【2022年版】心に残った日本酒を10銘柄、ランキング形式で選んでみた
早い所で2022年も残す所僅か。この一年の間も様々な場所に赴き幾つかの山行記録を載せてきましたが、今回はその裏側。記事にはしていないものの並行して様々な日本酒を飲んでいました。
本来であれば一本一本丁寧に紹介していきたい所なんですが、流石にそこまでの根気も無いし自身の舌の自身も無い……という事で今回総まとめ的な記事を作って茶を濁す事にしました。内容的には殆ど備忘録というか自己満というか思い出語りみたいなものですが、興味が湧いたら読んでみて頂けると幸いです。
目次
- まえがき
- 10位 鳥海山 純米大吟醸生酒 グリーンボトル
- 9位 辨天娘 純米生原酒 槽搾り荒走り
- 8位 文楽 純米吟醸無ろ過生原酒 Bunraku Reborn
- 7位 宝船浪の音 純米吟醸 新酒限定生酒
- 6位 多満自慢 純米無濾過
- 5位 越後桜 白鳥蔵 生しぼり大吟醸
- 4位 あべ 純米 尾崎商店別注
- 3位 オリ
- 2位 五十嵐 五百万石おりがらみ 純米吟醸無濾過生原酒 直汲み
- 1位 与謝娘 しぼりたて 特別純米無濾過生原酒 1801
- あとがき
まえがき
今年も広く名の知られたメジャー所から首都圏に出荷していないマイナー所まで。或いは製造元である酒造を巡ったり、そこでの試飲を楽しんだりしつつ沢山の銘柄を味わってきました。ただあまりにも数が多いので、その数多の銘柄の中から10個に絞った上で、それぞれの個人的なストーリー(蔵元で購入したお酒であれば蔵元探訪記)を交えて紹介します。
以降ランキングという形態で紹介していきますが、味の優劣を基準としたものではなく、表題通り個人的に心に残った順番という事になります。それ故に蔵元に立ち寄った所の日本酒を多く挙げてしまっているのは御容赦頂きたい所。
加えて、この先紹介するお酒はどれも少量生産の地酒ばかりで、いつでも(どこでも)買えるようなお酒は少なく、また尖った味覚のものが非常に多いです。所謂よくある『おすすめの日本酒を10選』的な記事とは真逆の内容であるという事も重ねてご理解頂ければ幸いです。
併せて載せてあるレーダーチャートは味覚や印象の強弱です。全てマックスの酒が優れているという訳ではありません。グラフの内容そのものに関しても個人の偏見丸出しなので参考程度で。
10位 鳥海山 純米大吟醸生酒 グリーンボトル
トップバッターとなる第10位に据えたのは秋田県由利本荘市の天寿酒造のお酒、『鳥海山 純米大吟醸生酒 グリーンボトル』を選びました。こちらは9月の鳥海山登山の際、麓の登山口となる矢島の町の酒蔵を訪問して調達したお酒となります。
ラベルには純米大吟醸とありますが価格は4合瓶で1,650円と比較的手頃。スペックとしては美山錦の50%磨きで、大吟醸の割には華やかさはそこまででもなくしっとりとした雰囲気の落ち着いた味わいでした。
訪問した天寿酒造の外観と店内の様子。この場所に訪れたのは9月の東北方面の登山旅行の際、月山を登り終えて次の鳥海山に挑もうとするアクセスの道すがらという時の事でした。
前日宿泊した酒田から羽後本荘(由利本荘市)、そこから第三セクターの由利高原鉄道と乗り継いで終点の矢島。この町は古くからの鳥海山の登山口の一つである矢島口の起点とされていた場所。天寿酒造はそんな町の殆ど街中、駅から僅か数分という場所に立地しています。
地酒蔵としてはそれなりに規模の大きい所らしく、紙パックの普通酒、ミネラルウォーター等も製造していたりと手広くやっている様子。写真左側、正面に見えている建物は販売所で、その奥に醸造施設等が連なっています。
販売所の店内では試飲は一応は可能との事でしたが、幾つかの種類の中から一種類のみ指定して飲むという他ではあまり例のないスタイルでした……その為、飲み比べという形で試飲する事ができないので、何を買おうか選ぶ際の判断としては残念ながら使えません。
お酒のラインナップとしては生酛造り等の凝ったものもありましたが、蔵元限定販売という文言に惹かれて今回のお酒を選択。鳥海山の銘柄は首都圏でもちらほら取り扱っている店も見かけるので、機会があれば他のスペックも試してみたいですね。
矢島で日本酒を調達した後、幾つかのバスを乗り継いだ所から歩き始めます。奥の方には銘柄の元となった鳥海山が見えていますが……この時点では遙か先、途方も無く遠い場所のように感じた。
舗装路を延々と登山口の祓川まで歩き、そこから更に山道を登り詰めた所にある七ツ釜避難小屋で宿泊。写真はその付近の露岩で夕食を摂った際のもの。『鳥海山で鳥海山を飲む』というフレーズが妙に気に入っていて、そこかしこで写真撮っていた。
その後に登頂した鳥海山(新山)の山頂の様子。奥の方には日本海の海岸線が見えています。所詮百名山、大した事ないだろうと思ったら山頂直下に険し目の岩場が控えていた。
火口丘である新山の山頂までは外輪山である七高山から往復する形を取ったので、荷物の大部分を分岐に置いて小さなサブザックで山頂を目指したのですが……『鳥海山で鳥海山を飲む』という、この写真を撮りたいが為にわざわざ四合瓶とお猪口を持参で行った。岩が目立つ厳めしい周囲の風景とは対照的に、お酒は丸みを帯びた優しい味わいだったのが印象として残っています。
製造元:天寿酒造(秋田県由利本荘市 矢島町城内八森下)→公式サイト
使用米:美山錦
精米歩合:50%
日本酒度:+1.6
アルコール度数:15度
価格(税込):1,650円/720ml
蔵元限定銘柄なので全く同じものはありませんでしたが、似たようなスペックである火入れの純米大吟醸はネットショップにありました。ただ、自分が飲んだグリーンラベルとは原酒そのものが違う可能性があるので、購入の際はその辺の御考慮をお願いします。
9位 辨天娘 純米生原酒 槽搾り荒走り
第9位は鳥取県の若桜町にある太田酒造場の『辨天娘 純米生原酒 槽搾り荒走り』です。こちらも実際に蔵元を訪問して購入したお酒で、4月の氷ノ山登山の帰路にて立ち寄りました。
味覚としては鳥取の銘柄でよくある濃醇辛口系のお酒。澱がおりがらみと呼べるくらいには入っているので味の膨らみも上々。特に印象的な部分は飲み終わりのシャープなキレですが、辛いだけではなく甘い風味もしっかりと主張している為に全体的な纏まっている印象。故に結構な辛口にも関わらず単体で延々飲んでいられそうな不思議なお酒でした。
若桜の太田酒造場には午後の日が沈む間際という時間帯の到着となりましたが、午前中は深々と雪が積もった氷ノ山を歩いていました。若桜の街はこの山麓、故にそこで醸される酒はこの山から湧き出した水を使用しているという事になります……『名水ある所には銘酒あり』とはよく言われますが、『名山ある所には名水あり』とも言える。
氷ノ山を下山して、登山口となる舂米集落から若桜鉄道の若桜駅を目指して舗装路を延々歩いてきた所。駅の近くに広がる若桜の市街地は宿場町時代の街並みが残り重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)にも指定されています。特にメインストリートから一本挟んだこの通りは蔵通りと呼ばれ特に古くからの建造物が残るエリアで、白壁と黒漆喰の板塀のコントラストが楽しめる。
太田酒造場はそんな歴史を感じさせるような街並みの延長のような所に立地しています。一見するととても酒蔵には見えない狭い間口ですが、街道筋に沿った古い町並みらしく奥行きは長い。
建物に入り、並べられたお酒のラインナップを眺めてみる。これとは別に冷蔵ケースが奥にあり、生酒などは注文を受けたらそちらから取り出すという形態のようでした……この時は列車の時間が迫っていて気付かなかったのですが、奈良漬がとても美味しそうで購入しなかった事を非常に後悔していたり。
試飲については、こちらから尋ねる前から『お車でなければ~』と勧められたのですが、時間が無く泣く泣く断念せざるを得ませんでした。次回訪れる時があれば是非とも試してみたい。
若桜鉄道の単行の列車に乗り込み、先程購入したお酒に加えてサービスで頂いた酒粕、他で購入した味噌、豆腐、焼き鯖寿司といった若桜の町にて買い集めた諸々をテーブルに並べてみる。人口3,000人と少々、山間の窪みのような所に位置する小さな町には美味しいもので溢れていた。
銘柄:辨天娘 純米生原酒 槽搾り荒走り
使用米:玉栄
精米歩合:75%
日本酒度:+6
アルコール度数:19~20度
価格(税込):1,840円/720ml
辨天娘を取り扱うネットショップは少なく、唯一見つけたのがこの五百万石使用の火入れ純米酒でした。燗にすると美味しいらしいですが、自分が飲んだスペックのものとは別物だと思われます。
8位 文楽 純米吟醸無ろ過生原酒 Bunraku Reborn
第8位にランクインしたのは埼玉県上尾市、北西酒造の『文楽 純米吟醸無ろ過生原酒 Bunraku Reborn』。こちらは酒造ではなく小売店で購入したお酒となります。
背面ラベルに『檸檬のような酸味があるお酒』と書かれている通り酸味が印象的なお酒。最近よくある白ワインテイストの日本酒と言っても良さそうな傾向のお酒ですが、味わいとしてはかなり濃醇なのが他とは趣向が少し変わっている点。使用米は不明であるものの50%という大吟醸に相当する精米歩合という事で吟醸香も両立しており、どことなくゴージャスな印象を受けるお酒でした。
背面のラベルです。既存の文楽の銘柄とは別に立ち上げられたブランドという事でRebornという副題が付けられています。
正直、この銘柄の存在は酒屋で実物を見かけるまで全く把握していませんでした。なんだこれと店主に尋ねてみると埼玉県の上尾市の酒造のもので、ここ数年の間に立ち上げられて今は2期目か3期目というブランドとの事。まず上尾に酒造がある事すら初めて知ったというレベルの認識。
上尾と言えば高崎線の沿線の中山道の宿場を由来とした歴史ある街。高崎線に乗る機会が殆ど無い自分としてはあまり縁のないエリアだったりしますが、このお酒を飲んだ事がきっかけで若干興味が湧いたので、付近の熊谷、鴻巣、桶川といった他の宿場も併せて近い内に歩いてみたいなと思ったのでした。
銘柄:文楽 純米吟醸無ろ過生原酒 Bunraku Reborn
使用米:不明
精米歩合:50%
日本酒度:不明
アルコール度数:16度
価格(税込):3,025円/1,800ml
文楽もネットショップでの取扱は非常に少ないですが、自分が飲んだ同スペックのものを一回火入れしたものを発見しました……こちらはAmazonでは見当たらず楽天のみ。本数少ないと思いますので品切れの際は御容赦下さい。
7位 宝船浪の音 純米吟醸 新酒限定生酒
第7位は宮城県名取市、閖上港近くの佐々木酒造店が醸す『宝船浪の音 純米吟醸 新酒限定生酒』です。こちらは酒造で購入したお酒で、第10位の鳥海山と同様に9月の東北方面の登山旅行にて立ち寄りました。
スペックとしては純米吟醸なものの50%磨き(使用米の種類は不明)なので大吟醸規格。ですが、あまり吟醸香を前面に押し出したような感じは受けません。僅かな風味の差異はあるものの10位の鳥海山と非常によく似ており、自分の舌ではブラインドじゃ判別付かなそうな感じ。
これとは別にもう一本、洗練されている純米吟醸とは真逆のタイプを……という事で90%の低精白のもの『宝船浪の音 純米無濾過生原酒 90%』も併せて購入。こちらはスペック相応に尖った味わいであるものの不思議な纏まりを感じ、ある種の完成形であるように思える……正直、浪の音のどちらをランクインさせるべきか最後の最後まで悩んでいました。
閖上に立地する佐々木酒造店の外観。名取市内ですが名取の中心市街地にあたる増田からは若干の距離があります。酒造の建物は被災後に新築したので新しく、奥に連なる醸造施設は酒蔵というよりは工場といった雰囲気がある。
佐々木酒造店は2011年の東日本大震災で被災し、その後現地での復興を成し遂げた事で知られる。自分も早い段階から存在を認識していたのですが、まだ再建したばかりで生産量が多くはない為か取扱店舗が少なく、首都圏はもとより付近の大都市である仙台であっても確実に買えそうな店は多くはない……しかし製造元であればまず買えるだろうと、翌日から始まる月山登山に担いでいく登山酒の調達という名目で今回立ち寄る事に。
内部の様子。新しい建物なので整然とした印象ですが、注目すべきは冷蔵ケースが占める比率で、写真に見えるもの以外にも反対側にもう一面あります。冷蔵ケースが多いという事は、生酒や一回火入れのお酒といった拘った造りのお酒が多いという事になるので期待も持てるというもの。
試飲用のカウンターも設けられているので早速色々試してみようと飲み比べてみます。種類が多く網羅とは行きませんでしたが、まず感じられたのは味の幅。吟醸酒に舵を切ったものから90%の低精白に加えて山廃もあったりとバリエーションが豊富。故に買って帰るものは何にするべきかと迷いに迷う訳ですが、例によって蔵元限定という言葉に惹かれて純米吟醸の生酒を一本。そして、それとは真逆の味のものをと90%の低精白のお酒を選択しました。
お酒を購入した後はそのまま閖上の周辺を散策。東北の津波被災地はこれまで幾つか訪れているのですが、閖上には被災前も被災後も訪れた事がなかったのでこれが初訪問。
現在は名取川の川縁の辺りに街並みが広がっていますが、被災前はもう少し河口寄りに街があったようです。その方面に進んでみると広々とした中に震災遺構や慰霊碑が立つ一角があります。
佐々木酒造店もそうですが、徐々に人々が戻り賑わいが生まれつつあるエリアではあるので、また暫くしたら訪れてみたいです。
購入したお酒はその夜に早速口切り。翌日から始まる月山登山に備えて新庄へと向かう道すがら、陸羽東線の車内にて味わいました。お酒と合わせたのは同じ閖上で購入したはらこ飯……これが本当に美味しかった。ご飯にも鮭の味がしっかり染みていてお酒とも抜群の相性。今度土産に買って帰ろう。
月山を登り終えた後は山形の酒田にて、太平洋のお酒に日本海の魚というミスマッチを楽しんだのでした。
銘柄:宝船浪の音 純米吟醸 新酒限定生酒
使用米:不明
精米歩合:50%
日本酒度:不明
アルコール度数:16度
価格(税込):1,694円/720ml
銘柄:宝船浪の音 純米無濾過生原酒 90%
使用米:不明
精米歩合:90%
日本酒度:不明
アルコール度数:17度
価格(税込):1,540円/720ml
宝船浪の音も案の定ネットショップでは殆ど見当たらず、唯一楽天で見つけたのはこの玲瓏純米吟醸でした。自分が飲んだものとはスペック的に残念ながら別物と思われます。
6位 多満自慢 純米無濾過
第6位にランクインしたのは東京都福生市にある石川酒造の『多満自慢 純米無濾過』です。東京都下在住の自分としては近所なので酒蔵訪問という感じではないですが、こちらも製造元を訪れて購入したものとなります。
お酒の価格は一升で2,000円を僅かに越える程度と、これまで紹介してきたお酒と比べると破格です。店員の方に尋ねてみると飯米を使用しているから価格を抑えられているとの事。
という訳で、値段が値段なので当初はあまり期待してませんでした……きっと薄辛いぼんやりとした味わいの凡庸とした純米酒だろう。とは言え燗酒として購入したので、それはそれで十分といった所。
しかし試しに冷や(常温)で飲んでみた所……全く凡庸ではないどころかその対極。甘味酸味辛味がそれぞれ主張し合い、それでいて不思議と調和している非常に面白みのあるお酒でした。
それを燗にしてみると更に面白い。冷やだとやや尖り気味だったものの、調和の度合いが増して全体的に落ち着いた味わいへと変貌、冷やと燗で使い分ければ何にでも合いそうなオールラウンダーなお酒でした。
訪問した石川酒造の外観。福生市に所在していますが、昭島市内の拝島駅が最寄りでそこから徒歩圏内という立地です。集落としては元々の熊川(旧熊川村、五日市線に同名の駅が存在する)の集落の中に立地しており、かつての集落内の細い道を進んでいくと、突如として巨大な工場が目の前に現れる。大手中堅の酒造と比べると小さいですが、それなりに量を作ってそうな規模です。
同じ東京の小澤酒造(澤乃井の銘柄で知られる)もそうなんですが、石川酒造も全体的に観光蔵というイメージで、どちらかというと『多摩の恵』を始めとした地ビール作りの方がメインとなっている印象でした。しかし意外にそういった所が酒造りには結構拘っていて……なんて所も昨今多いので、ちょっと期待しつつの訪問です。
酒造の様子。平日の真っ昼間に訪れましたが、敷地内にはビアガーデンがあったり和食レストランがあったりして賑わっていました。アミューズメント施設のようで、あまり酒蔵という雰囲気ではないですね。
販売所の内部。冷蔵酒に常温酒、地ビールに酒器に酒粕と様々なものが陳列されている。中でも最近作り始めたという雄町使用の純米吟醸酒が非常に気になっており、試飲して美味しかったら選んでみようと思っていたのですが、コロナの関係で今は試飲はやっていないという。
雄町の方は値段が結構張るので試してみないと少し怖いという事もあり、もう一つ注目していたしぼりたて純米生酒の方を選択。加えて今回の純米無濾過を燗酒用に購入しました。
酒蔵からはそのまま奥多摩街道沿いに移動して元々の拝島(旧拝島村のかつての中心)の集落がある辺りへ。かつては八王子と日光を結んでいた日光脇往還の宿場町で、それ以前の戦国時代には近隣の滝山城の鬼門封じとして整備されていた古い街。現在でも拝島大師を始めとした神社仏閣が多く残ります。
特に気になったのは拝島大師に隣接するように建つ大日堂で、拝島の地名(多摩川の中洲に流れ着いた大日如来像を付近の村人が拝むようになった事がその由来とされる)とも関係の深い古い寺院らしい。
こちらは大日堂に隣接する拝島日吉神社。神社と寺院が両立するように立ち並んでいる様子から神仏習合の名残が見られる……深々と観察していると、七五三で訪れていた家族連れに写真を頼まれたので縦横1枚ずつ。いい写真が撮れてるといいな。
その濡縁の部分には先程巡った石川酒造の多満自慢が奉納酒として置かれていた。東京に地酒と言えるものは少ないですが、地域に古くから根付いているこのお酒は完全に地酒といっても良いでしょう。
銘柄:多満自慢 純米無濾過
使用米:不明(飯米使用)
精米歩合:70%
日本酒度:不明
アルコール度数:14度
価格(税込):2,035円/1,800ml
多満自慢を醸造する石川酒造は中堅酒造という事で取扱店も多く、幾つかのネットショップにて同一銘柄を見つけました。特にAmazonは販売元もAmazonで購入金額が2,000円以上になれば送料無料なのでおすすめです……しかし一升2,000円切っているのは本当に安い。
5位 越後桜 白鳥蔵 生しぼり大吟醸
折り返しとなる第5位は新潟県阿賀野市、水原の市街地の近くに立地する越後桜酒造の『越後桜 白鳥蔵 生しぼり大吟醸』です。こちらの蔵元には1月の年始にも近い時期、東北方面に出かけた際に蔵元に訪れました。
このお酒の特徴としてまず一番に挙げられるのが価格で、山田錦使用のアル添大吟醸というスペックにも関わらず税込1,400円という安さは驚異的。勿論、味わいに関しても吟醸酒のお手本のようで文句の付け所はありません。ただ教科書通りの味という訳ではなく、この手の吟醸酒にしては少し濃い目で奥行きが感じられるのが特徴的。
越後桜酒造は羽越本線の水原駅から徒歩10分くらいの所に立地しています。紙パック酒の普通酒を中心として製造している中堅規模の酒造メーカーで、建物も酒蔵というよりは工場のような趣き。
年始の東北旅行においては同じ水原の街にある白龍、秋田の羽後境の千代緑、遠野のどぶろくと他にも候補はありましたが、試飲が可能であったという事もあり今回はこちらをノミネート。
販売所の内部の様子。予約すれば酒蔵見学が可能らしいですが、試飲に関しては飛び入りでも大丈夫との事だったので、申し出れば奥の方の専用テーブルに瓶を並べてくれます。飲ませてくれるお酒の種類は一通り決まっているようで、瓶と一緒に味の傾向が記載された紙も立て掛けてくれる。
この飲ませてくれるお酒がある種徹底しており、どれもこれも大吟醸クラスのもの。今回購入した50%大吟醸生酒の他には50%大吟醸の無濾過生原酒、45%火入れ純米大吟醸、そして全国新酒品評会においての入賞酒である40%大吟醸原酒と続きます。
味わいとしては当然、磨けば磨く程に華やかさが増していくのですが、個人的には50%台のものがバランスが良く食中でも楽しめそうに感じられたので、まずはその二択に絞られる。その2つのうち今回選ばなかった無濾過生原酒の方は使用米が異なるらしく、他の三種と比較すると明らかに風味が違う。こちらはこちらで落ち着いた風味で美味しかったのですが、他を飲んでみた限り山田錦の吟醸香をストレートで出すというのが全体的な姿勢として感じたので、今回はその姿勢に則った大吟醸生酒の方を選びました。
楽しいお酒選びの後は水原の散策。水原代官所、越後府跡といった史跡を巡った後、白鳥の渡来地として有名な瓢湖にも訪れてみました。丁度シーズンであったようで白鳥の姿がちらほら……なんか鴨の方が多いですが。
瓢湖での白鳥観察。君らはどこから来てどこへ行くのか。
東北方面の旅行なので、水原での観光を終えた後はそのまま列車に乗り込んで以降は一路北へと向かう事になります。
区間は羽越本線、村上を過ぎて新潟県と山形県の県境部に差し掛かった所。山と海に挟まれた僅かな平地を縫うように進むこの区間は本数も少ない。夏場に通りかかると観光客で混んでいるのですが、訪れた時期は真冬という事で乗客は非常に少なく、途中から車内に自分一人残して誰も居ないという貸切状態に……まさにお酒を楽しむにはお誂え向きな酒場列車でした。
水原で購入した2本の酒と合わせるのは新津で購入した駅弁『海の彩』、更に村上でつまみとして購入した鮭昆布巻。それなりに乗ってくるであろう鶴岡までの1時間半、のんびりと楽しみました。
ちなみに越後桜酒造では購入した大吟醸の他に、紙パックの日本酒もおまけして頂きました。吟醸酒ばかり試飲していたので「お口に合うか分かりませんが……」と恐縮した様子でしたが、これはこれでバランスの取れた晩酌酒。むしろ食事と合わせるのであれば大吟醸の華やかな方よりも相性は良いです。燗酒にしたら映えそうだなと思った頃には既に空となっていました。
今回残念ながら紹介から漏れてしまった水原で購入したもう一方の日本酒、白龍の方もとても美味しいお酒でした。こちらも越後桜と同様に飲み口は甘味から始まりますが、徹底した吟醸酒である越後桜とは異なり、こちらは鋭いキレで甘辛のメリハリが大きい。食事にはこちらの方が合うかな。
銘柄:越後桜 白鳥蔵 生しぼり大吟醸
使用米:山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+3
アルコール度数:17度
価格(税込):1,400円/720ml
越後桜酒造はそれなりに大きな酒造なので取扱店も比較的多いのですが、飲んだ銘柄は蔵元限定販売なので全く同じものは見つかりませんでした。ネットショップではスペック的に近いと思われる火入れの大吟醸は発見。高コスパ酒として人気あるらしいですが、自分が飲んだものと味的に近いかと問われたら少し自信がないです。
4位 あべ 純米 尾崎商店別注
第4位に選んだのはこのお酒。新潟県柏崎市の阿部酒造が醸す『あべ 純米 尾崎商店別注』です。こちらは酒蔵訪問した訳ではなく、8位の文楽と同様に近所の酒屋での調達したもの。
このお酒を飲んだ時点では同じ阿部酒造が醸す、次に紹介する2位の『オリ』の方を既に飲んでいて、そちらが非常に面白いお酒だったので続けざまに同じ酒造のものを購入したという流れとなります。
そしてラベル上の張り紙にあるように、このお酒は東京都東大和市の酒販店、尾崎商店の別注、所謂別誂えのもの。特定の小売店でしか売っていないものを紹介するのもどうかと思いましたが、悩みに悩んだ挙げ句にノミネート。
味わいの方は火入れながら結構なフレッシュ感と濃醇さが介在するタイプ。新潟と言えば淡麗辛口酒なんていう風潮(最近薄れかけていますが)に真っ向から逆行するような旨口系のテイスト。それでいて米を磨いて吟醸感を出した華やかなお酒とはまた異なり、なんか凄いなと思わせるような独自路線の味わいのお酒でした。
背面ラベルは簡素そのもので使用米の種類、その精米歩合も共に非公開と謎めいています。基本的には五百万石を中心に使用しているらしいので、このお酒もそうなのではないかと思います……たぶん。
あべというブランドそのものは首都圏の特約店向けに2015年に立ち上げられたもので、これまで何度か酒屋で目にしていました。しかし実際に手に飲んでみたのは昨年、2021年に『あべ定番純米』が最初で、既にその時点で他にはあまり無い酒質だなと密かに注目していました。
酒造の所在地は柏崎の安田……というと確か信越本線に同名の駅があったなと地図を見てみると、どうやら駅から徒歩圏内の立地。お酒の試飲ができる他にクラフトコーラを作っていたりするという中々面白い蔵のようです。久方ぶりに個人的な推せそうな酒蔵を見つけたので、近い内に行ってみたいですね。
銘柄:あべ 純米 尾崎商店別注
使用米:不明
精米歩合:不明
日本酒度:不明
アルコール度数:15度
価格(税込):3,520円/1,800ml
生産量の少ない銘柄なので扱っているネットショップは皆無だろうと思ったら唯一、一本〆使用の純米吟醸おりがらみを楽天で見つけました。スペック的に別物だと思いますが珍しかったので紹介。こちらも在庫は殆ど無いと思われるので品切れの際には御容赦下さい。
3位 オリ
10位から数えてきてようやくトップ3となりますが、第3位に選んだのは第4位と同じ阿部酒造が醸す『オリ』というお酒です。
最初ラベルを見てなんだこれはと足を止める訳ですが、スペック的には本醸造の火入れおりがらみとの事。それにしては値段は一升3,000円オーバーとやけに値が張ったのが妙に気になる。そして一度でも気になったお酒は後悔する事が無いようになるべく選ぶようにしているので、そのまま買って帰りました。
早速味わってみると、オリという銘柄なだけあって澱が多く入っていて濁り酒も同然ですが、味わいは結構な辛口。しかしドライ系の濁り酒にしては非常に奥行きがあり、甘味もそこそこあってキツさは感じない。というか飲めば飲む程にアルコールの辛さに慣れてきて甘味が増してくる。あまり無いタイプの味わいで非常に面白い。
食事と合わせた風景。結構な辛口なので基本的にはどんな料理にでも合いますが、少量のつまみでお酒を中心に楽しむ飲み方でも全く問題なし……これは凄いお酒を発見してしまった。
銘柄:オリ
使用米:不明
精米歩合:不明
日本酒度:不明
アルコール度数:17度
価格(税込):3,267円/1,800ml
ショップの紹介は一つ前の『4位 あべ 純米 尾崎商店別注』の方で一本〆使用の純米吟醸おりがらみを紹介していますので、入用の方はそちらの方を参照下さい。
2位 五十嵐 五百万石おりがらみ 純米吟醸無濾過生原酒 直汲み
トップから次点、第2位としたのは埼玉県飯能市の五十嵐酒造の『五十嵐 五百万石おりがらみ 純米吟醸無濾過生原酒 直汲み』です。こちらも酒蔵ではなく小売店からの購入、というか特約店限定銘柄なので蔵元では購入する事はできません。
五十嵐は何度も飲んでいる銘柄ですが、このお酒はファーストインプレッションから凄いと思わせてくれた一本。直汲み故にガス感が強いのは他の五十嵐と同様であるものの、それにまったく負けない骨太の甘味と酸味と辛味と吟醸感……にも関わらず一つ一つの味わいが丁寧で、ある種の繊細さも感じられる。絶妙なバランス感のお酒でした。
背面ラベルです。五十嵐自体そもそも生産量は多くはない銘柄ですが、その中でも限定数30本というのは突出する少なさ。ほぼ飲食店向けに割り当てられていたものを、僅かな何本かが店頭に並んでいたのをタイミング良く見つけて入手できたという次第。
スペックとしては五百万石使用の純米吟醸。五百万石使用というのは五十嵐でも下の写真の純米生原酒(黄色ラベルの酒)等でありますが、それを吟醸まで磨いたお酒というものはこれまで無かったらしい。
これまで飲んできた五十嵐の幾つかのバリエーション。銘柄の全体的な特徴は、直汲みである為に口切り時はガス感が強く飲み進めていく上で変化が楽しめる、吟醸感の割には甘味が控えめな上にキレが鋭いので飽きずに飲み続けられる……といった点でしょうか。個人的にはとても気に入っている銘柄です。価格も直汲みの生原酒という手間が掛かるお酒の割にはそこまで高くはなく、純米であれば一升3,000円を切るのも嬉しい所。
幾度と無く飲んでいる五十嵐ですが、生憎その製造元である五十嵐酒造に立ち寄った事はありません……最寄り駅となる飯能の駅には登山で乗り換えたりで偶に降り立つのですが、街の方は駅前から少し覗いてみた程度です。酒蔵にもいつか訪れてみたいですね。
食事中の風景、カツオのタタキと合わせてみました。単体でも全然飲めてしまうお酒ですが、飲み終わりのキレが強力で長々と口の中に留まらないので食事との相性も抜群です。
銘柄:五十嵐 五百万石おりがらみ 純米吟醸無濾過生原酒 直汲み
使用米:五百万石
精米歩合:55%
日本酒度:不明
アルコール度数:16度
価格(税込):失念、たぶん3,500円/1,800mlくらい
限定30本なので当然の事ながら同一スペックの銘柄はネットショップでは見当たりませんでしたが、きたしずく使用の純米吟醸生原酒をAmazonと楽天の両方で発見しました。ロット辺りの本数が少ない事で知られる銘柄なので、欲しいスペックのものが出たら購入はお早めに。
1位 与謝娘 しぼりたて 特別純米無濾過生原酒 1801
2022年、最も心に残った日本酒である第1位は京都府の与謝野町にある与謝娘酒造『与謝娘 しぼりたて 特別純米無濾過生原酒 1801』です。こちらも他に紹介した幾つかと同様に酒造で購入したお酒で、9位の辨天娘と同じ時期の4月に大江山登山の帰り道で購入しました。
味わいとしては酸味がまず立っており、次いで甘味、並行して程よい吟醸感。綺麗なタイプであるものの飯米使用であるが故に並々ならぬ複雑さを感じさせるお酒。しかし雑然としている訳ではなく、上手く纏まっているのが好印象でした。
蔵元を訪問する直前までは酒呑童子伝説で知られる大江山連峰の縦走登山を満喫。標高1,000mにも満たない低い山ながらも一見するとそうは見えない重厚な尾根が続いており、歩き応えがありました。
大江山連峰の西側に位置する赤石ヶ岳から与謝娘酒造が建つ加悦谷を見下ろす。酒造は手前の方の見切れている辺りの与謝という集落に2軒存在し、与謝娘酒造の他には丹後王国という銘柄を醸造する谷口酒造があります。
与謝娘酒造の外観です。如何にも酒蔵といった佇まいで、壁に掛けられたホーロー看板がいい味出している。
旧態依然とした店構えだったので火入れの常温酒が主体の蔵かなと思いきや、ラインナップは生酒主体のようで、1台の冷蔵ケースの中には様々な種類のお酒が所狭しと犇めき合っている。先に巡った谷口酒造が昔ながらの地酒蔵という雰囲気だったので、少なからず意表を突かれたような感じを受けました。
試飲も対応しているようで、希望すると専用の台に次々と試飲用のお酒を並べてくれます。珍しかったのが、並べておくので手酌でどうぞご自由にというそのスタイル。気兼ねなく色々と試せるので有り難いです。
試飲では色々のスペックのお酒を飲み比べしましたが、特に気になったのは右の4本、コシヒカリ使用の生酒を酵母違いで作ったシリーズで6号酵母、1801酵母、リンゴ酸酵母、ワイン酵母という種類があります。
それぞれの味の違いは明瞭で、6号であれば洗練された吟醸感、1801は複雑さと奥行き、リンゴ酸は甘酸っぱい果実感、ワイン酵母はまさにワインを思わせるドライな酸といった所。全体的な味の傾向は一貫しているので、純粋に酵母の違いによる味の差異を楽しめる……まさにこうして並べて飲み比べをする為にあるようなお酒でした。
非常に多くの種類があるので量をセーブしつつ飲むものの、どれも美味しいのでついあれもこれもと飲み比べてしまい試飲だけでほろ酔いに。その上で購入する1本を絞る訳ですが、かなり悩んだ挙句に1801酵母の方を選択。唯一残念だったのは四号瓶が無く1,800mlより小さいサイズが500mlしかなかった事で、これだけ美味しい酒だとあっという間に飲んでしまうだろうなと危惧したのでした。
酵母違いシリーズのラインナップも年々変わっている様子なので、丹後の方に来たらまた訪れてみたいですね。
京都丹後鉄道の観光列車、西舞鶴へと向かう丹後あかまつ号の車内にて夕暮れの若狭湾を眺めながら味わう丹波丹後の地酒。与謝娘に加えて同じ与謝の丹後王国、京丹波の長老と並べて飲む時間は短いながらも至福のひとときでした。
銘柄:与謝娘 しぼりたて 特別純米無濾過生原酒 1801
製造元:与謝娘酒造(京都府与謝郡与謝野町 与謝)→公式サイト
使用米:コシヒカリ
精米歩合:60%
日本酒度:不明
アルコール度数:17度
価格(税込):1,210円/500ml
珍しい銘柄なので扱ってるネットショップは少ないだろうなと思ってましたが、意外にもAmazonでの取扱がありました……それも販売元Amazonなので2,000円以上の購入で送料無料となります。全く同じスペックのものは流石に見つかりませんでしたが、面白そうなものを2種類紹介。
SNOW WHITEの方は京都府限定酒米の『祝』とリンゴ酸酵母を使用。恐らく酵母違いシリーズのリンゴ酸酵母のものと近いと思われます。KAGUYAの方はコシヒカリと6号酵母使用なので酵母違いシリーズの6号酵母のものとスペック的には同一。リンゴ酸酵母と6号酵母、どちらも面白いお酒でしたので興味が湧いたら是非ともどうぞ。
ちなみに楽天の方でも見つけましたが、変にふっかけている(値段を吊り上げている)店だったので紹介しません。
あとがき
以上でランキングは終了です。お酒をただ消費するだけではなくそれを記事に昇華してみようと、クリスマス頃から登山(富士登山)の記事と並行して作り始めたのですが、いざ書いてみると結構な長さに……しかしそれだけ書きたかった事が多かったという事になるので、記憶の深層に埋没してしまう前に一応の形にして供養する事が叶ったのは満足でした。
まえがきの方にも書きましたが、振り返ってみるとやはり製造元を訪れて飲んだお酒というものは印象に残りやすく、10の酒の内の半数以上を占める結果となりました。故に少し雑多な内容のランキングとなってしまった感は否めませんが、とは言え味覚のみに特化したランキングを作った所でそれはそれで面白味が欠けますし、そもそも専門家でも無い人間が専門家ぶって味の批評なんてやってみた所でただお寒いだけなので、これはこれでブログらしくて良い雑多さなのではないかと納得してたりします。
今年(2022年)から作り始めた記事なので昨年(2021年)以前のお酒は対象外としましたが、もし昨年から作り始めていたら……と少し考えてみました。とりあえず思い浮かぶのは四国中国登山旅行で蔵元を訪れて購入した岐阜の日本泉、阿波池田の三芳菊、佐川の司牡丹、卯之町の花神、厚狭の山猿。後は上信越国境登山で担いだ悠。天守御坂の縦走で担いだ裏高砂辺りでしょうか。酒蔵ではなく小売店で購入したものではゆきの美人の愛山麹のひやおろし、美田の純米吟醸中採り、本金の美山錦60、米鶴の純米吟醸超しぼりたて、東小金井にある佐藤商店限定のくじら山おりがらみ(五十嵐酒造によるOEM)辺りが印象に残ってますね……って軽く10越えてしまった。
そんな感じで、来年もまたそれなりにお酒を楽しめる一年であれば良いなと思います。
翌年の2023年版の記事も作りました。