大峯奥駈道その6(小笹ノ宿→山上ヶ岳→五番関→大天井ヶ岳→四寸岩山→吉野→千股)
前回記事『大峯奥駈道その5』の続きです。
長かった大峯奥駈道もこの日で最終日。前日泊まった小笹ノ宿をスタートし、手始めに山上ヶ岳に登る。以降は吉野に下山をするべく、五番関、大天井ヶ岳、四寸岩山と越えて着実に麓に近付いていく。しかし起伏は少ないものの距離は長く、おまけに足の痛みが出始めて中々に進まず実際に吉野に降りたのは夜中。その吉野も宿を取っていないので、奥駈道の完歩後もこの日の野宿場所を求めて更なる北上を続ける。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2019年11月】熊野古道中辺路&大峯奥駈道縦走についての記録 - 山とか酒とか
目次
小笹ノ宿→山上ヶ岳
[5:51]小笹ノ宿出発
長かった大峯奥駈道も最終日、朝食はやや豪勢に鍋スパゲッティを作る。鍋に突っ込むだけで作れる上にめちゃくちゃ美味しいんですけど、鍋がとんでもなく汚れるので専ら行程最終日用の食事です。
食事を終えて準備も終えたら、山上ヶ岳でのご来光を目指して未明からの出発です……が、なんかテント内で無意味にダラダラとしてしまって、5時半出発のはずが初っ端から出遅れてしまう。
登ってる最中に空が白み始めていました。急ぎ山頂を目指す。
山上ヶ岳はもう目の前という所ですが、既に辺りは明るくなっている。しかし、昨日に続き本日も晴天のようで何より。
日が昇る大台ケ原方面。笠捨山以降ずっと横で見ていてくれたので愛着湧きました。
既に日の出の時刻ですが、向かいに高い山があるのでまだ日は出ていない様子。
じわじわと顔を覗かせました。
間に合わなかった……と思いきや少し進むと大峯山寺の境内に。なんか気付かぬ内に登頂していたみたいです。
山上ヶ岳の入口。標高1700mの山の上にあるとは思えない程に、思いっきり寺ですね。ちなみに本堂は江戸期に再建された重文指定のもの。
境内よりご来光を眺める。滑り込みアウトかな。
広々とした境内の中へ。色々と面白そうな施設が並んでいますが、既に今年度は寺じまいをしてしまっているので本堂の入口は塞がれています。
奥駈道においてはメインの一つとも言える場所だったので、誰か居るかなと思っていたんですが、人っ子一人居ませんでした。最終日まで孤独ですね。
第67靡山上ヶ岳。
山上ヶ岳の山頂札は本堂向かいの道を登った所、頂上お花畑の入り口にありました。その裏には更に高い所に続く道があり、最高地点と思われる所には湧出岩と記された場所があります。なんでも役小角がここで修行(千日修行)している時に蔵王権現が現れたとの伝説があるのだとか。
山上お花畑からの展望。お花畑というシーズンではないので笹か枯れ草しかありませんが、開けた場所なので眺めは良いです。
弥山と釈迦ヶ岳方面の山々。朝早くの時間ですが、この日も黄砂が多いとの事で霞みがちです。
左は弥山の望遠。若干尖った八経ヶ岳が見える他、そのやや左側には弥山小屋が見えます。右は釈迦ヶ岳方面。中央が仏生ヶ岳、左が孔雀岳、右が釈迦ヶ岳という具合に稜線が続いています。
山上ヶ岳→洞辻茶屋
下山します。暫くは登山道というより寺の参道みたいな道が続く。本堂の前に立つ年季の入った門は金峯山四門の一つ、妙覚門。かつては他の三箇所のように鳥居形だったそうですが、改修の際にお寺っぽいものになってしまったのだとか。
……そう、ここから先は大峯山ではないのです。元来は山上ヶ岳(厳密に言えば小篠、つまり小笹ノ宿付近)を境に北側が金峯山、南側が大峯山と分かれており、ここから先は金峯山の領域でした。
まあ色々な解釈がありますけどね。青根ヶ峰が境だったりとか。先の南北奥駈道の境とか、大峰山全体を曼荼羅に例えた金剛界胎蔵界とかもそうですが、時代の変遷によって移り変わるようなものなのでしょう。アレコレ考察するのは楽しいんですけどね。
途中、宿坊が林立しているエリアに入りました。
幾つか並んでいますが、寺が閉まっているので当然宿坊も閉まっています……人気が全く無くて廃村みたいです。こういう場所は賑やかな時期に来たいものですね。
登山道らしからぬ、よく整備された道を下っていきます。
行場である西の覗き付近。名前の通り西側に切れ落ちている断崖です。
道中、行場となる岩場が沢山ありますが……こういう文言を見ると一度試してみたいという気持ちにもなる。修行の心持ちがないと駄目なのかな。
ちょっと日本離れした感じの景色。
供養塔があちこちに立ち並ぶエリアに入りました。こういうの見ると、形は違えど前の月に行った霊神碑立ち並ぶ御嶽山と共通したものを感じますね。向こうのも修験道がルーツですし。
なんかゲートがありました。こちらは金峯山四門の一つ、等覚門。
奥駈道自体信仰の山ですが、行場の集中するエリアだからかこの付近は特に像やら石碑やらが多いです。
適当に歩いていると誤って鐘掛岩の行場に迷い込んでしまう。この付近、道が入り組んでいてちょっと分かりづらいです。
しかし行場からの展望は良いです。左側に荒々しい形の稲村ヶ岳。谷間に大峯登山の基地である洞川の集落。その右の突き出た三角形はこれから向かう大天井ヶ岳……まだ登りあるのか。
目の前のなだらか稜線を歩いて行き大天井ヶ岳、そして奥の四寸岩山を経由する……ひと目で分かる。まだまだ先は長いと。
鐘掛岩から下る道は鎖場があったり階段も朽ちていたりして道がそこまで良くないです。別に平成新道という傾斜の緩いまともな道があったみたいですが、なんか知らず知らずの内に旧道に入り込んでしまったみたいです……まあ、これまでの道と比べても大差ないですが。
鐘掛岩を見上げられるスポットまで降りてきました。この日は立派な氷柱ができる程の寒さ。木の階段も霜が積もっていて滑りやすいので注意しながら下っていく。
やがて新道と合流。少し進んだ所に松清茶屋。この付近はぽつぽつと、修験者向けの休憩施設である茶屋シリーズが続きます。
こちらは陀羅尼助茶屋。陀羅尼助とは麓の洞川を中心に奈良県で作られる漢方薬の事です。御嶽山にも百草丸がありましたね。効能……というか成分も黄檗主体で似てますし修験道の山ではありがちな物なのかな。
しかし、ここも寺が閉まっているのでやってません。開山時期の休日などは売店がやってて朱印が貰えたりするみたいですが……うーん寂しい。
静かな尾根道を行く……けどこの日は土曜日なので、日帰りと思われる登山者の方がちらほらいらっしゃいました。
洞辻茶屋→五番関→大天井ヶ岳→四寸岩山
[8:33-8:42]洞辻茶屋
第68靡浄心門。洞川にはここから下ります。ここにも大きめの茶屋がありますが軒並み閉まっていますね。
洞辻茶屋を出た所にある吉野まで24kmの文字。あと24km、まだ24km? ぱっと見、近いのか遠いのかイマイチ分からない……いや遠いでしょうよ。
ここから再び奥駈道らしい道。ですが、起伏は少なく道も暫くは良いです。スタートが遅れたり行場で迷ったりしてタイムロスがあるので、昨日同様小走りで短縮し、あわよくば余った時間で吉野を観光しよう……なんて呑気な事を考えていた。この時は。
だいぶ近付いてきた大天井ヶ岳の登り返し。鞍部の五番関から登り1時間なので、結構纏まった登りです。
[9:41]五番関
ややザレたトラバースを通って女人結界を越えた所が五番関。洞辻茶屋から1時間とまずまずのペース……そう、この付近までは軽快に飛ばしてました。
しかし、下っている最中急に太腿ににビリっと電撃が走ったかのような痛みが。しかも結構やばい感じのもの。壊れたかな? と心配になるも、なんとか歩けそうなので続行。
しかし以降この日は痛みと二人三脚となりペースはがた落ち。一転して下山できるかできないかという窮地に。
お次は容赦ない大天井ヶ岳への急登。足は痛むものの登り関してはマシで、コースタイムはキープできていましたが。
[10:38-10:52]大天井ヶ岳
読みはおてんしょうではなく、おおてんじょうです……とまあ、特に展望はない山頂でした。
一方、下りは超鈍足。太腿に体重が掛からないようにカニ歩きで下ります……次なるポイントである四寸岩山はまだまだ遠い。日没まで下れるだろうかと不安に。
急坂を下り、第69靡二蔵宿。ここも綺麗な小屋。テントスペースあり水場ありで中々の住環境。食料が枯渇していなかったらここで一泊していたかも。
林道を跨ぎ今度は四寸岩山への登り返し。足が痛む今はこの登りが有り難い。
四寸岩山の手前に足摺茶屋跡。この付近で出会った親子連れの方にクリームパンを恵んで貰う。食糧、果汁グミ一袋とかしか残ってなかったので本当に助かりました。
[13:42-13:56]四寸岩山
緩やかな登りを終えると四寸岩山の山頂です。吉野からちらほら足を伸ばしてくる方も居るような雰囲気。
展望も午後なので霞みがちですが、そこそこ良いです。
弥山とか山上ヶ岳が見えないかなーとうろうろ。左側の上に雲が掛かっている山が弥山です。その左手前は稲村ヶ岳。山上ヶ岳は見切れて見えません。
麓もだいぶ近くなってきましたが……距離的には山上ヶ岳~吉野の中間くらいなんですよね。まだまだ先は長い。
四寸岩山→金峯神社→吉野
太股の痛みと格闘しながらの下り。この頃になると下りの際のカニ歩きにも慣れてきて、極端に遅くとはならなくなってきた。
林道と登山道の繰り返し。途中、笠捨山以来の奥駈縦走の方と出会う。行者還の水場は細いながらも流れていた事を伝えると喜んでいらっしゃった……しかし6日歩いてたった2組か。
登山道。そして林道。開発の手が及んでいるという事は、麓が近いという事でもある。
奥駈順峯ラストのピークである青根ヶ峰の登りです。色とりどりの紅葉。なんか盆栽みたい。
日もどんどん傾いてきていた。予定ではこの頃、優雅に吉野観光をしているはずだったんですけどねぇ。
[15:40-15:56]青根ヶ峰
ラストのピークですが、ベンチがある程度で展望はゼロです。少し進んだ先に桜の植林の為に切り開かれたところがあり、そこからの展望はそこそこ……奥に見えるのは金剛山と大和葛城山。
左側奥の山が四寸岩山で、そこから右が歩いてきた稜線です。右側奥に突き出たピークは山上ヶ岳か大普賢岳かという所。
なんだか急に遊歩道チックな道になってきました。西行庵方面との散策路と合流したようです。
下った先にある金峯神社の脇には大峯奥駈道の看板が……いやー長かった。
[16:18-16:32]金峯神社
第71靡金精大明神。山奥の奥千本とは言え、ようやくの吉野入り。遅れに遅れ、日没手前の到着となりました……自力で下山できただけ良しとしますか。
金峯神社の裏手には、源義経が兄頼朝と対立し逃げ延びる際、一時的に隠れていたという義経隠塔なるものがあります。幸いまだ明るいですし、行ってみましょう。
建物自体は近年の再建ですが、鬱蒼とした森の中にあり雰囲気は良いです。現在は修験道における行場として使用されているのだとか。
金峯山四門の3つ目、修行門を潜り先に進む。吉野の市街地までまだ1時間以上掛かります……暗くなってきましたが以降は舗装路のみなので、適当に歩いていきます。
途中、高城山展望台に寄り道。吉野といえば元弘の乱においての護良親王の拠点だった所。この高城山はツツジヶ城と言う名で詰の城、もとい本丸のような使われ方がされたのだとか。
展望台からの景色。吉野の町並みは見えませんが金剛山、大和葛城山などといった山が見えます。
既に開門時間を過ぎてしまったのか、吉野水分神社の門は無情にも閉まってました。吉野に来るなら是非とも行ってみたい場所だったんですけど、またの機会に。
途中の花矢倉展望台からは吉野の町並みを見下ろせます……ここも明るい内に来たかったんですが。
この付近で、岐阜の高山から来て吉野散策しているという方と、話の流れで一緒に下山する事になりました。山も結構登られているという事でしたので、暫くの間山談義を楽しませて頂きました……最後の最後まで寂しい登山かと思いきや、意外な所で人と話す機会が。
吉野→(食事)→金峯山寺→宿泊地
食料も尽きて久しい状況。夕食はどうしようかなーなんて話をしていると、ますます空腹感が主張を始める。しかし観光地の夜は早い。ここ吉野もその例に違わず、18時ともなると開いている店がろくに無いのです。ですから、宿泊客を囲い込む為に早く閉めさせているんじゃないか、みたいな邪推めいた話をしながら歩いていました。
けど、ありました。中千本、勝手神社の前に食事処が立ち並ぶ一角があるのですが、そこに一軒だけ煌々と明かりが灯っていたのです。
ちょっと悩みましたが、これから麓を下った所で立ち寄れるのはせいぜいコンビニくらいなもの。ならば、一週間以上続いたアルファ米地獄からの解放記念に、ちょっとくらいは良い食事を……と、誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のようにフラフラと入りこむ。
宿で食事が待っている高山の方とはここでお別れ。楽しいお話ありがとうございました。
お店の名前は静亭。言うまでもなく義経の妾の静御前にちなんだもの。
飢餓状態になりかけていたので、開口一番に「ボリュームのあるものってなんですか?」と、今時運動部の高校生でも言わなそうな言葉を口にする。すると静弁当というものが品数が色々ある上にご飯大盛り無料、ご飯のおかわりは100円で可能というのでそれを注文する事に……ついでにガソリンも補給。二号瓶で800円とかそこらだったので割と安いのでは?
暫くして運ばれてきたのは吉野に縁のある料理の数々。2000円とやや観光地価格ですが、これくらいのバリエーションだったら適正ですね。酒のアテとしても最高で、長々と満喫させて頂きました……しかし一週間以上山歩きした状態で飲食店に入るのは軽く営業妨害だったかも。
デザートに付いていた葛餅が美味しかったので帰り際、お土産の柿の葉寿司と一緒に葛粉を購入しました。近隣の黒滝村産の本葛粉で、350g1000円と激安。食事した方へのサービス価格との事でした。
こちら、帰ってから自作してみた葛餅です。レシピは葛粉50gを水250mlで溶かしたものを煮て、固まり始めたら適当に練って型に入れて氷水で冷やす……以上。料理スキルゼロのド素人でも簡単に作れましたので、本葛を入手する機会があれば是非作ってみて下さい。
豪華な食事も終えた所で、このまま一日は終わり。後はお風呂に入って、何日かぶりの布団で眠るだけ……だったら良かったんですけどね。
宿取ってないんですよね。
とは言え、こんな夜中から飛び込みで入った所で疲れが取れるはずもない。そもそも紅葉の時期の土曜にいい宿が取れる訳もない。
色々と考えた結果、じゃあテントでいいやという思考に帰結……これまでもそうしてきたし。そうこうして、いい具合にお酒も入っての千鳥足、テン場を求めて夜の吉野を彷徨い歩く事に。
[19:30-19:33]金峯山寺
第73靡吉野山。
金峯山寺、蔵王堂。現代の奥駈縦走におけるゴールもしくはスタート地点でしょうか。この日はブルーにライトアップされており境内に自由に入る事ができました。が、やっぱり日中来たかった。
ちなみに金峯山四門の最後の一つである発心門はこの境内の北側にあります。
吉野の街を抜けました。吉野駅まで下り、近鉄に乗って大阪まで出れば宿に困らなそうなんですけど、いきなり都会に行くというのも孤独に慣れてしまった身体がびっくりしそうなので却下。せめてワンクッション置きたい。
更に麓の吉野神宮駅、そして吉野川(紀ノ川)を越えます。ちなみに最後の靡である六田の柳の渡しには行きませんでした。決して遠くはないのですが、こんな真っ暗で何も見えない中行っても仕方ないですしね。
大和上市の古い町並みを抜けて、再び明かりの少ない山の方へ……。
次回記事『高取城ハイキング』に続く。