【2021年3月】剣山系縦走登山についての情報と記録
2021年3月、剣山系の縦走登山に出掛けてきました。旅行全体の行程を扱った記事は別に設けていますので、当該記事では登った山に関しての簡単な紹介や実際に行かれる方向けの案内、各日程の概略、個別記事へのリンクを設ける程度に留めます。
目次
山域の案内
剣山は四国においては石槌山に次ぐ第二の高峰で、最高地点の標高は1,955m。徳島県内の人口集積地である吉野川本流から南におよそ20km山間に入った所にある山嶺です。
広域的には四国の山岳の大部分を包括する四国山地に属していますが、途中の大歩危峡付近で吉野川によって分断されている箇所があり、その付近より東の主稜を剣山系(剣山地)、西側の主稜を石鎚山系(石鎚山脈)と大別されます。
その剣山系の最高峰である剣山ですが、非常に山深い所に位置している割にはアクセスが良く登りやすい山として知られています。特に最高峰の剣山に関しては登山口である見ノ越までは三方面から国道が伸びている上、登山口から山の中腹辺りまで登山リフトが設けられているので標高の割には登頂までの歩行時間は短く、登山道自体も散策路同然に整備されているので初心者や小さい子供を連れた親子連れでも気軽に登る事ができる、最高峰への登頂のみに関して言えば非常に難易度の低い山と言えます。
無論、本格的な登山は楽しめないという訳では無く、コースによっては途中での宿泊を前提とした縦走も可能です。特に剣山系西部の代表的な主峰である三嶺から剣山にかけての縦走路は距離が長い割には歩きやすく、全体通してほぼ笹尾根で終始展望も良く人気があるコースです。
土佐矢筈岳
土佐矢筈山のピークは剣山系の西の主峰である三嶺よりも更に西部、京柱峠と矢筈峠に挟まれた区間にあります。剣山系の主峰からは少し離れた所に位置していますが展望は良く、特に山頂から西側の小桧曽山にかけて続くなだらかな尾根上は一面背の低い笹で覆われており、森林限界を越えた高山帯のような開放感を堪能できます。
この付近はあまり整備が行き届いていない山域ですが、土佐矢筈岳に関しては四国百名山に選定されているという事もあって登山者も多いのか、前後の区間はハイキングコース同然に整備されています。所要時間も各登山口から1~2時間程度と手頃です。
登山口までの公共交通を使ったアクセス
マイカー利用が一般的ですが、土讃線豊永駅から登山口となる京柱峠の麓にある大畑井バス停まで大豊町の自治体運行バスであるゆずバスが利用できます。2020年度までは早朝発の便もあり、土佐矢筈岳まで日帰りで往復する事も可能でしたが、今年度からスクールバスに特化したダイヤに変更され、公共交通のみを利用した日帰りは不可能となりました。(一般混乗なので乗車自体は現在も可能です)
【時刻表】大豊町、ゆずバス(豊永駅~大畑井)※広報「ゆとりすと4月号」内に時刻表が掲載されています。
矢筈峠の方は利用可能なバス路線はありません。
三嶺・天狗塚
三嶺は剣山系における西側の主峰で日本二百名山に選定されています。登山者の増加に伴い山頂周辺の整備が際立って進んでしまった剣山と比較すると、こちらは元来の山岳そのものの雰囲気を保っている感があり、より本質的な登山を楽しめるピークです。展望に関しても山頂は360度開けており申し分無いです。
メインの登山口の名頃から3~4時間で登頂できるという事もあって日帰りでの登山が主流ですが、ここは剣山方面の縦走路の西側の基点でもあります。時間をかけて縦走して、距離や角度によって印象が異なる三嶺や剣山の山容を堪能したりするのも、日帰りでのピークハントとはまた違った醍醐味がある事でしょう。
一方、三嶺西側に位置する天狗塚のピークもピラミット型の均衡が取れた形状から人気があり、三嶺とセットで登られる事が多いです。こちら方面の縦走は剣山程には距離は無く起伏も少ないので十分日帰り圏内です。
登山口までの公共交通を使ったアクセス
徳島県側から登る場合、土讃線阿波池田駅もしくは大歩危駅を発着する四国交通バスを利用。天狗塚に直接登る際は終点の久保バス停にて下車、三嶺の場合は久保バス停を起点に運行されている三好市営バスに乗り継ぎ名頃バス停で下車します。他、切谷バス停から日帰り入浴可能な温泉施設であるいやしの温泉郷を経由するコースもあります。
高知県側からのアクセスに関しても乗り継ぎが多くなるものの一応可能です。土讃線土佐山田駅からJR四国バスと香美市営バスを乗り継いで影バス停で下車。その後舗装路を歩いて西熊渓谷(光石)から入山する形となります。下車する影バス停から取り付きとなる光石登山口までは2時間弱と徒歩圏内です。
バスを利用する場合は土佐山田駅→美良布→大栃→影といった具合に乗り継いでいきます。2020年の3月までは土佐山田駅から大栃までJR四国バスで一本で移動できましたが、同年4月に美良布から大栃までの区間が廃止。廃止区間は自治体運行バスである香美市営バスに移管され「美良布・大栃線」と分離された事で、乗り継ぎの回数が一回増えました。
剣山・次郎笈・丸笹山
剣山は剣山系の最高峰で、深田久弥著の日本百名山にも記載されている事から日本全国の登山者が集まってくる山で、西日本屈指の人気の山です。前述した通り登山リフト等が設けられていて初心者でも簡単に登れてしまうというお手軽感から、シーズン時、特にGWや紅葉の時期には非常に混み合います。
山頂部は平家の馬場と呼ばれる笹原が広がっており非常に開けた印象ですが、洗掘対策で山頂一帯には木道やウッドデッキが敷き詰められ、山岳と言うよりは半ば整備の行き届いた公園のような雰囲気があります。展望に関しては標高相応に素晴らしいもので、条件が良ければ大峰山や伯耆大山等といった本州の山々までも見渡せます。
ちなみに剣山という山名の由来は山容が剣のように鋭利であるから……という訳ではなく、かつて源平合戦で敗走して安徳天皇と共に落ち延びた平家が再興を祈願する為、三種の神器の一つである天叢雲剣をこの地に捧げたという伝説に因んだものです。山頂一帯を指す平家の馬場という地名も、源氏との戦に備えて馬術の訓練をしたという話に基づくものとされています。どちらのエピソードも伝説の域を出ませんが、真偽の何れにせよ、この付近は麓の祖谷渓も含め平家の落人伝説が長年に渡り語り継がれている地域という事でもあります。
ただ剣山という山名自体は割と全国どこでも見かけるもので、特に同じ百名山である北アルプスの剱岳と何かと混同されがちなので、四国剣山なんていう表記も最近は見かけますね。なんか取って付けたような感じがして個人的にはあまり好きじゃないですが。
次郎笈についてですが、こちらは剣山系においては剣山に次ぐ2番目の標高のピークで、四国内でも第3位の高峰です。山体も剣山に比肩する大きさで遠くから見ると双耳峰のようにも見え、山系の中では一際存在感がある山嶺。こちらは剣山から片道1時間程度と近いのでセットで登られる事が多いです。
他、剣山から登山口である見ノ越を隔てた北側に丸笹山、塔丸といったピークもあります。見ノ越の付近が地形的に大きく落ち込んでいるので別の山域のような気がしないでもないですが、どちらも山頂部は笹原で展望が良く剣山の展望台として一定の人気がある山です。
登山口までの公共交通を使ったアクセス
メインの登山口となる見ノ越には国道が三方面から伸びており、それぞれに路線バスが運行されています。どの路線も見ノ越まで乗り入れますが、観光路線である為に年間通して運行される路線は無く、主に夏季を中心とした登山シーズン時のみの運行となります。特に最近はコロナ関係で例年に比べ期間が短縮されたり運転自体が自粛になったりする場合がありますので、運行期間や時刻は各自前もって調べておくのが懸命です。
路線の一つ目が徳島線穴吹駅から旧木屋平村を経由する美馬市営バス。川上行きのバスに乗り、途中の滝の宮バス停で見ノ越行きの別便に乗り継ぐという形になります。ちなみに途中の川上バス停から垢離取登山口を経て剣山東側の一ノ森のピークに登る事も可能。多少長丁場になるもののそれなりに整備されているコースなので選択肢の一つとしても良いでしょう。
【時刻表】美馬市営バス(穴吹駅~滝の宮・川上、滝の宮~見ノ越)
二つ目は徳島線貞光駅から旧一宇村を経由するつるぎ町コミュニティーバス。見ノ越に向かう便の本数は1日2往復設定されていますが基本土日祝の運行。丸笹山・塔丸の登山口となるラ・フォーレつるぎ山のバス停も経由します。ちなみに途中の桑平川橋やつづろお堂からラ・フォーレつるぎ山まで登るコースが山と高原地図に掲載されていますが、2021年現在どちらも現地では廃道同然の扱いとなっており通行は不可能です。故にどうしても麓から登りたいのであれば国道をそのまま歩くのが無難かと思われます。
【時刻表】つるぎ町コミュニティーバス(貞光駅~ラ・フォーレつるぎ山~見ノ越)
三つ目は土讃線阿波池田駅もしくは大歩危駅から祖谷渓を経由する四国交通バス。このルートの場合、終点の久保バス停で三好市営バスに乗り継ぐ事で登山口である見ノ越までのアクセスが可能です。なお、途中の二重かずら橋バス停から稜線上の丸石避難小屋まで登るコースもそれなりによく歩かれているので、見ノ越→剣山→次郎笈→丸石と経て二重かずら橋に下山するようなコース取りも可能。縦走したいけど三嶺まで歩くのはちょっと……と気後れしている方にはおすすめです。
【時刻表】三好市営バス東祖谷地区(久保~二重かずら橋・見ノ越)
ちなみに高知県側に関しては徒歩圏内にバス停はありません。
実際の登山記録
今回は上記のコースで歩きました。
剣山系縦走その1(土佐岩原駅→岩原神社→三方山→弘瀬山→京柱峠)
初日は土讃線の土佐岩原駅から三方山に登り、尾根伝いに京柱峠方面へと進みました。歩行距離こそ10km強と短いですが、この区間は人が通った記録が極端に少ないマイナーコース。実際、三方山前後の僅かな箇所を除いて道はほぼ無いようなもので、藪漕ぎや灌木漕ぎ、蔓延る茨やタラの芽などのトゲ植物とのバトルに明け暮れた一日でした。初日であるが故に荷物も満載で全行程中最も過酷な日でしたが、県境であるが故に県境杭が多く全く迷わず歩けたので、苦労はしたもののそこまでストレスは溜まらなかったかな。
剣山系縦走その2(京柱峠→土佐矢筈山→矢筈峠→綱附森→天狗塚→お亀岩避難小屋)
京柱峠から剣山系の主稜に向けて歩を進める一日。未明から雨が振り始め、雨中行軍を覚悟しつつの出発。この日歩くコースも前日同様にワイルドな道を想像していたのですが、最初に登った土佐矢筈山は四国百名山に選定されている為か道筋は明瞭。以降の綱附森も少し笹が深い程度で拍子抜けでした……が、雨の中の笹漕ぎで全身ずぶ濡れになり靴も浸水したりと前日とはまた違った過酷さでした。しかし綱附森を越えた辺りで徐々に日が差し込み始め、主稜西端のピークである天狗塚に到着する頃には完全に雲は流れてくれて360度の展望を堪能できました。
剣山系縦走その3(お亀岩避難小屋→三嶺→高ノ瀬→次郎笈→剣山→一ノ森)
この日は剣山系の主峰となる三嶺、次郎笈、剣山といったピークを踏んでいく、今回の登山においての核心となる区間を歩き通しました。殆ど人の手が入ってなさそうな雰囲気だった前日までの道程とは違い、この日歩いたコースはそれなりに人が行き交う人気の縦走路。整備が行き届いており終始快適に歩けました……ただ、快適に歩ける分コースタイムが厳しく行程自体も長くなり、シンプルに体力勝負を求められる一日でもあったり。天気に関しては朝から晩までほぼ快晴で、開放感のある笹尾根歩きを楽しめました。
剣山系縦走その4(一ノ森→剣山→見ノ越→丸笹山→赤帽子山→中尾山)
後半戦に突入した4日目は一ノ森から拝む御来光からスタート。この日も晴れでしたが前日以上に空気が澄んでおり、剣山の山頂からは遠く本州の大峰山、伯耆大山、そして四国最高峰の石槌山などが臨めました。剣山からの展望を堪能した後は見ノ越に下山し丸笹山方面の登り返しに備え食堂で休憩。しかし本能の赴くまま午前中からビールを呷ってしまったのがいけなかったのか、以降の足取りは糸が切れたようにスローペース。加えて悪天候理由で翌日の撤退が決まると更にテンションが下がり、墜落するように途中の中尾山近くの展望台跡地にてテント泊。
剣山系縦走その5(中尾山→犬石峠→剣橋バス停、貞光と脇町散策)
当初の予定では中尾山から犬石峠に下り、そこから八面山方面に尾根伝いに進んで九藤中の集落に下山するつもりでしたが、天候悪化で犬石峠以降の行程は丸々カット。犬石峠から舗装路を延々歩いて奥大野集落方面に下り剣橋のバス停へ、到着は午前8時台と早々の下山に。時間に余裕ができたので、その後は気分を観光モードに切り替え卯建の町並み残る貞光と脇町の散策へ……葉煙草や藍の集散地として栄えた白漆喰の商家群は中々見応えがありました。登山に関しては不完全燃焼気味に終わってしまったものの、その後の観光で満足度はそこそこ回復できた、そんな一日。