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【2022年8月】御殿場口(御殿場コース)からの富士登山、情報と記録

2022年8月、御殿場口から富士登山に出掛けてきましたので、それに関する情報や記録などを掲載します。

但し富士登山全般の情報とするとネット上に溢れていると思うので、この記事は今回自分自身が登った御殿場口に関する解説や案内に特化したものと致しました。もしも来年度以降に同コースからの富士登山を挑戦してみたいという方が居られましたら参考にして頂けますと幸いです。

目次

富士山御殿場口についての案内

御殿場口の概要

御殿場口のパンフレット。新五合目にある登山指導所で貰える。

富士登山のコースの一つである御殿場口(御殿場コース)はその名の通り静岡県御殿場市内の登山口を起点とするもので、全部4つ存在する富士登山のコースの中でも最大の標高差の健脚向きのコースとして知られています。

標高差が大きいという事はそれだけ他のコースよりも行程が長く、その分体力が必要になるという事になります。しかし、長くてしんどいというだけあって4つの登山道の中でこのコースを選ぶ人は決して多くはなく、他のコースではありがちな混雑とは無縁の静かな登山を楽しむ事ができます。

御殿場口と他の登山道の比較

富士山には北側から時計回りに吉田口、須走口、御殿場口、富士宮の4つの登山コース存在します。そうした中で敢えて御殿場口を選ぶという動機は何かという事になるので、距離や標高差、所要時間といった各種数値を表にして比較してみました。

各登山道の比較
コース名 区間 距離 標高差 標準コースタイム(登り) 標準コースタイム(下り)
吉田口 吉田口五合目~久須志神社
5.9km
1,412m
5時間55分
3時間12分
須走口 須走口五合目~久須志神社
6km
1,746m
6時間45分
3時間2分
御殿場口 御殿場口新五合目~銀名水
9.5km
2,274m
8時間20分
3時間30分
富士宮 富士宮口五合目~浅間大社奥宮
3.7km
1,327m
5時間10分
3時間

一つだけ妙に長いのが今回紹介する御殿場口で、最も短い富士宮と比べると標高差は1.7倍、距離にして2.6倍もの差があります。しかし下りに関しては後に紹介する大砂走りで大幅な時間短縮が図れる為、他のコースと別段の差が無いのも特徴的です。

御殿場口を選ぶメリット

1. 全体的に空いている

八合目付近から山頂を見上げる。九十九折に続く道沿いに見える人の姿は決して多くはない。

御殿場口は他のコースと比べると利用者は極端に少なく、『吉田口>富士宮口>>(壁)>>須走口>>>御殿場口』くらいの差があります。富士山と言えばどうしても御来光目当ての渋滞で人が数珠繋ぎになって歩いているイメージを持たれがちですが、こちらのコースに関しては殆ど無縁で、県と環境省が運営する富士登山に関するオフィシャルサイトにおいても他のコースが赤字で混雑についての注意を強調している中で唯一、『混雑日でも人が集中・混雑することはほとんどありません』と青字で記述されています。

登山道が空いているという事は、コース上に幾つか存在する山小屋の宿泊者も比較的少なく空いているという事になります。故に小屋泊の際も他のコースのようなすし詰め状態となる事は殆ど無くゆったりと過ごせる、よく眠れるというのも大きな利点の一つでしょう。

加えて近年は特に新型コロナウイルスの問題があるので、混雑回避の観点からこちらのコースを選ぶ人も増えていたりと人気が高まりつつあるようです。次点で登山者が少ない須走口に肉薄しているような状況らしいですが……それでも混雑と呼べる状況には程遠く、感染リスクは他のルートと比べると圧倒的に低いでしょう。

今回実際に歩いてみましたが、ハイシーズンの8月という割には殆ど前評判の通り人の姿が少なく、思い出した頃に人とすれ違ったりするような程度でした。御来光の際も渋滞する事は殆ど無いという話です。

2. 長くて標高差があるので歯応えがある

登り始めに見える山頂は心が折れそうになる程に遠いものの、他のコースでは味わえない苦労と達成感がある。

富士山は日本一の高峰という割には富士宮吉田口といったコースの登山口の標高は高く、登頂そのものは容易です。健脚の人であれば簡単に日帰りできてしまう(夜間の場合は弾丸登山と呼ばれ、一般的には推奨はされていません)程度の距離と標高差で、頻繁に登山している人であれば物足りなく感じるかもしれません。

しかし御殿場口に関しては登りごたえといった点では抜群です。登山口である新五合目から山上までの標高差は2,274m、その間延々と絶え間なく登りが続くというコースは日本の山岳においては貴重で、数値では北アルプス三大急登の一つとして知られる早月尾根(剱岳)とほぼ同程度です。キツい登りが三度の飯より好き、日本一の高峰相応の苦労を味わいたい人にはオススメのコースです。

また非常に大きなメリットとして、低い所から登り始めるので高地順応しやすく高山病になりにくいという点があります。故に他ルートから登った際に高山病を発症して富士登山そのものがトラウマになっているという方には一考の余地があるでしょう。

3. 大砂走りがあるので下りが楽

御殿場口の醍醐味である大砂走り。晴れていれば麓まで一直線に見通せる。

登りが吐く程にキツい反面、下山道には大砂走りという宝永山噴火の際の火山噴出物が堆積した砂礫地帯があり、そこを走り下りる事で楽ちんに下れるのが御殿場口の特徴の一つです。単純に時間の短縮にもなりますが、一歩進むと膝下まで沈み込むのでクッションのように衝撃が和らぐ為、膝や足腰といった関節にも優しいのも無視できない利点です。

ただし歩いても走っても砂塗れになるので、靴の中に砂が入らないようスパッツ(ゲイター)は必須です。加えて転倒防止用にストックも二本あると心強いでしょう。

後の交通アクセスの案内の方に詳しく書いてありますが、富士宮御殿場口の登山口はバスでの移動が可能という事もあって、登りに楽な富士宮を登って、帰りは御殿場口経由で大砂走りを駆け下りる(プラス宝永山を巡る)という周回コースを取る事も可能です。

スパッツは定番のモンベルのものが丈夫で汚れが目立ちにくいのでおすすめです。自分も長年愛用しています。

4. 交通費が安い(マイカー規制が無い)

駅から登山口まで往復1,570円という運賃は他の登山口と比べると破格。

登山口の標高が低いという事は駅からバスに揺られている距離も時間も短いという事で、登山口までのアクセスとなる路線バスの運賃(御殿場駅~新五合目間)が他の登山口と比べると安いのも特徴の一つ。最も登山口の標高も高い富士宮富士宮駅~五合目間)と比べると半額で移動できるのでお財布にも優しいです。

また自家用車で向かう際にも、他のコースの場合は登山口までのアクセス道路が登山シーズン中はイカー規制となり途中でのシャトルバス(運賃は概ね千円強)への乗り換えを余儀なくされますが、御殿場口の場合はマイカー規制の対象外である為、登山口である新五合目まで車で直接乗り付ける事ができます。

5.他の登山道には無い、標高の低い場所ならではの景色を堪能できる

植物の少ない富士山でも、山麓部にはタデやアザミを始めとした高山植物が定着している。

他の登山道の登山口は富士登山における五合目、つまり麓から頂上までの距離を概算で半分くらいの場所……山の中腹のような所に設けられています。しかし御殿場口の登山口である新五合目はかつて一合目とも呼ばれていたように、完全に麓とも言えるような場所に位置しています。故に他の登山道では見る事ができない富士山山麓部ならではの景色を堪能する事が可能です。

広漠たる砂礫地帯にぽつぽつとオアシスのように群生する高山植物双子山越しに見える宝永山と、その更に奥に聳える雄大富士山の頂き。そこに至るまでの途方も無い距離感とスケール感。「本当にあんな所まで歩けるのか?」という疑念。どれも中腹から登り始める他の登山道では見る事ができない景色であり、味わえない感覚でしょう。

御殿場口を選ぶデメリット

1. 人が少ない

御殿場コースの登山道の様子。1時間以上人と会わないなんて事もザラにある。

空いているという事はメリットでもありますがデメリットにもなり得るでしょう。

御殿場口のコース上は幾つか存在する山小屋の近辺を除いて終始ひっそりと静まり返っており、歩いていても暫くの間誰とも会わないなんて事も割と普通にあります。なので人によっては心細く感じたり、本当にコースが合っているのか不安を抱いたりする事もあるかもしれません。吉田口富士宮のように人の姿が絶えず、ワイワイとお祭り騒ぎのように登っていく雰囲気が好きという方にも向かないと思います。

また、人が少ないという事は途中で怪我をしたり体調を崩したりした際に人を頼る事が難しいという事でもあります。幸いコース上は殆どの所で電波は通じるので緊急時の救助要請は可能です。しかし「キツいコースだから、もしかした頼る事になるかも……」といった考えで登るのは迷惑なので登山的にはNGとなります。計画そのものを取り止めるか、もしくは万全に登る事ができる他のルートを検討しましょう。

2. コース上に山小屋(トイレ)が少ない

赤岩八合館。数少ない山小屋は登山者にとってのオアシス。

御殿場口のコース上には他と同様にシーズン中営業している山小屋が幾つか存在し、麓から順番に新五合目大石茶屋(1,521m)、新六合目半蔵坊(2,590m)、七合四勺わらじ館(3,090m)、七合五勺砂走館(3,120m)、七合九勺赤岩八合館(3,294m)とあります。2022年度から新六合目半蔵坊が新設された事で新五合目から七合四勺までの標高差1,500mという区間に一つも山小屋が存在しないという状態は解消されましたが、それでも他のコースと比べると数は圧倒的に少ないです。

山小屋が少ないという事は宿泊地として利用できる場所が少ないというだけではなく、水や食料を調達する機会が少ないという事にもなります。特に水に関してはコース上に水場が一切存在しないという事もあって、予め十分な量を担いでいく必要が生じます。必要なものは山小屋で調達するというスタイルでは厳しいでしょう。

他、雨天時に屋根のある場所で凌いだり、怪我や体調不良といった緊急時に逃げ込んだりできる場所が少ないという事でもあります。特に後者は人によっては切実な問題となるので、持病があったりするような方は避けた方が良いでしょう……御殿場口発のツアー登山が殆ど組まれないというのも、それ故のリスクの高さが最たる要因だったりします。

さて、山小屋が少ないという事はそこに併設されたトイレの数も少ないという事になります。日帰りだから山小屋になんか泊まらないし買い物もしない……なんて人でもトイレは使用するでしょう。いや自分は我慢できるから大丈夫という人でも、寒暖差の大きい場所ですから不測の事態に陥る事もあるかもしれません。

富士山山麓部の一部を除いて一面の砂礫地帯となっています。つまり隠れられるような所が一切無いので、緊急時に用を足すという事が非常に難しいという事でもあります。トイレの近い人にとっては中々厳しいコースである事は確かでしょう。

3. 長くて標高差があるのでしんどい(特に登り)

標高2000m、3000mの地点を示す標柱が立っている。無論そうした数値の分を自らの足で登る事になる。

歯応えがあるという事はそれだけキツいという事でもあります。富士山の登頂を終えて(途中で断念した人も中には居たかもしれませんが)新五合目に下ってくる人達を一人一人よく観察してみると誰も彼もが息も絶え絶え、まさに死屍累々と言っても過言ではない様相。中には足に力が入らなくなったのか、近くの砂礫地帯でバタンと前のめりに倒れ込む人の姿も……最初見掛けた時は驚きを通り越して戦慄しました。

メリットの方でも書きましたが、新五合目からは山上までは標高差が2,274mあり、数値的には北アルプスの早月尾根に匹敵します。幾ら難所が皆無の富士登山のコースと言えど数値相応の体力が必要という事になるので、日頃から頻繁に運動をしている人ではないと途中で動けなくなってしまう可能性があります。

登山口の指導所の方から聞きましたが、そうしたハードなコースであるが故に救助要請が他の登山道よりも人数比で多いとの事なので、少しでも不安を覚えた場合は他のコースに変更するのが賢明です。不安が無くなるまで身体を鍛え直し、翌年に改めて挑戦しましょう。

4. 一部、迷いやすい箇所がある

ガスの中の大砂走りは目標物が少なくコースアウトの恐れがある。

シーズン中は多くの登山者が訪れる富士山は登山道も非常によく整備されています。無論、その中で最も不人気のコースである御殿場口も富士山以外の他の山域と比べると整備されている方ですが、迷いようのない他のコースとは違って道を外れやすい場所が幾つか存在します。

登りの際は砂礫の斜面を九十九折に登っていく形となるのですが、その途中で下山道やブルドーザー道といった他の道が交差するポイントが幾つかあるので、間違えてそうした道に迷い込んでしまうケースがあるとの事です。特に濃霧時はトレースも追いにくいので特に多いという。ただ、それまで歩いていた道と比べると地面が踏み固められておらず明らかに歩きにくいので、外れたらすぐに気付くのではと思います。妙に歩きにくい直登が始まったら一度疑ってみると良いでしょう。

大砂走りとなる後半では一面砂の斜面を適当に下っていく形となるので濃霧の際には知らず知らずの内にロストしやすいです。とは言え本来の道に沿って目印のポールやロープがあるので、なるべく離れないように歩く事を心掛ければ問題無いでしょう。

5. 登山口までのバスの本数が少ない

御殿場駅や水ヶ塚と結ぶ貴重な路線バスの一本。それでも利用者は多くはない。

御殿場口の登山口である新五合目までのアクセス道路はシーズン中でもマイカー規制とはならないので車で乗り付ける事が可能である一方、バスの便は1日6往復のみと規制区間をカバーするシャトルバスが存在する他のコースの登山口と比べると圧倒的に少ないです。

特に帰路に使用できるバスも2時間おきとかの間隔なので、中途半端な時間に下りてしまうと何もない新五合目で盛大に待ちぼうけを食らう恐れがあります。幸い新五合目から少し登った所にある大倉茶屋では営業中であれば食事したり生ビールを呷ったりして時間も潰せるので時間調整は容易です。

また、始発のバスに関しても新五合目到着が8時台到着と遅いので、バス利用の場合は日中の日帰り登山は余程の健脚の方でない限りは殆ど不可能となります。七合目付近で小屋泊して2日間行程で登るのがセオリーでしょう。

御殿場口からの富士登山をおすすめできる方はこんな人

まず習慣的に登山をしている(長期間の歩行に慣れている)事は絶対条件で、これは他のコースについても少なからず同様です。とは言え、若くて体力さえあれば意外と勢いで登れてしまうものですが、登れなかった場合のリスクもきちんと頭に置いておきましょう。その上で……

  • 健脚であり、人並み以上の体力をお持ちの方
  • 富士山という山がどういう場所か知っている(知っている人と同行できる)方
  • 過去に吉田口や富士宮口といったメジャーコースから登っており、変化を付けてみたい方
  • 多少長くても空いているコースが好きという方
  • 渋滞というリスクを排除して確実に御来光を見たい方
  • 登山というものは麓から登るものだと考えている方
  • キツいのが快感という奇特な方

といった条件に当てはまる方は他のコースよりも楽しめるのではないかと思います。

公共交通を利用した場合の登山口までの交通アクセス

交通の拠点となる御殿場駅

交通の拠点となる御殿場線御殿場駅から、御殿場口の登山口である新五合目を経由して水ヶ塚公園方面まで向かう富士急行バスの路線バスがシーズン中は1日6往復運行されています。先のデメリットの項目でも書きましたが、あまり本数が多いとは言えないので特に下山の際は帰りのバスの時刻を念頭に置いて行動するとスムーズでしょう。

ちなみに更に先の水ヶ塚公園のバス停では富士宮口五合目までのシャトルバスに乗り継ぐ事ができるので、車を利用した場合でも御殿場口富士宮の双方のコースを利用した周回コースを取る事が可能です。(※モデルコースとして、水ヶ塚に車を置いてシャトルバスで富士宮口五合目、帰りは大砂走り経由で御殿場口新五合目に下山し、バスで水ヶ塚に戻ってくるというものがあります)

実際の登山記録

今回は上記のコースで歩きました。

御殿場口からの富士登山その1(新五合目→七合目)

ハードな事で知られる富士山御殿場口。その登山口である新五合目に降り立ち、いざ歩き始めたのは日が沈む少し前の夕方頃でした。出発時点ではガスに覆われていたものの、次第に雲が抜けてきて富士山の山頂部も見通せる程に視界は回復。しかし程なくして日没となり、以降は延々と続く砂礫の急登を暗中模索で進む修行の道。そのまま登り続け、日付が変わって暫くした頃に七合目に到着。休業中の日の出館の前のスペースで持参した寝袋を広げて仮眠を取り一区切りとなりました。

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御殿場口からの富士登山その2(七合目→剣ヶ峰→御鉢巡り→大砂走り→新五合目)

七合目で仮眠を取った後は山頂での日の出となるように時間を調整して出発……の予定だったのですが、今回は同行者が居るので無理はせず十分に休息を取ってから歩き始めました。八合目付近で日の出を見物した後そのまま山頂を目指し、最高地点である剣ヶ峰に登頂。そのまま御鉢巡りという富士登山のセオリー的な足取りを辿った頃には徐々に雲が増え始め、大砂走りに差し掛かる頃には遂に雨。御殿場口の醍醐味とも言われるこの区間の魅力を十分に堪能できなかったのは心残りでしたが、ともあれ無事に下山。御殿場口の往復というハードな行程は完遂できたのでした。

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