2022年9月、月山や鳥海山といった東北地方方面の登山旅行に出掛けてきました。この記事ではその時の情報や記録等を掲載しますので、実際に登る際の参考にして頂ければ幸いです。
目次
- 山域の案内
- 実際の登山記録
山域の案内
月山
月山は山形県の山形盆地と庄内平野を隔てる形で位置している山で、標高は1,984m。出羽三山の一つである月山神社が山頂に鎮座している事で知られていますが、出羽三山巡礼の人はもとより、深田久弥著の日本百名山にも選定されているので百名山登頂目当ての方も多く訪れる山です。また東北の日本海側の山という事で積雪量も非常に多く、春から夏の始め頃までスキーが楽しめるという事も大きな特徴とされています。
山頂までのコースは古くから信仰登山で登られているという事で多数整備されており、北側の月山八合目から弥陀ヶ原を経由して登る羽黒山口、西側の湯殿山神社から月光坂を登る湯殿山口、南西側のザンゲ沢に沿って登る装束場口、姥沢登山口からリフトを利用して登る志津口、南東側の月山湖下部の本道寺集落から登る本道寺口、本道寺から更に下流の岩根沢集落から登る岩根沢口、そして東側の肘折温泉から登る肘折口とバリエーションは豊富です。
この中で最も多く登られているのはリフトの利用が可能な志津口で、リフト降り場から山頂まで2時間という所要時間とお手軽に登れます。次いで人気なのが羽黒山口でこちらは3時間と日帰りでの往復も容易です。
逆に人が少ないコース(不人気)は行程の長い本道寺口や肘折口で、本道寺口は登山口から山頂まで7時間、肘折口は10時間20分という長さ。ここまで来ると日帰りは厳しく途中にある避難小屋での一泊が行程として無難です。
他には湯殿山神社や志津から六十里越街道と呼ばれる、かつて庄内平野と山形盆地を結んでいた古い街道が月山を掠めるように通じており、こちらを繋げて歩く事も一応ながら可能です。
登山口までの公共交通を使ったアクセス
殆どの登山口は公共交通でのアクセスが可能ですが、どの路線も縮小傾向であるが故に本数は十分ではなく、運行時刻も登山はもとより観光客向けではないものも多いです。
羽黒山口
駅からバス一本で到達できるので、公共交通を利用した場合は最も到達容易な登山口となります。利用の場合は鶴岡駅から庄内交通の路線バスで月山八合目バス停にて下車。羽黒山から先の区間は夏季シーズン時のみの運行なので注意が必要です。
他、あまりポピュラーではありませんが月山六合目の平清水避難小屋から登り始めるコースも存在します。その場合は途中の月山六合目バス停にて下車となります。
また北月山荘から北月山七合目まで登るコースも整備されており、こちらの利用の場合は余目駅もしくは狩川駅から庄内町町営バスの利用となります。登山口となる北月山荘まで向かうバスは1日2往復と少ないですが、途中での宿泊を前提とすれば十分活用できるでしょう。
湯殿山口
出羽三山の一つである湯殿山神社ですが直接向かう路線バスは既に廃止されており現在は存在しません。しかし夏季シーズン時は山形と庄内エリアを結んでいる高速バスが湯殿山神社から少し離れた所にある湯殿山口バス停を経由し、そこから無料送迎バスが湯殿山仙人沢、更に本宮参拝バスが湯殿山神社まで運行しているので、乗り継ぎは必要となりますがバスのみでの到達が可能です。
但し年度や時期によって乗り継ぎ時刻が逐一変わるようなので、詳しくは運行会社である庄内交通に問い合わせてみて下さい。シーズン近くなれば恐らく公式サイトのお知らせ欄に記載されるものと思います。
志津口・装束場口・本道寺口・岩根沢口
リフトの利用が可能で登頂容易な志津口も路線バスでのアクセスが可能ですが、こちらも途中での乗り継ぎが必要となります。
仙台や山形、庄内から向かう場合は山形自動車道を経由する高速バスに乗車し、西川バスストップにて下車。その近くにある西川ICバス停から西川町営バスを登山口となる姥沢バス停、装束場口の場合は志津野営場バス停、本道寺口の場合は本道寺バス停までの利用となります。(但し志津から先の区間は冬季運休となります)
【時刻表】西川町営バス(西川ICバス停~本道寺・志津野営場・姥沢)
途中まで鉄道を利用したい場合は寒河江駅から西川町営バスで道の駅にしかわバス停。道の駅にしかわバス停から姥沢バス停(もしくは志津野営場バス停、本道寺バス停)と乗り継ぎます。いずれの路線バスも西川町営バスですが路線が異なるので途中での乗り継ぎが必要となります。
【時刻表】西川町営バス(寒河江駅~道の駅にしかわバス停~本道寺・志津野営場・姥沢)
岩根沢口の場合、登山口となる岩根沢バス停まで向かう路線も存在しますが、1日1往復スクールバス(一般客の混乗が可能)が運行されているのみなので登山に使えるかと言われれば難しい所です。岩根沢バス停は道の駅にしかわバス停から徒歩1時間くらいなので、そのまま歩いてしまうのが手っ取り早いと思われます。
利用の場合は途中の綱取不動尊バス停にて乗り継ぐ形となります。道の駅にしかわバス停は岩根沢方面に向かうバスは一部経由しませんのでご注意下さい。
【時刻表】西川町営バス(西川ICバス停~綱取不動尊~岩根沢)
肘折口
肘折口から登る場合は新庄駅から大蔵村営バスに乗り、登山口となる肘折温泉待合所で下車という形となります。平日に関しては本数は豊富ですが、土日祝は肘折温泉待合所の到着が始発でも正午を過ぎてしまっており、その日の内に念仏ヶ原避難小屋に向かうのは少々厳しいです。肘折温泉で一泊して朝一で出発するのが無難でしょう。
六十里越街道
六十里越街道を繋げた場合は田麦俣、大網、そして起点(終点)の松根といったタイミングで麓に降りますが、どの箇所もバスの便が充実しているとは言い難いです。
田麦俣にはかつて庄内交通バスが運行されていたものの近年廃止となりました。しかし廃止代替バスとして鶴岡市営バス田麦俣線が運行されています。利用の場合は鶴岡駅から庄内交通バスに乗り朝日庁舎前バス停で下車、そこから鶴岡市営バスに乗り換えて田麦俣バス停、もしくはその周辺のバス停で下車するという形となります。本数に関しては午前午後の2往復のみですが、午前便を乗り継げば9時丁度頃に田麦俣に到着できるので登山にも十分使えそうです。
【時刻表】鶴岡市営バス田麦俣線(朝日庁舎前~田麦俣口・田麦俣・旧田麦俣分校口)
大日坊や注連寺近くの大網を基点とする場合、田麦俣まで向かう鶴岡市営バス田麦俣線が集落内の大網バス停を経由するのでこちらの路線の利用が可能です。大網バス停までは庄内交通の路線も運行されていますがこちらは本数が非常に少なく、夜間到着の便しか無いので登山目的での利用は厳しいです。
起点の松根を経由する路線バスもかつては存在しましたが、こちらも近年廃止になりました。しかし赤川を渡った先では鶴岡駅と朝日地区を結ぶ路線バスが運行されているので、少し歩く事でバスを利用する事が可能です。松根から向かう場合は板井川バス停、弘法の渡しから向かう場合は山添バス停辺りが便利でしょう。
六十里越街道の山形側の登山口は装束場口の起点となる志津野営場バス停となります。志津野営場バス停までのアクセスの詳細は2つ前の項の『志津口、装束場口、本道寺口、岩根沢口』の解説を参照下さい。
鳥海山
鳥海山は山形県と秋田県の県境に位置する火山由来の独立峰で、標高は2,236mと東北地方においては尾瀬にある燧ヶ岳に次いで2番目に標高が高い山で、出羽富士とも呼ばれる均衡の取れた山容を持ちます。
山頂部は北側に開いた馬蹄形のカルデラの形状で、火口丘の新山と火口壁上の七高山という標高の近い2つのピークが並んでいます。どちらもひっくるめて山頂のようですが、一般的には標高の高い新山の方が鳥海山の山頂とされているようです。こちらの山も月山と同様に古くから山岳信仰、特に鳥海修験道という独自の形の修験道における聖地とされており、新山の直下に鎮座する鳥海山大物忌神社の本社はその中心地とされていました。
月山と同じく日本百名山にも選定されているので人気の山ではありますが、最短コースとされる矢島口からでも登り4時間と行程が長く、それなりに健脚の山となります。登山コースは北側から時計回りに、祓川ヒュッテから七高山を目指す矢島口、その少し下部から登り始めて途中の七ツ釜避難小屋で矢島口と合流する猿倉口、大清水園地から七高山を目指す百宅口、鶴間池上部の登山口から滝ノ小屋を経て伏拝岳を目指す湯ノ台口、その遥か下部から登り始めて滝ノ小屋にて湯ノ台口と合流する蕨岡口、一ノ滝神社から月光川を登り詰めていく二ノ滝口、一ノ坂から万助小屋を経由して鳥海湖を目指す万助口、山ノ神から笙ヶ岳方面に登る長坂口、大平から鳥海湖を目指す吹浦口、鉾立から御浜小屋を目指す象潟口と数多くあります。
最も人気なのは登山口までのアクセスが良好な吹浦口と象潟口。次いで距離の短い矢島口となります。
登山口までの公共交通を使ったアクセス
公共交通の貧弱な地域なので難しい所ですが、幾つかの登山口は路線バス等でのアクセスが可能です。
吹浦口・象潟口
公共交通利用の際によく選ばれるコースです。夏季シーズン時の土日祝のみですが象潟駅から予約制乗り合い登山バスの鳥海ブルーライナーが運行されており、吹浦口の場合は大平口バス停、象潟口バス停の場合は鉾立口バス停まで利用します。
本数は1日3往復ありますが、日帰りでの山頂(新山)の往復は時間的にギリギリなので、登山口や途中の山小屋で宿泊しての1泊2日行程で余裕を持って登るのが無難でしょう。
矢島口・猿倉口・百宅口
秋田県側のこちらの登山口に向かう路線バスは多くはありません。利用の場合は羽後本荘駅もしくは由利高原鉄道の矢島駅から羽後交通の路線バスで鳥海菜らんどバス停、そこから由利本荘市コミバス猿倉線に乗り継いだ先の鳥海荘前バス停が矢島口及び猿倉口の最寄りのバス停となります。但し猿倉口までは10km、矢島口まで13kmの距離があるので、登山口までのアクセスとして使えるかは微妙な所です。
【時刻表】羽後交通 本庄・伏見線(羽後本荘駅・矢島駅~鳥海菜らんど)
【時刻表】由利本荘市コミバス猿倉線(鳥海菜らんど~鳥海荘前)
百宅口の場合は前述の鳥海菜らんどバス停から由利本荘市コミバス中直根線に乗り継いだ先の礒ノ沢バス停もしくは石舟バス停(こちらのバス停利用の場合は要予約)辺りから歩き始める事になります。以前は更に先の下百宅までバスが通じていたので鳥海荘前から歩き始めるよりは距離も短かったのですが、一帯のダム建設で百宅地区が水没する事が決まり、それに伴い路線バスも短縮されてしまったので利用価値が減少しました。
【時刻表】羽後交通 本庄・伏見線(羽後本荘駅・矢島駅~鳥海菜らんど)
【時刻表】由利本荘市コミバス中直根線(鳥海菜らんど~礒ノ沢・石舟)
他、矢島駅のタクシー乗り場で矢島口の登山口となる祓川まで2人以上で利用可能な定額の乗り合いタクシーの案内を見つけたのですが、ネットに情報が無いので詳細は不明です。興味がある方はタクシーの運行会社である鳥海観光にお問い合わせ下さい。
湯ノ台口、蕨岡口、万助口、長坂口
庄内平野に面したこれらの登山口ですが、2022年に酒田管内の路線バスが全廃となり住民のみ利用可能なデマンドタクシーに置き換わってしまったので、現在では利用可能な路線バスは存在しません。どうしてもこれらのコースを歩きたい場合は遊佐駅、南鳥海駅、本楯駅辺りの羽越本線の駅から直接歩き始めるかタクシー利用となります。
実際の登山記録
1日目 往路、白水阿弥陀堂と閖上港
移動日となる初日は山形県の新庄までの電車移動が大半。今回は常磐線から福島県の浜通りを経由して北上しましたが途中、前々から行きたかった国宝建築物の白水阿弥陀堂の見物したり、宮城県に入ったら沿岸部の閖上港に寄り道して酒蔵で試飲がてら登山用の日本酒を調達したり、郷土料理のはらこ飯を食べたりと、思い返してみればそれなりに観光要素も盛り込まれていた一日でした。
2日目 月山から六十里越街道その1(肘折温泉→小岳→念仏ヶ原避難小屋)
長い月山登山の初日にあたる一日。前泊した新庄から路線バスを利用して登山口である肘折温泉まで移動、申し訳程度に温泉街の散策を済ませてから登り始めます。登山口から先は大森山のトラバースに猫又沢や赤沢川の渡渉、小岳を始めとした小ピークの乗り越しと、山の中へ分け入ってくようなイメージの道が続く。数ある月山の登山道の中では最も人気の無いコースという事で人の気配が一切感じられず、宿泊地である念仏ヶ原避難小屋まで終始静かな山歩きを楽しめました。
3日目 月山から六十里越街道その2(念仏ヶ原避難小屋→月山→姥ヶ岳→湯殿山神社→細越峠)
月山登山の2日目は行程が非常に長いので未明からの出発となりました。暗闇の中、最鞍部である清川橋前後の荒れた区間の通過に手間取ったり、山頂までの標高差1000mを越える強烈な登り返しにへこたれたりしましたが、無事に今回の登山のメインである月山の山頂に登頂。その後は一転して人の姿が多くなり姥ヶ岳の往復を済ませるまでは賑やかな道中が続きましたが、湯殿口方面の道はあまり歩かれていないのか再び静かな道に。語るべからずの湯殿山神社に下山した以降は豆腐道の渡渉、六十里越街道に合流した後に少しだけ距離を稼ぎ、細越峠の付近でこの日は終えました。
4日目 月山から六十里越街道その3(細越峠→田麦俣→大日坊→松根→弘法の渡し→下桂バス停)
月山登山の3日目はひたすら六十里越街道に沿って歩く一日でした。この日も行程が長い上に乗車予定のバスの時間も気掛かりなので未明からの出発。出発時から雨に降られており修行のような道程が予想されましたが、田麦俣の集落に下る頃には雨も止んでくれて安堵。塞ノ神峠を乗り越した先では大日坊にて伽藍や即身仏を見物したり、同じく湯殿山系の寺院である注連寺に立ち寄ったりと所々で観光要素を織り交ぜつつ、六十里越街道の起点である松根集落、そして弘法大師伝説残る弘法の渡しまで歩き通しました。そして下山後はバスと電車を乗り継ぎ、翌日から始まる鳥海山登山に備えて酒田まで移動。
5日目 鳥海山矢島口から長坂口その1(鳥海荘→祓川→七ツ釜避難小屋)
鳥海山登山の初日となりますが、この日は登山口までの舗装路歩きがメインとなる一日でした。まず前泊した酒田からは電車を乗り継ぎ鳥海山の北側に位置する矢島へ移動。町内の酒蔵で日本酒を買い足した後、バスを乗り継いだ先の鳥海荘から歩き始めます。しかし矢島口の登山口である祓川までは12km、遥か遠くに見える鳥海山を見据えながら舗装路を歩み進め、祓川に到着する頃には日が傾き始めた頃。そこから更に少し登り始めた所の七ツ釜避難小屋にてこの日は終了となりました。
6日目 鳥海山矢島口から長坂口その2(七ツ釜避難小屋→七高山→七ツ釜避難小屋)
鳥海山登山の2日目となるこの日は鳥海山の山頂である七高山と新山を乗り越えて下山する……予定の一日でした。しかし最初のピークである七高山に近付けば近付く程にガスは濃くなり、山頂に到着する頃にはそこそこの雨。前日の苦労した舗装路歩きの結果がこれではあまりにも……と暫し悩み、天気予報と相談した結果、七ツ釜避難小屋に引き返し翌日改めて登頂する事に決めたのでした。引き返した後は昼寝をしたり岩場で景色を眺めながらお酒を飲んだりと怠惰に過ごす。
7日目 鳥海山矢島口から長坂口その3(七ツ釜避難小屋→七高山→新山→御浜→笙ヶ岳→長坂道→遊佐駅)
予定外に生まれた鳥海山登山の3日目。この日は七高山山頂からの日の出を目指して前日以上に早立ちし、今回の登山では初めてとなる日の出見物が叶いました。その後も天候は安定し、最高峰である新山の登頂、伏拝岳、鳥海湖と絶景を堪能しながらの山歩き。笙ヶ岳から先は名前通り長い下り坂が延々と続く長坂口のコースを駆け下りていく。しかし標高差1,500mを一気に下るのは流石に足が堪えたのか途中から牛歩となり、ゴールの遊佐駅に到着する頃には日が沈み薄暗くなり始めた頃。下山後は電車を乗り継いで新潟県と山形県の県境である鼠ヶ関まで移動しました。
8日目 帰路、鼠ヶ関と胎内市内の史跡巡り
最終日は初日と同様に殆ど電車移動の一日となりましたが、時間的には余裕があった為にそこそこ観光のような事もできました。前泊した鼠ヶ関は奥州三古関の一つである念珠の関が置かれた地で、その名残で街中の家続きのような所に県境があるのが特徴。その後は沿岸部を南進して新潟県へ。訪れるべき候補地は幾つかありましたが、父方の実家であった胎内市を久々に訪れてみたくなり、中条駅で自転車を借りて墓参りがてら重文指定の三重塔がある乙宝寺を始めとした幾つかの史跡を見物したりしました。その後は東京都内まで延々電車を乗り継いで帰宅。
GPSログ
2~4日目『月山から六十里越街道』
肘折口からスタートして念仏ヶ原避難小屋にて1泊。2日目に月山の山頂に登頂、湯殿山神社に下りそこから六十里越街道に合流してもう1泊。3日目は六十里越街道に沿って庄内平野方面に抜けました。
5~7日目『鳥海山矢島口から長坂口』
秋田県側の鳥海荘から矢島口を経由して七ツ釜避難小屋にて1泊。2日目は悪天の為、七高山に登頂後前泊した七ツ釜避難小屋に引き返しました。3日目に再び七高山に登頂、新山を往復した後は伏拝岳経由で鳥海湖に下り、笙ヶ岳から長坂口コースで下山。以降はそのまま遊佐駅まで歩き通しました。