前回記事『大峯奥駈道その1』からの続きです。
この日は玉置山より先にある蜘蛛ノ口の分岐を出発し香精山、難路の地蔵岳を越えて南奥駈道においてのメインのピークである笠捨山へ。そこから更に行仙岳、倶利伽羅岳、転法輪岳と越え、持経ノ宿で水補給。当初は持経ノ宿の小屋で宿泊予定でしたが、若干早く到着したので少し先の証誠無漏岳まで足を伸ばしました。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2019年11月】熊野古道中辺路&大峯奥駈道縦走についての記録 - 山とか酒とか
目次
蜘蛛ノ口→塔ノ谷峠→香精山→東屋岳
前回書いた通り、この日は取り分けきつい行程なので秘密の粉を多めに摂取しました……決して危ない粉とかではなく、アミノバイタルとかに入ってるものと同じBCAA(アミノ酸)です。ちなみに記載した数字はグラム数。
これ、最近登山の時は毎回持参しているのですが、スタート時やきつい登りの直前に飲むと効果は覿面で、その後の疲労感がまるで違います。即効性がある分、すぐ吸収されてしまい効果時間が短いのが玉に瑕ですが、ここぞという時に備えておくと便利なアイテムです。
安くて有名なマイプロテインで買いました。セールの時はキロ3~4000円くらいで買えますのでオススメです……国産のものより10倍ぐらい安いです。
これをアクエリアスに混ぜて摂取し、適当に糖分補給(私ははちみつをボトルで持ってきました)してハクキンカイロを腰か首に巻けば、どんなに寒くても行動できます。今回はそうして晩秋の寒い朝を連日乗り切りました。
[4:13]蜘蛛ノ口出発
閑話休題、テントを撤収して出発します。前日と違いこの日は空気が乾いています。高気圧の到来かな。いい感じに晴れてくれると良いんですが。
暗闇の中、第12靡古屋宿、塔ノ谷峠(貝吹金剛)と辿っていきます。ちょくちょく急な登りがありましたが、BCAAパワーで乗り切る。
古屋宿から21世紀の森方面に15分程下り林道と合流した辺りには公園があり、水場もある事からその辺りでテントを張る人も多いらしいです。前日うどん屋で話に聞いた逆峯の人もそこで泊まったとの事。
塔ノ谷峠の直後はぐえーって感じ音急登でしたが、その後はだらだら尾根道。次第に空が白んできました。雲はまだ少し多いですが晴れそうです。
[6:14-6:24]香精山
第13靡香精山。本日最初にピークに到着。割と狭い山頂です。地図上の破線コースはここから葛川辻までの間。
破線コースですが東屋岳までは歩きやすく起伏の少ない稜線です。笠捨山から南は全体的に鬱蒼としていて展望に恵まれないのですが、鉄塔のある場所は切り開かれているのでまあまあ見えます。
鉄塔付近から東の空。右の後光があるのが笠捨山、中央のボコッと出たのが地蔵岳、左に東屋岳という具合です。つまりはこれから歩く稜線という事ですが……東屋岳はもう少し切り立っているので尖って見えるはずですが、近いからかな。
その反対側に見える立派な山塊。本日の到着地である証誠無漏岳から伸びる中八人山方面の稜線との事。近畿百名山にも指定されているらしいですが展望のろくにない藪山らしいです。
ちなみに右端に見える山は、これまた本日歩く倶利伽羅岳、転法輪岳。向こうの方が遠そうなんですが。
香精山を下った所で巻道との分岐があります。岩場の難所を回避できますが……縦走の人はまず通らないだろうし、使ってる人っているのかなって感じの朽ち具合でした。
[7:06-7:17]東屋岳
第16靡四阿宿。それ程でもない登りを上がると東屋岳です。ここにも靡があります。
東屋岳→地蔵岳→葛川辻→笠捨山
東屋岳から先に進むと、ようやく破線らしい道になってきました。小刻みながらも急峻なアップダウンが続きます。
ふと見えた北側の山々。右から行仙岳~倶利伽羅岳、転法輪岳、枝が掛かっている所に証誠無漏岳と、本日後半部に歩く稜線がよく見えます。遠いな。
険しいアップダウン。ですが覚悟して来たのでこんなものかという感じ。よく整備されていますし。
しかし急な登り下りが多いので、目の前に向かう先の地蔵岳(右の写真)が見えているものの、ちっとも近付かないです。とは言えバテないように程々のギアで進む。
岩場には殆ど箇所で鎖が整備されているので安心です……が、奥駈縦走の重装備だと頼り過ぎると振られてしまうのであくまで補助的に。岩は切れ目が多いので三点支持は容易です。
ここが破線区間のハイライト? ほぼ垂直の長い岩場の登攀です。乾徳山の最後の岩場をちょっと短くしたような感じ。
ここも鎖に頼りきらず岩を掴んで登る……掴んだ岩がグラっと揺れる。脆くなっている所が結構多いみたいです。登り切って見下ろしてみるとヤバげな高度感。下りの方が絶対に怖い。順峯でよかったと唯一ここで思いました。
[7:53-8:10]地蔵岳
時間は多少掛かりましたが、そこまで苦労せず地蔵岳に到着しました。鬱蒼としていて展望はありませんが。
少し進んだ先に好展望地がありました。中央やや右が証誠無漏岳で、そこから左側に中八人山方面に尾根が伸びているのが見える。釈迦ヶ岳や弥山方面は中央奥ですが、昨日と同様に未だ雲の中で、見えるのはせいぜい天狗山辺りまで。
もう岩場は終わりかと思ってストックを出してしまったのですが、暫くの間急な上り下りが続きました。
岩と岩の切れ目。プチキレット。木々が真横に生えてるのが面白い。
少し歩くと難所は無くなりフラット目な道になりました。途中、地蔵岳を振り返る。あんまり進んでない。
先程、香精山近くの鉄塔から伸びていた送電線の先までやってきました。ここも切り開かれていて展望は良い。
送電線は今度は行仙宿の手前に伸びています。
[8:41]葛川辻
巻道との合流点である葛川辻です。ここから笠捨山まで標高差250m程度の纏まった登り返し……本当にアップダウン多いなぁ奥駈道。
終盤、ややザレ気味の急登が山頂まで続きます。文句を言っても短くなる訳でもないので黙々と登る。むしろ有り難いとさえも思えてくる。
笠捨山の展望
急登を登り切り第18靡笠捨山に到着。開けていて展望は良く、奥駈道の先、幾重にも連なる山々が見渡せます。
均衡の取れた形の山なので、名前の由来はてっきり編笠山のように笠の形からちなんだものと考えていたのですが、標識には『西行法師が吉野から逆峯の道中、この山から過ぎてきた山々に感動、笠を捨てた』と書かれていました。西行法師といえば平安末期の歌人ですから、中々に古い由緒ある山という事になります。
ただ、帰ってからネットで調べると、十津川村に伝わる民話、笠捨山の化け物の話の中に『西行法師があまりの寂しさに笠を捨てて逃げた』とある。
どっちやねんって思いましたが、こういう山の名前の由来をアレコレと考察しながら歩くのは楽しいですね。特にこの辺りは仏教にまつわるものと思われる、変わった名前が多いですし。
いずれの説にせよ、こんな山奥で笠を捨てたら後々困るでしょうけど、その後どうしたんでしょうかね。ふと我に返ったら拾って、何事も無かったかのように被り直したんでしょうか。
余談はそこそこに、展望は中々のものです。左側の釈迦ヶ岳方面もそうですが、右側には大台ケ原も見えました。
やや望遠で繋げてみました。釈迦ヶ岳~孔雀岳稜線の右側の雲が掛かってる山は大普賢岳かな。
釈迦ヶ岳もバッチリとは言えないもののそれなりに見えますが……遠いですねぇ。大台ケ原は上の部分が雲掛かっちゃっています。
大台ケ原日出ヶ岳と下北山村の池原ダム、そして池原の集落。360度山ばっかり。
南側も開けていて、前日歩いてきた玉置山方面の稜線も見えました。独立した山のように見えます。左端奥の山は大雲取山?
やや望遠で。中央が玉置山。左側は大平多山方面の稜線で甲森のピークまで伸びています。その奥にうっすらと聳えるのは大塔山。右側に見切れているのは果無山脈。
景色も堪能してさあ行くかとなった去り際。逆峯の方が登ってきました。縦走……というか他の登山者の方と会う事自体、本宮をスタートして以来初めてでした。せっかくなので写真を撮って貰う。セルフタイマーだと仏頂面になってしまいますが、人に撮って貰うと自然と笑顔になります。見えない? 知りません。
しかし、こんなに静かな登山は初めてですね。前日も玉置山付近で観光客に会ったくらいで登山者とは全く会いませんでしたし……ちなみにここから先についても、翌日の釈迦ヶ岳近くまで誰とも会いませんでした。
笠捨山→行仙宿→行仙岳
笠捨山以降はそれまでの道筋とは少し雰囲気が変わり、やや開けた印象の尾根道に。歩きやすい。けど山頂で寛ぎすぎてしまったからか、足が重くなりペースがやや下がる。開き直り、景色を眺めながらのんびり歩く。
痩せ尾根気味なのか辺りは木々が少ない。
大台ケ原、時折釈迦ヶ岳を眺めながらの尾根歩き……雲も段々と上がってきましたね。中央の建造物があるピークが行仙岳で、鉄塔の間と間くらいに見えるのが行仙宿。
葛川辻付近の鉄塔から見えた次の鉄塔です。何やら工事か点検か、作業員の方が何人かいらっしゃいました。人の気配を感じるとやけにほっとする。
東側の山並み。険しそうな凸凹の稜線が奥に見える。
[11:08]行仙宿
ここから先ちょくちょく現れる宿シリーズが始まりました……これまでもありましたが、『跡』ばかりで建物は無かったので。
建物は山小屋と言っても過言ではないくらいに立派。役行者を祀る行者堂が併設されているのも奥駈ならでは。
振り返り笠捨山。登って下っての繰り返し。それを100km続ける。うん確かに修行だ。
行仙宿~行仙岳の稜線は多少フラット気味で歩きやすいです。時折展望があり、ちらちら見える大台ケ原が格好良くて何度も写真に収めていました。
大台ケ原、あまりにも簡単に登れてしまう山なのでそれまで全く魅力を感じなかったんですが、こうして実際に雄大ぶりを目の当たりにすると登りたくなりますね。機会があれば大杉谷からチャレンジしてみたいです。
この辺り、すぐ付近を国道が走っている事から案外麓と近かったりします。写真に見えるのは下北山村浦向の集落。その奥、海がすぐ側なのに1000mクラスの山々が連なっています。
少し先に行くと巻道や麓方面の分岐があり、そこから少し登れば山頂です。
[11:40-11:54]行仙岳
第19靡行仙岳。大きな古い木に付けられた山頂札が印象的。かなり広々とした山頂です。
笠捨山の辺りから見えた建造物がすぐ側にあり、やや物々しい雰囲気。釈迦ヶ岳はよく見えますが電線越しになってしまう。
行仙岳→倶利伽羅岳→転法輪岳→持経ノ宿
正午を回り、本日も後半戦に入ります。行仙岳からは鞍部にある第20靡怒田宿まで再びがつんとした下り、そして下った以上の登り返し……行仙岳から倶利伽羅岳までの区間のコースタイムは90分で、やけに長いなと思ったらアップダウンが結構きつい。
左の写真の左側は倶利伽羅岳で右側が転法輪岳。地図には載っていないような小ピークを幾つも越えていく。巻道は無い。愚直なまでの尾根歩き。清々しさすらも覚える。
[13:23-13:33]倶利伽羅岳
最後にちょっときつめの登り返しを上がると倶利伽羅岳。倶利伽羅峠の戦いで有名な倶利迦羅不動尊って石川県にありますね。倶利迦羅紋紋なんて入れ墨を指す言葉もありますが、もとはサンスクリット語の仏教用語に当て字したもので、意味は不動明王の形象の一つとの事です。
これから向かう先の稜線がずーっと連なっています。終わりが見えない。実際見えません。ゴールの吉野は釈迦ヶ岳~孔雀岳の稜線ずっと奥でしょう。弥山すら見えないし。
よく見えるのは釈迦ヶ岳。弥山、八経ヶ岳は手前の稜線と被さってしまって見えませんね。
それまでの道と違って、倶利伽羅岳~転法輪岳は一回下って登るだけ。登り返しも大した事ないです。
[14:04-14:14]転法輪岳
30分くらいで転法輪岳に到着しました。転法輪は轉法輪とも書き、釈迦が説法して人々の迷いや煩悩と言ったものを打ち砕く事を例えたマークを指すらしいです。インドの国旗の真ん中の丸いマークはこの転法輪が由来なんだとか。
ちなみに展望はないです。山頂に着いたら無意識に展望を求めてしまうのも煩悩かな。
倶利伽羅岳以降は比較的緩い尾根道が続いていましたが、この付近は広尾根となり更にゆるゆるになります。
[14:28]平治ノ宿
第21靡平治宿。ここも泊まれる小屋らしいです。笠捨山で出会った人は前日ここで泊まったとの話。ただし水場は枯れているとの事。
紅葉もそうですが、この付近からやたらと立派な樹木が目につくようになりました。
名もなき大木。
箱庭みたいな道。
こちらは持経千年檜。根本に祠があります。
千年檜を見上げる。背が高いので写真一枚では入り切らない。
南西側が開けていました。左が東屋岳&香精山。奥の双耳峰に見える山は玉置山&大森山です。笠捨山に居た時とはまた見え方が違ってきました。
持経ノ宿の手前で林道に合流します。
持経ノ宿→水汲み→証誠無漏岳
[15:22-水汲み-15:57]持経ノ宿
第21靡持経宿。これまた立派な小屋でした。当初はここで宿泊する予定でしたが……まだ15時過ぎ。昨日頑張ったという事もあって少々早い到着に。
居住性はテントの万倍良さそうですが、こんな恐ろしく快適すぎる所で一泊でもすると、たぶん今後のテント泊が苦痛としか思えなくなるので回避します。
ちなみに水場まで少し離れているので、管理している方によって小屋内に汲み置きされていました。ご自由にどうぞとの事です。
ただ、小屋を利用しないのに水だけ持っていくのはどうかと思ったので、自力で汲みに行きました。林道を歩いて片道数分程度なので、そこまで遠くはありません。水量は豊富。ホースからジャバジャバ出てます。
翌日も釈迦ヶ岳のかくし水で汲めると思われるので、程々に汲んでおく。
水を汲んで戻ってきてザックに突っ込んで……まだ時間がありますね。やはりここで一日を終えてしまうのは勿体無いような。
ちょっと悩みましたが、先に進む事にします……待っていたのは、等高線が密になっている事から分かるように案外ガッツリした登り。
みるみるうちに日が傾いてきて、辺りが夕日に染まり始めました。
途中の阿須迦利岳。由来は不明ですが、ここも何らかの仏教用語を音写したものでしょう。
ここもフラットでテントは張れそうですが、もう少し先に行きましょう。
次のピークである証誠無漏岳は目と鼻の先。ですが間はかなり窪んでおり、登り返しの際に鎖場があったりと意外に険しい道でした。
[17:12]証誠無漏岳
本日はここまで歩けました。涅槃岳まで歩けるかなと思ったものの、薄暗くなってきたので流石に時間切れ、寒くなる前にここでテントです。前日前々日と比べるとフラットな所が多く、張る場所には困りませんでした。
当たり前ですが山頂なので終始風が強く、張るのはオススメしません。水場もあって小屋内には囲炉裏もある持経ノ宿に泊まった方が万倍マシでした。分かっていた事だよね。
次回記事『大峯奥駈道その3』に続く。