御殿場口からの富士登山その1(新五合目→七合目)
前回は頸城山塊から戸隠連峰を8日間かけて歩くというそれなりに長い行程の登山でした。そうした長い行程を概ね予定通りに歩き通す事ができたという点については満足だったものの、全体的に天候が優れなかったという事もあってか不完全燃焼の感が否めず、下山して数日後には既に口直しにどこか行っておきたいなという気持ちに……とは言え長丁場を立て続けに行くのは流石に身が持たないので、その間に日帰りか一泊程度の気楽に登れる所をと思索。
そういえば、そこそこ山を登っている母親が富士山に一度も登っていないという。自分は過去に一度、富士宮口から既に登っているのでまだ暫くいいかなと思っていたのですが、誰かを引率して行くというのであればまあ良いだろうと。丁度コロナの関係で例年に比べてると空いているので、タイミング的にも丁度良いでしょう。
では富士山に登ると決めたら4つのコースのどこから登るか。母親は若い頃から南北アルプスに登ってるくらいなので高山病の心配は殆ど無さそうですが、富士山はそれよりも高く万が一という事も有り得る。一方で長時間歩行に関しては慣れてそうなので、高山病予防の観点から標高の低い所から登り始める御殿場口を選びました……しかし富士山のコースの中では最もタフで体力的なコース。無事に登頂できるのか?
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2022年8月】御殿場口(御殿場コース)からの富士登山、情報と記録 - 山とか酒とか
目次
初日……というか七合目で仮眠を取るまでのGPSログです。
電車とバスを乗り継ぎ富士山麓へ
電車を乗り継いでいく途中、御殿場線の松田駅での乗り換え風景。ホームに鎮座する荷物は寝袋(2人分)や蛇腹マットといった嵩張るアイテムが多いものの、8日間行程の重量級だった前回に比べると圧倒的に軽量。日帰り装備と大して変わらない。
バスに乗り継ぐ御殿場駅に到着……感覚的には丹沢の少し先みたいな所でしょうか。まだまだ近所のように感じられる。
御殿場駅の駅前広場にて置物のように地面に鎮座していた二羽の鳩が気になった。近付いてもこちらを見上げるだけで動こうとしない。一体何なんだ君達は。
バス乗り場の方に移動します。入口にいきなり富士山方面行きのバスの案内板が出ているので、それに従って進んでいくと御殿場口新五合目に向かう水ヶ塚公園行きのバスが停車していました。
乗り場付近には今まさに富士山に登ってきたという人の姿がちらほら見られますが、時間帯的にこれから富士山に向かうという人の姿は少なく、自分達が乗車するバスにも他に外国人の方が1組乗っているのみと閑散としていた。
乗車の際には予めチケットを購入との事なので券売機に向かうのですが、何やら発券口の所が大量のチケットで溢れている。券面を見てみると須走口五合目の往路と復路が何枚かずつ。自分が乗車する運転士の方に渡すとすかさず無線連絡し、須走方面に向かった外国人グループの忘れ物だったという事が判明……なんだか恐縮するくらいにお礼言われてしまった。
乗車の際には体温チェックがあり、そこで発熱が無ければ写真のようなタグが貰えます。こちらは山小屋に入る際に必要になるので無くさないで下さいとの事でしたが……山小屋に入る事は一度も無かったので出番はありませんでした。
右の写真は購入した往復乗車券。往路復路分が1枚ずつで1組ですが、帰りの際はこの近辺に住んでいる伯父さんが迎えに来てくれたので復路分は使用せず意味の無い紙切れとなった。
御殿場口新五合目→大石茶屋
御殿場駅からものの40分で御殿場口新五合目に到着。麓に近い、標高の低い場所から登り始める事で有名な御殿場口ですが、登山口となる新五合目の標高は1,439mとなんだかんだで御殿場駅より1,000m高く、到着時はまるで山の上のようにガスに包まれていた。空気も心なしかひんやりしています。
登山口となる新五合目の雰囲気……正面に見える建物は指導員の詰所で、施設と呼べる施設はトイレくらいしか見当たりませんが、少し下った所にトレイルステーションという案内所のような施設が最近新設されたらしいです。
入山前に登山届を出す為にトレイルステーションへ。この遅い時間帯の出発の上、途中の小屋泊の予定が無いという事で最初は弾丸登山を疑われてしまうのですが、途中で仮眠を取るのでと言ったらあっさりOKを出して貰いました。というか重装備の荷物見てすぐに理解してくれたという感じ。
一方、バスに同乗した外国人の方も軽装であるが故に何やら話し込んでいた様子ですが、最終的にはOKが出たようで先んじて出発していきました……かなりペースが速そうな感じだったので、追い越すような事はまず無いだろうと思っていたのですが。
指導員の方から頂いた御殿場口の案内パンフレット。やはり大砂走りがこのコースのハイライトなのか、その様子が表紙に描かれている……一人思いっきりずっこけてる人が居ますが。
到着時点では辺り一帯が厚い雲に覆われていましたが、身支度を済ませて出発する頃になると時々雲間から青空が見えるようになりました。天候は着実に好転しつつあるようです。
折角なので指導員の方に1枚撮って貰った。軽装の人が大半である富士登山でここまでの重装備の人はあまり居ないので終始浮いていた。
[16:57]御殿場口新五合目出発
午後5時に迫るかどうかという所で出発します。影が深い所は薄暗くなりつつありますが、空はまだまだ明るい。
歩き始め暫くした辺りの景色。まだまだ麓近くのようで傾斜の緩い登りが続いている。
大石茶屋→次郎坊
[17:09-17:14]大石茶屋
新五合目から登り始めて10分くらいで大石茶屋に到着。御殿場口の麓近い所では数少ない食事を摂れる施設。
既に夕刻という事もあってか閑散としていますが、今まさに下ってきたという人の姿はちらほら見える。中には小屋の方で一杯やっている人も……登山口まで下っても何も無いので、この場で時間調整している方が多いようです。
大石茶屋から見上げた雲の様子。雲はほぐれつつありますが、まだまだ頭上の大部分を重々しく覆い尽くしている。
大石茶屋から先に進む。道は基本的に砂礫の地面ですが、その両脇には緑が多い茂る富士山らしからぬ風景が広がっています。
ガスが濃いながらも長閑でいい雰囲気だなと歩いていると、大砂走りで足が縺れたのか前のめりにダイブする人の姿が……転んでる人を見たのはこれが唯一ですが、降りてくる人は皆が皆長い下りで足が利かなくなってる様子。一体どれだけハードな道なのだろうと、この地点から戦々恐々としていました。
蓼食う虫も好き好きの蓼です。殆ど植生の無い富士山ですが、それを楽しめるのは標高の低い地点からスタートする御殿場口ならでは。
一瞬だけ足元が明るくなったので振り返ってみると青空が広がりつつあった。
一気に流れていく雲の様子。天気予報では夕方以降晴れなので予定通りなんですが、予報よりも長く残っていたので少し心配していました……しかしこの様子なら大丈夫そうだなとひとまず安堵。仮眠の際に雨が降る事も無さそうです。
行く先の方面は未だ重々しい雲が滞留していますが、こちらも予報通りであればそのうち流れてくれる。そのはず。
富士箱根伊豆国定公園……やけに範囲が広いなと思って見ていた。
行く先の富士山方面の雲も徐々に取れつつあり、麓近くにある双子山の稜線も見えてきました。
麓の方を振り返った所。こちらは完全に雲から抜けており、御殿場方面の街並みも微かに見える。
上双子山(上塚)と付近に映えているアザミ。晴れてきたとは言え、流石にこの頃になると陰影が濃く足元が薄暗い。
緩い傾斜の登りを進んでいく。登っているというよりは距離を稼いでいるような感覚に近い。
富士山を見据えながら歩いていると、遂に山頂部の雲が流れてくれました。
と思ったら再び雲の中に。しかし回復傾向である事には違いないので期待しつつ進んでいく。
麓の方を振り返った所。日が沈むにつれて雲も沈みつつあるようで、既に雲上の世界となりつつある。
富士山の雲は以降暫く被ったり流れたりを繰り返していた。
再び山頂部が露わになった所。御鉢の辺りがよく見えていますが……まだまだ恐ろしい距離感。
振り返り麓の方面。雲海が夕日に照らされて若干赤みがかっています。左下に見えるのは三国山を始めとした山中湖周辺の山で、その奥には丹沢っぽい起伏の激しい稜線が。
一つ前の写真の左側に見えた、これから登る富士山のように均衡の取れた形の山。方角的には西丹沢の大室山っぽいですが。
まだ山頂の周囲を取り巻くように僅かに残っているものの、すっかり雲の少なくなった富士山方面。
偶には気分転換がてら母親を先に行かせたり。道そのものは非常に歩きやすく特に苦にもならない感じ。
コース上にはちょくちょく指導標のポールが立っています。
再び振り返った所……まだまだ雲が多く遠くの山は窺えませんが。
丹沢の核心部と思われる山々を望遠で。檜洞丸、蛭ヶ岳、鬼ヶ岩ノ頭、不動ノ峰といった並び。丹沢山はその右の埋もれている辺りにあると思われる。
指導標を辿りながら進んでいく。この頃になると流石に空も暗くなってきたものの、ヘッドライトの出番はもう少し先。
雲が少なくなった富士山を改めて見据える。正面左の雲が掛かったピークが宝永山です。
富士山とその望遠。殆どシルエットのようですが御鉢の形は窺える。
日没を迎えたのか南側の雲の色が次第にピンク色に変わりつつある。そして出発地点では上の方に見えていた双子山はいつの間にか低い所に……登り一辺倒というだけあって、他の山と比べて標高は稼ぎやすい。
夕日に照らされ赤味がかった雲を見る。まだまだ雲が多いですが、翌朝にはおそらく全て取れてくれるであろう……そのはず。
途中の標識と一向に距離が縮まらない富士山。暗いので見づらいですが、少し先に下山道である大砂走りとの交差点があり、その地点が次郎坊とされています。
付近から富士山を見上げる。殆ど快晴と言っても良さそうな空模様で、宝永山の雲も気付けば完全に取れていました。
次郎坊→半蔵坊→六合目→七合目
[18:39-19:01]次郎坊
下山道との交差点となっている次郎坊に到着。暗い中では少し分かりづらいようで、降りてきた人にルートを訊ねられた。
次郎坊に立つ指導標。富士山頂まで330分という数値が重々しい。
次郎坊を出発したのは19時、この頃になると一気に暗くなり空も濃紺色に。
振り返れば御殿場の街並みは街明かりに変わっていました。以降はヘッドライトを灯して歩く事に。
標高2,000mを示す標識。もう随分と歩いた気がしますが、ここでようやく須走口五合目と同じ位の標高に……この付近から次第に傾斜も急になってきます。
暗闇の中突き進んでいく。道は分かりやすいですが、時々ロープが途切れている所があり、あまり考えないで歩いていると外れてしまいがち。
更に進んだ所から振り返った所。街明かりが眩しい。
半蔵坊手前の案内……18曲りとあるように、新六合目にある半蔵坊まで暫く九十九折の道が続く。
[22:19-22:54]半蔵坊
18曲りを終えて半蔵坊に到着……完全に寝静まっている時間帯なので物音を立てないように通過。今年度より新しく整備(正確には営業再開)された小屋らしいです。
これまでは新五合目の大石茶屋から七合四勺わらじ館までの標高差1,500mの間に泊まれる場所は一切無かったので、その中程に位置するこの小屋の存在は大きいでしょう。
半蔵坊少し先にあるベンチで少し休憩を取ったのでその間、三脚を出して夜景を撮ったりして遊んでいました。すぐ下に見えるのが御殿場の市街で、その奥に見えるのは小田原付近の街明かり。間を隔てているのは箱根の外輪山、足柄峠の辺りでしょうか。
[23:59-0:30]六合目
暗闇の中、ただひたすら登っていくと六合目。2,830mなので山頂までの標高差は1000を切ったという所。
ヘッドライトの灯りを頼りに進んでいく様子。暗闇であるが故に全く面白味はない、まさに修行のような道であったというのが母親の評。
程無くして標高3,000mの地点に到着。2,000m地点から1000mの登りは真っ暗闇という中で黙々と登ってきた為か、そこまでの長さは感じられなかった。
[1:17]七合目到着
3,000m地点の付近から少し登り返した所が七合目です。ここには日の出館という休業中の小屋があり、その周辺には幾つか寝転がれそうなスペースがあるので、もとより仮眠場所の候補としていました。
という訳でレジャーシートとマットと寝袋をセットして寝床を整備。こんな所でテントを張る訳にも行かないので星空を仰ぎ見ながらの仮眠となりました……ちなみに同じようにして仮眠を取っている方は他に2人程見掛けました。考える事は皆同じのようです。
次回記事『御殿場口からの富士登山その2』に続く