鳥海山矢島口から長坂口その2(七ツ釜避難小屋→七高山→七ツ釜避難小屋)
この日は鳥海山を乗り越えて麓へと下る、それなりに長い行程の一日……となるはずの予定でした。しかし七ツ釜避難小屋を出発して七高山を登り詰めていく中で次第にガスが濃くなり始め、山頂に到着する頃には遂に雨……天気予報を見ると翌日は快晴との事だったので、一旦出発地の七ツ釜避難小屋に引き返して仕切り直しとしたのでした。
「鳥海山矢島口から長坂口その1」の続きの記事となります。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
目次
今回歩いたルートのGPSログです。
七ツ釜避難小屋→康新道→七高山
[4:36]七ツ釜避難小屋出発
一晩お世話になった七ツ釜避難小屋を未明のうちに出発します。当初は七高山の山頂から日の出を見るつもりだったのですが、やはり連日の登山で疲れが溜まっているようで早起きできずこの時間に……結果的には七高山の登頂後、再びこの小屋に戻り停滞となったのですが、この時の自分は知る由もない先の話。
暗闇の中、ヘッドライトの灯りを頼りに先に進みます。
歩いていると次第に東の空が明るくなり始めました。七ツ釜避難小屋から七高山の山頂までのコースタイムは2時間、日の出にはとても間に合いそうにないです。
[4:48]康新道分岐
七ツ釜避難小屋から僅かに進んだ所にある分岐。ここから先は七高山の山頂まで尾根沿いの康新道と沢沿いの舎利坂の二経路があります。舎利坂の方がコースタイムも短いので専らメインで使われるらしいのですが、個人的に尾根筋を歩くのが好きなので前者の康新道へ。
日の出も間近と言えそうな時間帯ですが、そもそも雲が多くて日の出そのものが見えそうにないです。無理して早起きしなくてよかった。
康新道は尾根伝いの道という事で全体的に開けています。やや薄暗いながらも羽後本荘辺りの街明かりや子吉川沿いに広がる田園風景の様子がよく見えている。
そしてこちらがこれから目指していく七高山、鳥海山の山頂部方面の様子……実にヘビーな感じの雲が被さってしまっています。これでは展望もろくに楽しめないので、少しでも流れてくれる事を祈りつつ先へと進む。
一方、麓の方は雲が多いながらもよく見えています……よく見ると地平線と雲の間には日の出直後と思われる太陽が僅かに。
目指す先が雲の中という事で途端に足取りが重くなってきました……おまけに明るくなってきてブヨも目を覚ましたようで中々に過酷な道中に。
康新道の様子。新道という名前だけあって全体通して歩きやすい道でした。
行く先を見ていると憂鬱になるので、偶に麓の方を振り返って目の保養。しかし進むに連れて雲の天井が近づいてきた。
どんよりしている山頂方面。雲も分厚く、まさに雨でも降り出しそうな程に薄暗い。
再び麓の方面の展望。横手盆地より先の方は完全に晴れているようで、一気に明るくなってきた。
東側を望遠してみたもの。前日と同様、横手盆地越しに岩手山や秋田駒ヶ岳が見えている……かなり遠くの山が見えているので、もしかするとこの鳥海山の山頂部だけに雲が滞留しているのではないかと疑い始める。
南東側、栗駒山が見える方面……は雲が掛かっていて見えませんでした。しかし陽光に照らされて金色に輝く雲が美しい。
ものの見事にモチベが下がってきたので休み休み進みます。麓の方面の展望が良いだけに、先に進む気も失われるというもの。
再び麓の方面の展望。鳥海山の西側も晴れているようで、沿岸部には光芒が降り注いでいます。
再び南東側に目を向けると栗駒山かなと思しき稜線が次第に姿を表しつつありました。
象潟辺りの望遠。麓からはすっぽりと笠を被ったかのように見えているんでしょうか。
行く先の様子。明るくなってきたものの、こちら側の雲は一向に流れてくれません。
何度めかの麓方面の展望。その直後に雲の中に突入してしまったのでこれで最後となります。
象潟から金浦辺りの望遠。田んぼの中にぽつぽつと島のように浮かぶ森は、古来の鳥海山の噴火によって流れてきた土石流等(所謂流れ山)が元となったもの。九十九島と呼ばれ古くからの景勝地として知られる。
風光明媚な麓の方面の展望とは対象的に、こちら側は見ていて気が滅入る方面……徐々に雲の中の世界が近づいてきた。
ガスに視界が奪われるかどうかという所の狭間。
行く先の様子。少し雲が流れてくれましたので一瞬だけ期待したのですが、残念ながらこれ以上取れてくれることはありませんでした。
ガスの中の康新道を行く。道の斜度はそこまででも無いのですが、七ツ釜避難小屋から標高差700m近くあるので数値的には結構ヘビーな登りです……この付近から雨が降ってきました。
途中の砂礫地帯に群生するチョウカイフスマ。
一箇所、岩をトラバースする箇所がありましたが区間は短いです。しかし藪が雨で濡れているので全身ずぶ濡れに。
トラバースから再び尾根上に乗った所。晴れていれば七高山のピークが目前にあり、開放感のある展望が広がっているのでしょうが、実際は写真の通り。
後半部でも尾根筋を外れて歩く区間が僅かにあります。先程のものと違って傾斜は緩く歩きやすい。
舎利坂との分岐に到着しました。七高山の山頂はここから少し登った所にあります。
雨粒に打たれながら歩いていると、やがて本日最初のピーク……そして結果的には唯一登頂したピークとなった七高山の山頂が見えてきました。
七高山→舎利坂→七ツ釜避難小屋
[7:20-7:44]七高山
七高山に到着。鳥海山の外輪上に位置するピークで、標高は最高峰の新山に次ぐ。勿論展望も素晴らしい場所らしいのですが……この天気では何一つと見えず。
山頂周辺の様子。火口部を覗き込めば間近という所に最高峰である新山が聳えているのですが、ガスが濃くて何が何だかという感じ。
さて、予定ではここから新山を往復後に外輪山に沿って下っていき、鳥海湖、笙ヶ岳と辿っていくつもり(翌日の行程と同様)なんですが、この分では展望に関してはまるで楽しめそうにありません。前日あれだけ苦労して舗装路歩きをした結果がこれでは……と暫し脳内会議。
天気予報を眺めてみると幸いにも翌日はほぼ100%晴れのようです。2日以上続く悪天候となると難しいですが、たかが1日の停滞で何とかなるのであれば、と一度思ってしまえば決断は早い。翌日リスタートを切るという事にして、この日はスタート地点である七ツ釜避難小屋に引き返す事になりました。
そうと決まれば早々に引き返します。往路と同じコースというのもつまらないので、帰りは舎利坂の方を辿って下っていきました。
ガスの中を下っていく。こんな天気なので他に登っている方の姿は皆無。
舎利坂のコースの様子。康新道と同様、よく整備された道でした。
[8:55-9:01]氷ノ薬師
氷ノ薬師というポイントに到着しました。この付近は8月頃まで雪が残るらしいのですが、9月となるこの時点では全く残っていなかった。
氷ノ薬師には水場マークの記載があるので、この日の夕食用と翌日用の水を補給しようと注意を向けつつ歩いていたのですが、雪の残っていないこの時期はやはり枯れているのか澱んだ水溜りのようなものしか見当たりませんでした……濾過器通せば飲めない事も無さそうですが、もう少し探してみる事に。
涸れ沢のような所を越える箇所。濡れているからか岩がやけに滑るので足取りは慎重に。
沢沿いの区間を越えてなだらかな草原地帯へ。ここまで下ってくると以降は傾斜も緩くなる。
大雪路の上部と書かれた標識。積雪期の為のものと思われる背の高いポールが側に立っていました。
お花畑のような所に出た所。ガスっているとは言え、開放感があってちょっと良い雰囲気。
カール状の地形となったお花畑の様子。この付近まで下ってくると雨も止んでいた。
少し下った所から同方面。心なしかガスが薄くなってきたような気がしますが。
更に下ると雲の下となったようで視界は一転して回復。麓まで見通せるようになりました……下界は完全に晴れていますね。やはりガスが掛かっているのはこの鳥海山の山頂部だけのようです。
コースの前後の様子。山頂方面は依然として分厚い雲に覆われている。
途中で見かけたベニバナイチゴの実。木苺の一種で食べられます。というか食べました。
[9:40]康新道分岐
未明に通過した康新道と舎利坂の分岐点に到着しました……この場所にまた戻ってくるとは思わなかった。
分岐の辺りから麓方面の展望。晴れているとはいえ全体的に雲は多い。
歩いていると水が流れる音がしたので周囲を観察してみると、コースを少し外れた所に滝がある事に気付きました……よく見るとその滝の上の方まで踏跡が続いています。もしかしたら水が汲めるではないかと、水筒とプラティパスを持参して接近を試みる事に。
滝の上部から滝壺を見下ろした所。七ツ釜避難小屋の七ツ釜とはこの滝の事を指すらしいです。
若干露出を上げて撮ってみたもの。滝壺までは高さがある上、所詮踏跡程度の道なので結構怖いです。落ちたらヤバそうです。
滝の注ぎ口まで更に移動し、そこに水筒を沈めて水を汲みました。水量はそこまでではないですが、一応流水なので水溜りの水を汲むよりはだいぶマシだろうという判断。
ちなみに、ここで水を汲めなかったら登山口の祓川まで汲みに下る事を考えていました。
滝から沢筋の上流の方を見上げてみる。深く切れ落ちた渓谷のような地形となっている。
上流部を広い範囲で撮ってみたもの。写真ではあまり伝わらないと思いますが、そこそこ水の流れがあります。
七ツ釜避難小屋まで続く道の様子。行きでは暗闇の中通過したのでよく分からなかったのですが、広々としていて中々に雰囲気の良い所です。
[10:17]七ツ釜避難小屋到着
七ツ釜避難小屋に戻ってきました。到着時点ではまだ昼前……特にやる事もないので、雨で濡れたザックとその中身を粗方干した後はお昼寝タイムとします。翌日の天気はほぼ確実に大丈夫そうだという事で気が抜けたのか、真っ昼間からよく眠れました。
七ツ釜避難小屋で過ごす午後
そろそろ夕食にしようと16:30頃に小屋の外へ……午前中の悪天候は何だったのかというくらいの快晴で、鳥海山の山頂部も臨めました。
七ツ釜避難小屋からの展望です。まだ雲が高くて何も見えませんが、青空が広がっていて清々しい。小屋の外に立てかけておいたずぶ濡れの登山靴もいい感じに乾いてました。
小屋の屋根と青空。翌日の天気は期待できそうです。
まだ早い時間、せっかくなので小屋の外で景色を眺めながらの夕食としよう。という事で山頂方面に少し進んで良さげな所を見繕う。
ここで七高山から下ってきた人と遭遇。午前中は天気が悪いので時間をずらして登ったらしく、おかげで山頂からの展望は最高のものだったとの事……楽しみは翌日に取っておきましょう。
丁度良さそうな岩場があったので、この辺りで夕食の道具を広げる事にしました。
この日の夕食。ここでの2泊目は本来予定していなかったのですが、予備食は持参しているので事なきを得ました。
雲海を眺めながらの優雅な食事。日が傾いてきてちょっと陰ってきましたが、遠くの空は未だ明るい。
鳥海山で鳥海山を飲む……というフレーズを個人的にやけに気に入ってて、何度もアングルを変えて写真を撮っていた。
この日の肉物は予備食として持参していたコンビーフ焼き。
佳境に入った頃の食事風景。やはり小屋やテントの中で食べるよりは開放感があって数段美味しく感じられます。
ちなみに雨上がりの夕暮れ時という事で辺り一帯ブヨが物凄い勢いで乱舞しているのですが、足元で森林香を焚いていたので終始涼しい顔で過ごせました……森林香、虫が湧く時期では必須アイテムです。
日本酒タイムを終えて食後のウイスキータイムに移行しようとする頃、西の空が赤みを帯びてきました。日没が近付いてきたようです。
空の色合いが一気に変わってきた頃の様子。右の方には月が出始めているのが見えます。
月の出の様子……この日は満月のようでした、
月とその周囲のピンクがかった雲の様子。
片付けて小屋に戻る頃には空は青みがかっており少し不思議な色合いに……前日の夕暮れ時とはまた違った空模様。
色鮮やかな空の様子。右下の所に見える島のように浮かぶ山は男鹿半島の本山と寒風山です。
日が沈み一気に冷えてきたので小屋に戻ります。
その前にもう一度、空の色が濃紺色に変化した所を見届けた後に床に就いたのでした。
次回記事『鳥海山矢島口から長坂口その3』に続く