか判然とせず。
[12:13-12:22]長谷川ピーク
小刻みに続く岩場。そろそろ長谷川ピークかな……と半信半疑で岩を登ってみると、でかでかとペンキで書かれていました。見紛う事無しとはまさにこの事。
そして、いよいよ大キレットへの下り……しかし南岳方面のガスは依然として分厚い。完全に視界不良という訳ではないですが、気を滅入らせてくれるには十分という雲の厚さ。
大キレット方面の下りは暫くは痩せた岩尾根の下りで、特に滑落事故が多いらしいですが、ここも思った程ではないかなという印象。足取りに悩むような場面は皆無でした。
長谷川ピークからだいぶ下ってきた所ですが……大キレットは何処に?
下ってきた北穂高岳方面を振り返ってみるも、ガスもくもくでその姿はありません。蝶ヶ岳方面の稜線もいつの間にか見えなくなってました。最悪という程ではないですが、なんだかなあって感じの天候。
傾斜が緩くなってきました。これ以降は南岳小屋への登りが少し急な程度で、難所というべき難所はありませんでした。
山頂が見えぬ南岳方面に続く稜線……で、大キレットは何処に?
東側の展望が再び見えるようになりましたが、向こうの世界は随分と晴れている。西から流れてくる雲がこの槍穂の稜線に引っかかっているような状態なんでしょうか。
東天井岳から常念岳、蝶ヶ岳と続く稜線を望遠で。あっち側は眺め良さそうだなと羨む。
中間ポイント的な案内が書かれた岩。ここがキレットかな、とGPSで調べてみるも違った。
小さな起伏を乗り越えながら先に進みます。大キレットはもう少し先にあるようですが、殆ど下っている感じはしない。
左が笠ヶ岳方面。右が双六岳、黒部五郎岳方面です。ピークはどちらも雲の中。
再び北穂高岳を振り返ってみた所。先程通った長谷川ピークやA沢のコルといった辺りも完全に埋もれてしまっているので、天候は悪化の一途を辿っているようです。回復は絶望的か。
大キレット→南岳小屋
[12:46]大キレット
恐らく大キレットかな?と思われる小さな鞍部に到着。遠くの山域からも確認できる上、全国的にもネームバリューのあるポイントですが、意外にも看板や印といった類は見当たらない。周囲の雰囲気も数ある鞍部の中の一つという感じで見過ごしやすい。
しかし槍ヶ岳と穂高岳の間の最鞍部、取り分け麓に近い場所である事は確かなのでしょう。道端の草木はこの一帯が特に色付いており、紅葉越しの常念岳や本谷カール方面の展望が楽しめました。
大キレットから北穂高岳方面と笠ヶ岳方面の展望を合わせたもの。谷底には新穂高温泉向かって注ぐ右俣谷の川筋が確認できます。
こちらは進行方向、南岳方面です。最鞍部である大キレットの標高は2,748mで、登り返した先の南岳は3,000を越える。流石は大キレットというだけあって登り返しも大規模です。
山頂がガスに飲まれて見えない南岳方面に進みます。ガス溜まりに突入する時はいつも憂鬱。
切り立った痩せ尾根っぽい所もありますが、これまでの難所を考えれば些細なものです。
ハイマツの茂みの中に見えた何かの実。展望が無い時は花を愛でるに限る訳ですが、季節的に花が残っていないので木の実でも眺めるしかない。
一瞬雲が大きく流れてくれたので蝶ヶ岳、本谷カール、北穂高岳方面の展望を。ガスが掛かるか掛からないかという境目の場所で、景色が楽しめるのは今日これが最後だろうな……と、既に諦観の境地。
ガスもくもくの笠ヶ岳も明日までさようなら……最後に情けを見せてくれたのか、山頂の輪郭線が微かに確認できました。
南岳への登りです。北穂高岳とはまた違った岩の感じ。超巨大な岩の塊が行く手を阻むかのように置かれており、その隙間を縫うように進む。
前の写真で遠目に見えた岩のトラバースと梯子。何かとアスレチック的な区間。
これまた長い梯子が現れました。険しい道が続きますが、落ちたら谷底行きという箇所は案外少なく、飛騨泣きや長谷川ピークみたいな身の危険はあまり感じません。
梯子を登った先も岩場の上りが続きます。そして高度が上がるにつれて次第に濃くなるガス。
巻いて登って巻いて登っての繰り返し。ここまでガスが濃くなると最早どの辺りを歩いているのかさっぱり。
少し険し目の岩場の急登。流石にもう岩は飽きたなという頃。
南岳小屋に近付いてくると階段状の道となりますが、ガスの濃さは更に増してホワイトアウト気味に。
登りきった所が大キレットを見下ろす展望台である獅子鼻への分岐です。そして西穂独標から延々と続いていた岩稜帯は先程の登り返しが最後……つまり今回の山行における難所は一通り終了という事に。
[14:07]南岳小屋到着
南岳直下に位置する南岳小屋に到着。一帯は特にガスが濃く、どこに小屋があるのか分からない程に視界不良でした。これが小屋の入口か、と思って入ろうとしたらトイレだったり。
さて、行程の最初に奥穂高岳の往復を加えた事で槍ヶ岳方面に進むとしたら少し遅い、しかし行動終了とするにはまだ早いなという絶妙に微妙な時間帯。この頃は17時台まで明るいので、頑張れば次のテント場である槍ヶ岳山荘まで辿り着けなくも無いですが……。
しかしこの濃霧。先に進むにしても景色は一切楽しめず、単なる移動に終始してしまう。南岳から槍ヶ岳山荘までの区間は未踏なので、できれば天気が良い。最低でも進む度に近付く槍の穂先が臨めるレベルまで晴れてくれないと……という訳で、少し早いですが本日はここでの宿泊となりました。
こちらが南岳小屋の母屋で、宿泊や売店、テントの受付はこちら。南岳小屋も槍ヶ岳山荘や穂高岳山荘等と比べると少しマイナーな立地の山小屋ですが、規模は思ったより大きいです。
壁面にはこんな感じのメニュー表が。この小屋では具沢山の豚汁が売りのようで、テント泊利用者向けの豚汁500円というのが身体も温まって良さそうだなと思ったり……北アルプスって食事が美味しそうな小屋が多いので財布の紐が緩みがち。節制しなくては。
という事で、テントの申し込みに合わせて豚汁を頼もうとしたのですが、現在は宿泊者向けも含めて一切の食事の提供を停止しているとの事。なんでも、ついこの数日前に小屋の従業員にコロナ罹患者が発生してしまい、その対策だとかなんとかで……残念だけど、そう言われてしまえば致し方ない。
売店コーナーの様子。夢幻であった豚汁に露骨にがっかりしてみせると、お腹が空いていると思われたのか、カップ麺を扱ってますので……と営業される。別に食糧不足って訳でも無いのですが、ざっと眺めてみると色々あるなと。焼酎のミニボトルやワインの瓶、カップ日本酒と、まず目に付くのはやはりお酒。
売店の前は椅子テーブルが並べられたラウンジとなっており、読書を楽しんだりできるように下段には本が並んでいます。登山雑誌なんて何年かに一度『山と渓谷』を買って読む程度なので、暇潰しになりそうだなと思ったんですが、コロナ対策で客の長居を防ぐ為に椅子がひっくり返してあるので……こんな状況で立ち読みする勇気は流石に無い。
難所は越えた、つまり荷物の軽量化を意識する必要が無くなった……という訳でワインを調達しました。ただ酒を飲むだけならワンカップとかでも良かったんですけど、このワインは槍ヶ岳をプリントしたパッケージで、標高の3180という文字が踊る、他ではちょっと見掛けなさそうなものだったので。
製造は塩尻市洗馬の信濃ワイン。値段は720で2000円なので、国産ワインとして考えたらべらぼうに高いという訳でもない。小瓶もありましたが割高なので、迷いなく720の方を手に取る。
中身は製造元が同じ、こちらのワインが同様もしくは近いのではないかと思います。テーブルワインとしては手頃でおすすめ。
ガスの中、早々にテントを設営。偏西風吹き付ける西側斜面にテント場が広がっているので、風除けとなる石垣の大きそうな所に張りました。立ってると身体を持っていかれそうな強風ですが、これのお蔭でテント内は風の音にも悩まされる事はない快適空間に。
先程のワインと共につまみを頂く。赤なのでやはり牛肉をとビーフジャーキーを広げる。付け合せにポテトとか並べてみると、ワインボトルの存在感も相まって最低限の体裁が整った気がする。気がするだけ。
次回記事『槍穂高連峰縦走その5』に続く