【2023年版】心に残った日本酒を10銘柄、ランキング形式で選んでみた
2023年も残り僅かとなりました。昨年末、ブログタイトルの割にはお酒に関する記事が少ないな……という事で作ってみた『一年の中で印象深かった日本酒を10銘柄紹介する記事』でしたが、今年も登山中心の一年であった割には並行して色々なお酒を飲めていたので、昨年同様に記事にしてみました。
例によって個人の備忘録的な内容に終始しており、日本酒選びの参考にはならないとは思います。お読み頂く前にその辺のご理解をして頂けますと幸いです。
目次
- まえがき
- 10位 日光誉 純米吟醸無濾過生原酒 夢ささら55%
- 9位 安曇野だより 純米吟醸生原酒
- 8位 澤乃井 純米 涼し酒
- 7位 たにざくら 純米吟醸生酒
- 6位 真野鶴 純米 Brease(ブリーズ)
- 5位 金泉 純米寒椿無濾過 生貯蔵
- 4位 明鏡止水 純米大吟醸 m'22
- 3位 賀茂鶴 純米吟醸生原酒 青冴え2023
- 2位 Tsuchida F
- 1位 明石鯛 特別本醸造原酒
- あとがき
まえがき
冒頭に登山中心の一年と書きました通り、今年は一回の山行に一週間やそれ以上といった、日数をかけたしんどいタイプの山登りに終始していました。無論そうした登山に担いでいくお酒は少なからずあったのですが、東北地方や近畿地方方面の比較的旅行色の強い遠征の多かった去年程には蔵元訪問は行えておらず、果たして10個も挙げられるかな……というのが、この記事を作り始める以前の認識でした。
しかし、いざ飲んだ酒や訪問した酒蔵をリストアップしてみると、春に近畿から中国地方、初夏に日光、夏に飛騨、秋には上州や奥多摩とそれなりにコンスタントに酒蔵を伺えている事が判明。蔵元訪問だけでなく小売からの購入のものも印象深いお酒が数多くありましたので、弾数に関してはまず十分という所でした。
今回はそこから10銘柄までなんとかして絞り、個人的に珠玉?の銘柄を紹介していきたいと思います。ただ今回に関しても昨年同様、お酒のレビューというよりは回顧録や酒蔵探訪記のような内容で、『おすすめの日本酒10選』みたいなよくある記事ではなく、あくまで『個人的に心に残ったお酒10選』である事をご理解頂きたく存じます。
項目毎に掲載しているレーダーチャートは味覚や印象の強弱です。全てマックスの酒が優れているという訳ではありません。グラフの内容そのものに関しても個人の私見偏見丸出しなので参考程度にどうぞ。
こちらは昨年、2022年版の記事となります。今年同様に登山の合間に……といった形でしたが、昨年は昨年で色々な銘柄に出会えました。
10位 日光誉 純米吟醸無濾過生原酒 夢ささら55%
トップバッターの第10位として据えたのは栃木県日光市、今市の中心市街に立地する渡邊佐平商店の『日光誉 純米吟醸無濾過生原酒 夢ささら55%』です。こちらは今年6月に行った日光から尾瀬にかけての縦走登山においての登山酒として、山に入る直前に蔵元に訪問して調達したものです。
スペックとしては栃木県の酒造好適米である夢ささらを55%まで磨いた純米吟醸無濾過生原酒となります。同じスペックのシリーズでは雄町を使用したものもあったのですが、最近は山田錦や雄町といった全国区の酒米よりも地場産銘柄米に惹かれる事が多く、色々と試飲をした上で今回はこちらを選択。
味わいとしてはまず甘味と華やかさ、その後に線の細い余韻がひたすら続くお手本のような吟醸酒でした。同じ吟醸系と言えど、米違いの雄町の方のインパクトある重厚さとは対照的で、酒蔵での飲み比べが楽しかったです。夢ささらという酒米によるものなのか、風味そのものが若干独特だったのも決め手の一つでした。
吟醸酒が好きな方であれば今回紹介する10選の中では間違いなく上位に入るようなお酒で私も気に入っていたのですが、値段が4合瓶で2000ジャストと若干お高めなのでこの順位となりました。
訪問した渡邊佐平商店の外観。酒蔵は旧日光街道今市宿の殆ど中心とも言える場所に立地しています。間口は狭く奥行きは長い宿場町時代からの町割りのようで、街道に面した所から少々奥まった所に販売施設がありました。
ちなみに今市には酒造が2軒あり、この直前には上今市駅の近くにある片山酒造に立ち寄っていました。そちらの方も中々に趣深くて良い酒蔵でした。
販売施設の中では試飲用に色々なお酒が用意されており、希望したお酒を試す事ができます。ラインナップは吟醸系から生酛造りの燗向けの酒、古代米を使ったお酒と非常に幅は広く意欲的なものが多い。種類そのものも豊富でつい飲みすぎてしまい、登山を始める前からほろ酔い気分に。
敷地内では仕込み水を自由に汲めるようになっており、こちらで向こう何日か分の水を補給しました。翌々日の男体山麓の志津乗越まで確実な水場が無かったので9リットルくらいは汲んだかも。
今市で日本酒を調達した後はその日の内に電車、バスを乗り継ぎ日光の霧降の滝へ。そこから隠れ三滝を経由して霧降高原方面に登り詰め、翌日の女峰山登山に備えました。写真はその隠れ三滝の一つである玉簾の滝。
沢沿いに幾つかの滝を見物しながら歩く風光明媚なコースでしたが、この付近はヒルの巣窟で悪名高い場所だったようで酷い目に遭いました……詳細は割愛します。
ヒルの悪夢を忘れて初日の夕食。メインは東武日光駅にて調達した鶏肉駅弁です。『いっこく野州とりめし』という名で、本来は宇都宮駅の駅弁のようでした。それを先程渡邊佐平商店にて購入した日光誉、そして今市のもう一軒の酒造である片山酒造の柏盛の原酒も併せました。
日光誉の味については先程書いた通りですが、柏盛の方は良い意味で古色蒼然としたお酒で両者の酒質はだいぶ異なる。交互に飲む事でその対比が際立ち、相乗効果となって一層美味しく頂けたのでした。
その後は女峰山、男体山、太郎山、日光湯元温泉と経由して日光白根山へ。こちらは北関東きっての名峰で、自分の中で温めに温めていた山。ロープウェイを利用したら手軽に日帰りで登れてしまうような所ですが、今回の行程では5日目にしてようやくの登頂となり感慨もひとしお。
その日光白根山の山頂付近にある五色沼の岸辺での酒盛りの様子。日光誉と柏盛の飲み比べは殊の外楽しく、行程も中盤に差し掛かったこの頃になると瓶の中身も少し心許ない事に。
銘柄:日光誉 純米吟醸無濾過生原酒 夢ささら55%
使用米:夢ささら
精米歩合:55%
日本酒度:+1
アルコール度数:17度
価格(税込):2,000円/720ml
9位 安曇野だより 純米吟醸生原酒
第9位は長野県松本市、松本城から比較的近い場所に立地する善哉酒造の『安曇野だより 純米吟醸生原酒』です。こちらは8月に行った乗鞍岳登山の帰り、土産酒として帰宅前に蔵元に立ち寄って購入したものとなります。
1升でも4合瓶でもない、5合瓶というのは焼酎ではよく見かけますが、日本酒でも無くはないものの珍しい部類です。4合は1升の半額が相場(そうでないものも多いですが)で、4合瓶では割高になってしまうので顧客へのサービスとして敢えて5合瓶に詰めている……と、製造元の善哉酒造のおばちゃんに説明されました。
スペックとしては純米吟醸生原酒。使用米は不明ですが55%の磨きで、飲んでみると確かに華やかな味わい。生原酒に濃厚ですが、どこか安穏とした雰囲気を伴っており食事とも合わせやすいお酒でした。
ただし5合で2200円なので価格的には少々お高め。10位に入れた日光誉もそうですが、一升あたり4000円相当となってしまうので、55%磨きというスペックの割には……という事でこの順位に収まりました。
蔵元に赴いたのは乗鞍岳登山の行程最終日。十石山から白骨温泉に下山し、バスと電車を乗り継いで松本市内へ移動。善哉酒造はその松本の街中にあるのですが、その途中で展望地として有名な城山公園に寄り道してみました。
写真はその展望台からの眺めです。北アルプス方面は雲が多くいまいち判然としないものの、このお酒の由来でもある安曇野は広く見渡せました。
城山公園から工事中の旧開智学校、松本城の見物を経て市街地東部の善哉酒造へ歩いて向かいました。松本は北アルプス方面の登山で度々訪れている街ですが、こちらの酒蔵は駅から若干距離があり、やや足を運びづらい立地という事で今回まで訪問できていませんでした。
入口の横には女鳥羽の泉という湧水があります。近所の方の水汲み場として利用されている他、ここで製造された日本酒の仕込み水としても使用されているようです。
内部に入るとテーブルの上に雑然と酒瓶が並んでいます。蔵元のおばちゃんからの説明では、ここでの試飲はお酒を買う事が前提に手酌で何杯でもOKというシステムのようでした。無論、口に合わなかったら買わなくても良いとの事ですが、流石にそんな無粋な事をする人はあまり居ないでしょう。
訪問当時ではお酒以外にもぶどうやナスの粕漬けが並んでいて、なんだかじっくりと腰を落ち着けたくなる気分。チェイサーとして渡された水も表の女鳥羽の泉で汲んだものという。そのままの名前の銘柄もありますね。
試飲は手酌故に一杯の量はお任せで、気に入ったものを複数回飲むなんて事もOKですが、種類が多いので少しずつ試しながら楽しんでいきます。2巡目半ばくらいで純米吟醸生原酒である安曇野だよりに決めて蔵を出たのでした。お酒そのものは若干お値段が張りましたが、この酒蔵での試飲込みと考えた場合は適正、むしろ安いくらいかなと思います。
酒蔵では知り合いの農家から譲り受けたというナガノパープルが格安で販売されていたのでお土産にしました。普通に売られてるものと比べるとやや小粒ですが、味が濃くて美味しい。お土産としては日本酒よりも喜ばれたり……。
帰りの電車にて松本駅弁『山菜ちらし寿司』と購入した安曇野だよりを合わせる。ロングシートなのであまり食事ができる雰囲気ではありませんでしたが、県境の富士見を越えた頃から車内に数人という程度まで空いてくれたので、再び混み始める甲府までの暫しの間電車酒を楽しめました。
土産酒として持って帰った後は色々な料理に合わせてみました。やや骨太なお酒なので、肉系の濃い味付けの料理に合わせる事が多かった気がします。
使用米:不明
精米歩合:55%
日本酒度:不明
アルコール度数:17度
価格(税込):2,200円/900ml
8位 澤乃井 純米 涼し酒
第8位に選んだのは東京都青梅市、多摩川上流の御岳渓谷沿いに立地する小澤酒造の『澤乃井 純米 涼し酒』です。澤乃井と言えば東京地酒としては定番中の定番とも言える銘柄で、自分も年何回かは何かしらの種類を飲む機会があります。
こちらの涼し酒はスペックとしては純米酒の1回火入れですが、ラベルから見ても分かるように所謂夏酒のジャンルのお酒で、アルコール度数も13度とワイン程度にしかありません。
低アルの夏酒というと、個人的なイメージとしてはただ水で薄めただけのような物足りない味わいの物が多くてあまり積極的に選ぶ事が無かったのですが、今年の夏は暑くて濃厚なタイプのお酒を飲むのが少々辛く、偶にはこういうさっぱり目のものもいいかなと思って選んでみたのでした。
さて、実際に味わってみると……口当たり確かに低アルらしく軽快な印象ですが決して水っぽくはない。むしろ酒質は骨太とも言える。終わり際の切れも良いですが、それでいて余韻もそこそこ感じられる。自分の夏酒のイメージを塗り替えるような面白いお酒でした。
ラベルのスペック表示。使用米は記載されていないものの、ネットの情報では秋田酒こまち使用との事でした。
食中酒として抜群のお酒でしたが、専ら焼き魚や刺身といった魚介と合わせる事が多かったです。
この年は何かと澤乃井を飲む機会が多く、写真は晩秋頃に購入した新酒であるしぼりたて純米生原酒。涼し酒とはだいぶタイプが違うものの、こちらも全体的にさっぱりと纏まったお酒で、食中酒として美味しく頂けた。
11月の奥秩父山塊の縦走に担いでいったお酒の一本も澤乃井の本醸造一番汲みでした。こちらも新酒ですが、先程の純米生原酒と違いアル添の本醸造酒で、アルコール度数は19度。ガツンと来る濃厚な口当たりがまさに寒い時期の登山向け。
秋の終わり頃には澤乃井を製造する青梅の小澤酒造に足を運ぶ機会がありました。奥多摩においては定番の観光スポットで、隣接したガーデンではテラス席で日本酒を含む飲食が楽しめる。時期柄、ハイキングや紅葉見物の客で賑わっていました。
今回はこちらで2024年の正月酒として『澤乃井 木桶仕込み 生酛純米生原酒』を購入。新年第一号のお酒として年を越してからの口切りを予定しているのですが、開ける前から楽しみです。
園内では制限はあるものの仕込み水を頂く事ができる。ここでコーヒー用にプラティパス2本分頂きました。
今年は個人的に東京地酒、特に澤乃井や多満自慢、嘉泉といった既に定番化している銘柄に再注目し、その内の幾つかを実際に飲み進めてきた一年でした。その中だと今回は惜しくもランキングには入りませんでしたが、嘉泉の特別本醸造無濾過原酒(幻の酒)も中々に面白いお酒で印象に残っています……醸造元の福生の田村酒造場にはまだ立ち寄った事が無いので、年明けくらいに足を運べるといいなと思ってます。
銘柄:澤乃井 純米 涼し酒
使用米:あきたこまち
精米歩合:65%
日本酒度:+1.6
アルコール度数:13度
価格(税込):2,420円/1,800ml 1,210円/720ml
7位 たにざくら 純米吟醸生酒
第7位は山梨県北杜市にある谷櫻酒造の『たにざくら 純米吟醸生酒』です。こちらのお酒については酒蔵訪問で調達した訳ではなく、小売店で購入したものです。
谷櫻酒造の代表銘柄は酒造の名を冠した谷櫻ですが、このひらがなバージョンは一部の特約店(今回は山梨県笛吹市にあるリカーショップサエグサにて購入)のみの取り扱いらしくネットではあまり情報が流れていません。お店の方の話によればスペックも味の傾向も全くの別物らしいです。
実際に飲んでみると、2,500円程度のお酒とは思えないくらいに香りが豊かです。それでいてキレも良く上手く纏まっている。全体的に主張が強いのでインパクトがあり、飲んでいて楽しいお酒でした。
これは面白い酒蔵を見つけたな……と思ったのですが、今年6月末に通販企業であるベルーナに買収されたという事で、経営が変わり方針も変わってしまうのではと、購入したお店の方は少々心配されていました。この高コスパの美味しいお酒も変わらず残ってくれればいいのですが。
ラベルのピンク色の稜線が目を引きますが、製造元が北杜市なので恐らく八ヶ岳でしょう。
ラベル側面の情報表示。何店舗かの特約店向けのお酒という事で記載は精米歩合とアルコール度数のみと最低限のものです。この華やかさからすると良い所の酒米を使ってそうですが。
ラベルのモチーフになったと思われる八ヶ岳。今年11月の奥秩父山塊縦走の終盤、三ツ沢ノ頭というピークから撮ったものです。稜線のギザギザした印象はそれっぽいですが、ラベルの方はだいぶデフォルメされていますね。
さて、今年は東京地酒の定番銘柄を追った一年……と既に書きましたが、同時に山梨県の日本酒を集中して楽しんだ年でもありました。
山梨県といえば言わずと知れたワインの県で、日本酒を醸す酒造も他の都道府県と比べると少ないです。しかし笹一や七賢、青煌といった銘酒界隈では多少知られた銘柄は幾つか存在しており、自分もそれらは何度と飲んでいました。
しかしこのたにざくらを始め、首都圏ではあまり出回っていないような地元消費の銘柄、所謂地酒とも言えるような日本酒も多く存在しており、その点最近は何かと山梨県に足を運ぶ事が多かったので幾つか試してみた次第です。銘柄としては今年だけで富士河口湖町の甲斐の開運、富士川町の春鶯囀、山梨市の養老と試しています。
銘柄:たにざくら 純米吟醸生酒
使用米:不明
精米歩合:59%
日本酒度:不明
アルコール度数:17度
価格(税込):失念、たぶん2,500円/1,800mlくらい
6位 真野鶴 純米 Brease(ブリーズ)
第6位は新潟県佐渡市にある尾畑酒造の『真野鶴 純米 Brease(ブリーズ)』です。こちらも5位のたにざくらと同様、小売店での購入となります。
真野鶴といえば地酒としては割と知られた銘柄で、自分もこれまで何度か飲んでいます。スペックとしては新潟の酒らしからぬ(という認識も最早古いと思いますが)濃厚なお酒が多い気がしますね。
さて、今回はその真野鶴の中でもラベルからして異彩を放っています。なんでも酒蔵の所在地の佐渡の名産であるブリと合わせる事に特化したお酒との事。
味わいとしては全体的に辛口のお酒ですが、日本酒度+8という数字にしてはドライではなくむしろ濃厚で甘味も少なからず感じられる。青魚の味の強さにも負けないような芯の太さを感じさせるレベルの高い食中酒でした。
背面ラベル。記載はありませんが、使用米は飯米であるこしいぶきとの事。複雑味のある味わいはそれ故でしょうか。
ブリに合わせる為に作ったお酒らしいので、とりあえずブリの刺身と一緒に。
それとは別の日に真鯛やサーモンの刺身と合わせてみましたが、こちらでも美味しく頂けました。まあブリだけと言わず合わせようとしたら何にでも合う、そんなお酒でした。
銘柄:真野鶴 純米 Brease(ブリーズ)
使用米:こしいぶき
精米歩合:65%
日本酒度:+8
アルコール度数:16.5度
価格(税込):2,750円/1,800ml 1,375円/720ml
5位 金泉 純米寒椿無濾過 生貯蔵
第5位は岐阜県の川辺町にある平和錦酒造の『金泉 純米寒椿無濾過 生貯蔵』です。9位の安曇野だよりと同様に8月に行った乗鞍岳登山の際に調達したお酒で、こちらは往路に山に担いでいくものとして調達しました。
ラベルには『純米原酒、無濾過、しぼりたて生』とだけあり、銘柄(商品名)としては何か結局分からなかったので便宜上、メインに製造されている銘柄の名称を頭に付ける事にしました。ちなみにその後に付けた『純米吟醸寒椿無濾過』という名称は公式サイトの当該商品のページに記載されていたものです。商品名としてはこちらが正しいのかもしれません。
ラベルにはしぼりたて生とありますが、上部のシールにあるように生貯蔵なので1回火入れのお酒となります。味わいとしては甘味辛味が主張し合うタイプ。それでいて調和は上手く取れており、単体でも食中でもどちらでも行けそうな感じです。
こちらはその製造元である平和錦酒造。高山本線の下麻生駅から徒歩圏内にあり、如何にも酒蔵って感じの中々に趣深い建物です。後背に聳える岩峰は遠見山という名の山で、岐阜のグランドキャニオンの異名があるという。
酒蔵内部の様子。ラインナップは意外に手広く、リキュールなども扱っているようでした。奥には古道具が並べられた展示室のような一角も。
冷蔵ケースに並べられたお酒の種類も豊富です。蔵の人との話に夢中になってしまったので写真を撮り忘れてしまいましたが、試飲も可能で粗方の種類を試す事ができました。
平和錦酒造の訪問後、所変わって乗鞍岳の中腹にある奥千町避難小屋です。乗鞍岳へは高山市側を起点とする青屋登山道を経由して登ったのですが、殆ど人が通らないコースという事で静かな登山が楽しめました。
避難小屋周辺のロケーションの素晴らしさに酔いつつ、木道をベンチ代わりにして暫しお酒を楽しむ。担いできた金泉もいつしか半分以下に。
そのまま木道上に夕食を広げました。まさに至福のひととき。
奥千町避難小屋で宿泊した翌日は乗鞍岳に登頂しました。山頂すぐ近くの畳平まで道路が通じており、そこから僅か2時間で登頂できる山として知られていますが、高山からだと2日掛かりました。
乗鞍岳からは尾根伝いに十石山へと移動しました。山頂近くに立派な避難小屋がありますが、せっかくなので景色を眺めながらの一人酒盛り。すぐ近くに見える焼岳や穂高連峰を肴にして飲むお酒の味は格別でした。
銘柄:金泉 純米寒椿無濾過 生貯蔵
製造元:平和錦酒造(岐阜県加茂郡川辺町 下麻生)→公式サイト
使用米:五百万石
精米歩合:60%
日本酒度:不明
アルコール度数:17~18度
価格(税込):1,830円/720ml
4位 明鏡止水 純米大吟醸 m'22
第4位は長野県佐久市の大澤酒造の『明鏡止水 純米大吟醸 m'22』です。こちらも7位と6位と同様、蔵元訪問ではない小売店での購入となります。
明鏡止水は地酒界隈では割と早い内から知られている銘柄で、首都圏の地酒専門店でも取扱店は多く目にする機会も多いです。自分も殆ど毎年のように何かしら飲んでいます。
さて、今回のお酒は45%磨きの純米大吟醸酒。普段ここまで磨いた吟醸系のお酒は中々あまり手が伸びないのですが、このお酒は一升瓶で3,666円とそこそこ手頃。一体どんな感じなのだろうと眺めていると、酒屋の方にめっちゃ凄い勢いで進められたのでそのまま購入したという次第です。
実際の味わいとしては45という数値通り華やかなのですが、透明感あるタイプというよりは複雑味があって濃厚さを感じさせるタイプ。個人的にはストレートな吟醸系って感じのお酒はあまり好みではないのですが、こちらのお酒はそこそこ複雑で甘辛のメリハリもある。飲み飽きないお酒でした。
背面ラベルです。ここには記載されていませんが、使用米は山田錦と美山錦の二種類を使用しているとの事。
ここまで磨いた吟醸酒なのでどちらかと言えば単体で楽しむのがセオリーですが、キレもしっかりあるので食中でも中々行けます。重厚なタイプなのでこってり系の料理によく合うかなと思いました。
銘柄:明鏡止水 純米大吟醸 m'22
使用米:山田錦、美山錦
精米歩合:45%
日本酒度:+1
アルコール度数:16度
価格(税込):3,666円/1,800ml 1,650円/720ml
3位 賀茂鶴 純米吟醸生原酒 青冴え2023
いよいよトップ3です。第3位としたのは広島県東広島市、酒の町として有名な西条にある賀茂鶴酒造の『賀茂鶴 純米吟醸生原酒 青冴え2023』です。
こちらは3月から4月にかけての中国地方方面の登山旅行の際に蔵元を訪れて購入しました。訪問時は丁度賀茂鶴酒造の蔵開きが行われていて、普段売られていないような特別なお酒を楽しめる試飲会(有料)も行われていました。
こちらのお酒は蔵元限定販売の『賀茂鶴 純米吟醸生原酒 青冴え』の2023年の蔵開き限定で購入できるバージョンです。使用米に関してはレギュラーのものは山田錦ですが、こちらは広島県の酒造好適米である八反錦とスペックも異なる。
味わいは甘味酸味が若干強めのゴージャスな吟醸酒。それでいて甘ったるくはなく、食中でも全然合わせられそうな感じ。八反錦の60%というとスペック的には決して高いものではありませんが、それでこの味が出せるというのは実力でしょう。流石は酒の街西条の最大規模の酒造が限定酒として出しているものというだけある。
白漆喰の壁とレンガの煙突が立ち並ぶ西条の町並み。一帯は西条酒蔵通りの愛称があり、駅東の狭いエリアには6軒の酒蔵が林立する。西条は全国屈指の酒造密集地帯として知られており、近年では京都の伏見、神戸の灘に並ぶ三大酒どころなんて風に呼ばれているようです。
日本一の規模の日本酒イベント『酒まつり』もこの地で行われ、その際は全国津々浦々の日本酒がこの地に集まる。
訪れた4月には蔵開きのイベントが行われていました。市内の酒蔵で毎週末2~3軒ずつ持ち回りで催しが行われるようで、今回は福美人酒造と賀茂鶴酒造の2軒でした。
福美人酒造で限定酒の試飲や粕汁の振る舞いを楽しんだ後に賀茂鶴酒造に移動しました。西条において最大規模の酒蔵という事で試飲スペースの規模も大きく種類も非常に豊富。テレビカメラの撮影も行われていました。
試飲した賀茂鶴の2種類……ですが既に他にも3種類飲んでいたので合計5種類。大吟醸のように単純にスペックが高いものは勿論、スパークリングや生酛造りのものと意欲的なお酒が多いので殆どコンプしてしまいました。
お猪口になみなみ注いでくれるので総量は結構なものですし、既に福美人酒造で試飲を楽しんだ後なので昼前からほろ酔い気分。
西条を訪れたその当日には山に入り、その翌日には核心部である恐羅漢山の登頂を果たしました。写真はその後、砥石郷山手前から恐羅漢山を振り返った所です。全体的に景色は地味でしたが、あまり縁のない山域という事で歩いていて新鮮味があって楽しかったです。
テントでの夕食風景。持参したお酒は西条で調達した賀茂鶴と明石の明石鯛。際立った吟醸酒と無骨な濃醇辛口酒という対比が良い。
こちらは登山を終えた帰り道、ガラガラの山陰本線での食事風景。担いでいった明石鯛は空となり無くなりましたが、代わりに安来の月山に倉吉の元帥の2本が加わり3本体制。合わせた食事は倉吉で調達した米子駅弁『大山おこわ弁当』でした。
使用米:八反錦
精米歩合:60%
日本酒度:不明
アルコール度数:16~17度
価格(税込):1,800円/720ml
2位 Tsuchida F
第2位は群馬県川場村、川場温泉ほど近い場所にある土田酒造の『Tsuchida F』です。こちらも酒蔵に訪問して購入したお酒で、10月の上州武尊山登山においての登山酒として調達しました。
日本酒らしからぬ銘柄、かつデザインの瓶ですが中身はそれ以上に異彩を放っています。スペック的には純米酒ですが、飯米使用の90%磨きの低精白の生酛造り、種麹には焼酎用の黄麹を用いた日本酒度-29という変わり種のお酒です。蔵元の土田酒造は観光バスも多数訪れる観光蔵という事前情報があったので、このような我が道行くような傾向のお酒を作っているとは知らず、試飲した時は度肝を抜かれました。
まず全体的な印象としては酸味と甘味。酸味にしても酢のようなキツさではなく、果実のような清涼感。印象が強いが故に余韻が薄れると途端に寂しくなり、無意識に盃に手が伸びてしまう……そんなお酒でした。
今回は母親を連れての登山だったので酒蔵での試飲も一緒に楽しんだのですが、自分以上に気に入っていた様子でした。女性は……と一概に纏めて言い切ってしまうのもアレですが、比較的甘酸っぱいお酒を好む人が多いのでストライクだったのでしょう。
ちなみに右のグラスは土田酒造で購入したもの。『土』の象形文字をモチーフにしたデザインらしいです。グラスなんて割れ物を登山前に買っていくなんて一人じゃまずやらないですが、今回は家族登山という事で……。
こちらが製造元である土田酒造。川場村の下宿というバス停の近くに立地しています。バスツアー等で来る人が多いのか駐車場が広々としている。
試飲は専用のカウンターで楽しめます。飲める種類もかなりのもので、味のタイプ別の一覧図も用意されています。どれも傾向が異なり、どれも違った良さがあったので1本に絞るのが大変でした。
悩みに悩んで選んだ『Tsuchida F』。冒頭に書いたような印象的な味わいを気に入り、また比較的手頃な価格帯だったのが決め手となりました。
そしてこの日の内に上州武尊山の登山口でありキャンプ場でもある川場谷野営場に移動。写真はそこでの夕食風景です。ソーセージにパスタとおよそ日本酒向きではないものを持ってきていたのですが、購入した日本酒も日本酒離れしている味わいなので却って正解とも言えるチョイスでした。
ソーセージを食べつつのTsuchida F。ビールより合うかもしれない。
締めにはパスタ。一人登山では中々できない充実した食事でした。
翌日の上州武尊山登山、家ノ串山から上州武尊山方面を臨んだ所。岩場や鎖場が豊富な手強い山でしたが、天候には恵まれ終始展望を堪能できました。
銘柄:Tsuchida F
使用米:不明(飯米)
精米歩合:90%
日本酒度:-29
アルコール度数:14度
価格(税込):1,830円/720ml
1位 明石鯛 特別本醸造原酒
2023年における第1位は兵庫県明石市、明石酒類醸造の『明石鯛 特別本醸造原酒』です。こちらのお酒は3位の賀茂鶴と同様、3月から4月にかけての中国地方方面の登山旅行の際に蔵元を訪れて購入しました。
こちらの銘柄は存在は以前から知っており、明石といえば鯛というイメージを地で行くような潔い名前が以前から気になっていました。しかし酒造の規模としてはそこまで大きくはなく、国内よりも海外輸出に力を入れているという事もあってか首都圏では見かけず、今まで飲む機会に恵まれませんでした。
さて、今回も酒蔵での試飲において他のスペックと飲み比べたのですが、こちらの特別本醸造原酒は傾向としては辛口。それもかなりの濃醇さで、まさに瀬戸内海の急流に揉まれて育った明石の鯛のように筋肉質な酒質。確かに明石鯛、看板に偽り無し……と、妙な感じで腑に落ちたのが購入の決め手となりました。
明石酒類醸造に向かう直前、そのお酒のアテとなる魚の調達に有名な魚の棚商店街に立ち寄りました。ここも明石に訪れる度に立ち寄っているのですが、この日はなんだかインバウンド客か何かで全体的に混雑。既に粗方買われた後だった為か、いつも立ち寄る鮮魚店が早々に店じまいしており、他のお店にも目ぼしい物があまり残っていない状況。
それでも幾つかのお刺身は確保できましたが、その過程でちょっと不愉快な思いをしたという事もあり、魚の棚は今回で最後かな……という気分でもありました。肝心の鯛も手に入れられませんでしたし。
やや消沈気味に魚の棚商店街から東側、旧西国街道沿いに歩いていきます。中心街暫くは名残はありませんでしたが、少し進んでいくと何やら雰囲気のある町並みに。卯建が残っている家も所々あります。
街道沿いの稲爪神社にはこれから向かう明石酒類醸造の明石鯛の酒樽が奉納されていました。
こちらは明石酒類醸造の販売施設であるビジターセンター。山陽本線の朝霧駅の徒歩圏内で、道路を挟んだ向かい側にはJRと山陽電車の線路があり、頻繁に電車が駆け抜けていきます。
こちらでの試飲は有料試飲という形態ですが、商品を購入すると試飲の料金分が差し引かれるというシステムなので、お酒を買う前提であれば実質無料で楽しむ事ができます。お酒だけではなく、つまみにタコせんべいも付いてくるのが嬉しい所。
明石酒類醸造では日本酒だけではなくウイスキーやクラフトジン等も製造しているので、今度訪れた際には試してみたいですね。今回辟易させられた魚の棚商店街についても、そのついでという形ならまた足を運んでも良いかなと思ったのでした。
購入後、朝霧駅の駅裏の大蔵海岸海水浴場に向かい明石海峡大橋と淡路島を臨む。
中国地方への登山に向けて電車で西の方へ。糸崎辺りで車内が完全にガラガラになったので、満を持してという感じで明石で調達した刺身と大垣で購入したちらし寿司、そして先程購入した明石鯛を広げる。明石鯛という銘柄故に明石の鯛が無いのは手痛い所ですが、これはこれで……とひとまず満足しておく事にしました。
銘柄:明石鯛 特別本醸造原酒
製造元:明石酒類醸造(兵庫県明石市 大蔵八幡町)→ 公式サイト
使用米:五百万石
精米歩合:60%
日本酒度:不明
アルコール度数:19度
価格(税込):1,870円/720ml
あとがき
以上で本年のランキングは終わりとなります。1~10までのラインナップを見てみると、首都圏の地酒専門店で取り扱っているような銘酒と呼ばれるものはあまり多くはなく、他の地域にはあまり卸していない地酒らしい地酒が多く占める結果となりました。
個人的には南アルプスの白峰南嶺の縦走を共にした表題にもある春鶯囀もランクインさせたかったのですが、こちらは酒蔵に立ち寄ったという訳でも無かったので印象は他のお酒と比べると強くはなく、残念ながら今回は外れてしまいました。
という訳で本日も登山の合間という形ですが、意外にも色々なお酒を楽しめた一年でした。この調子で来年も美味しいお酒と縁があると良いですね。