大峯奥駈道その1(七越峰→大黒天神岳→五大尊岳→大森山→玉置山→蜘蛛ノ口)
前回記事『熊野古道中辺路その2』からの続きです。
この日の行程です。大峯奥駈道を辿り始めて最初のピークである七越峰付近の展望台からスタート。大黒天神岳、五大尊岳、大森山といったピークを越えて玉置神社及び玉置山へ。そこから更に笠捨山方面に進み途中、蜘蛛ノ口の分岐にて幕営しました。
他の日程を見たい方は以下の記事よりリンクを辿って下さい。コース全体の軌跡もこちらに掲載しています。
【2019年11月】熊野古道中辺路&大峯奥駈道縦走についての記録 - 山とか酒とか
目次
七越峰→吹越山→大黒天神岳→五大尊岳
[4:17]七越峰展望台出発
本日も真っ暗闇の中から一日が始まる。長い長い奥駈道縦走の始まりの日……厳密に言えば前日少しだけ登ってしまいましたが、一応この日が初日という事で。
この日は雨が降るという予報で、出発時点では既に辺りにうっすらと怪しげなガスが立ち込めていました。テントを片付けていると時折パラパラと雨粒のようなものが脳天を叩く事もあり、今後の天候を憂い早くもげんなり。
とは言え先に進まない事には始まらない。飛ぶ鳥跡を濁さず。昨日食事テーブルに使わせて貰ったベンチも定位置に戻し、早々に出発します。
既に慣れた暗中歩行で第4靡吹越山、山在峠と越えていく。写真の時は晴れていますが、時々濃霧が立ち込めたりしてほぼ視界ゼロという事も。けど、そんな状態でもコースを外れないくらいにはよく整備された道でした。
吹越山から下った山在峠から、大黒天神岳に向けてかなり纏まった登り。たかだか標高差300mですが1時間以上(標準コースタイムで90分)掛かります。実際はそれ程でもないにせよ時間は掛かり、登っている途中で背中に朝日が降り注ぎ始めました。
鉄塔の立っている付近は開けており、そこからの展望……雲は多いものの、まだまだ天気は持ちそうかな。なんて事を思いつつ空を眺める。
木々の多い尾根道を歩く。出発から2時間。体感的に相当登った印象なのに、まだ標高500mと高尾山レベルの標高。
[6:40-6:48]大黒天神岳
鬱蒼としている大黒天神岳の山頂。ここは第5靡大黒岳。この付近で予報通り雨が降り始める……かと思ったらすぐに止んでしまい、これ以降一切降りませんでした。この日は雨中登山を覚悟していたので、ちょっと拍子抜け。
大黒天神岳を下った所にある鞍部、六道の辻の分岐付近には水場への案内がありました。まだまだ水の蓄えはありましたが、ちょっと様子を見に行ってみると結構な水量が流れていました。
せっかくですし少し汲んでおきました。晩秋のこの時期でもこれだけ流れているという事は通年枯れなそうな感じですね。
第6靡金剛多和を越えると、非常にきつい登りが待ってました。まだ初日、スタートしたばかりですが、奥駈道の中でも指折りの激急登というのが個人的な印象。
急斜面なので道もあまり良くない。木を掴まりバランスを取りながら登っていく……先程うっかり水を補給してしまい、結果的に荷物を増やしてしまったのは判断ミスだったかな。
まだ初日だし、後々に備えてのボッカトレーニングと思えば……。
雨の予報とは一体何だったのか、と思ってしまうような晴れ空が広がっていました。遠くの山は見えませんが空はすっかり青く澄んでいます。
リスがチョロチョロ走り回っていました。君は身軽そうでいいよねぇ。
8時を過ぎて日も随分と高くなってきました。正面に見える山は、前日も見えた子ノ泊山との事。大雲取越も見えるかも。
[8:25-8:34]五大尊岳
急登を登りきり、ようやく五大尊岳に到着。かなりきつい区間でした。傾斜は急だし、道は滑るし、地味に長いし、蒸し暑いし……けどまだ標高800mとかなんですよね。先が思いやられる。
五大尊岳→大森山→玉置神社
休憩もそこそこに出発します。先程の木々に囲まれた地点が五大尊岳のピークですが、五大尊岳の山頂標識や第7靡五大尊岳に当たる場所は少し離れた北峰にあります。
さて、きつい登りの後にあるのは当然きつい下りな訳でして、ずるずると滑り落ちるように下っていく。
再び鞍部に下り、今度は大森山の登りです……ようやく標高も1000を越えるかどうかという所。
傾斜もそれなりに急なんですが、五大尊岳の前後よりは幾らか楽です。早くも苦痛に慣れ始めたか。
途中から登りが緩やかになり、程なくして大森山三角点(大水の森)に到着。広場のようになっていますが、特に展望は無いので先に進みます。
鬱蒼とした木々の合間から注ぐ木漏れ日……なんか雰囲気的に奥多摩とか奥秩父の山みたいですねぇ。
[10:33-10:47]大森山
第8靡岸の宿。近くに碑伝があったので靡とされているのでしょうか。ここもあんまり展望無いですが小休止&補給タイム。行程が長いので細かく刻んでいく。
大森山から少し進んだ所。木々が切り開かれ、南側方面への展望が広がっている所がありました。すぐ下が新宮市篠尾の集落。その奥には前日前々日と歩いた大雲取越の大雲取山が見えます。
熊野川付近には雲海が残っている。出発時点でガスっていたときと状況が変わっていない。
大平多山の分岐を越えて再び急坂を下ると林道と平行し、後に合流します。
[11:56]玉置辻
林道から再び山道に入る所が玉置辻です。ちょっとした展望スペースになっている他、玉置神社の参道らしく登り口には鳥居が設けられている。
その入口に奥駈道の説明板がありました。下の山並を見ると全然まだまだ、1/5にも全然届いていない事が分かる……奥駈道縦走はまだ始まったばかりという事。白目を剥きながらも、少しワクワクを覚えながら玉置神社へ向かいます。
玉置神社までの道は途中までは何の変哲もない登山道ですが、次第に杉の木の巨木が増えてきてそれっぽい雰囲気に。
玉置神社→玉置山→玉置山駐車場
[12:37-13:25]玉置神社
山の中に忽然と現れるのが玉置神社。もっと小さい神社かと思ったんですが、境内はかなり広く、社の他にかなり大きな社務所があります。
巨木に囲まれた鬱蒼とした山の中の神社。それもそこそこの規模。ちょっと他ではないような神秘的な雰囲気の神社でした。本宮大社は正直あんまりパワー感じませんでしたが、ここはビンビンくる。MPとか回復しそう……今自分に足りてないのはHPの方だけど。
ちょっと奮発して50円玉を賽銭箱に放り込み、道中の無事を祈願。
境内から少し離れた所に非常に大きな杉の木がありました。中でも特に立派なのは樹齢3000年という神代杉。流石は降水量の多い紀伊山地といったところでしょうか。こんなのがゴロゴロ生えていて、まるで屋久島みたいです。
参拝を済ませて今度は社務所の方へ。なんとお神酒が自由に飲めるようになっていました……太っ腹過ぎる。ちょっとガス欠気味だったのでグビグビと数杯ほど注ぎ、エネルギー補給(日本酒の成分の大半は糖質です)させて頂きました。
銘柄は先程見た神代杉。五條市の山本本家さんのお酒。普通酒にも関わらず結構美味しかったです。マークしておきましょう。
境内には登山者向けの水汲み場があるとの事で、御朱印などを貰うついでに社務所で訊ねてみると、防災訓練? だとかでこの時は使えなくなっていました……じゃあどこか代わりにと聞くと、近くにある幾つかの手水場の水をとの事。
社務所のすぐ側にもあったので有り難く使わせて頂きました。水の流れが止まっててちょっと羽虫とか浮いてたけど気にしない。
ちなみにこの社務所、重文指定です。江戸末期の建築で、神仏習合時代にあった玉置神社の神宮寺の庫裏を流用したものとされています。
こちらは摂社である三柱神社(稲荷社)。朽ち気味ながらも茅葺きで雰囲気のある神社ですが、ここの手水場の水はちょっと淀んでいたので避けました。
三柱神社の裏にある出雲大社玉置教会の前を掠めて進んでいくと、玉置山、玉石社方面への登山道が続いています。
この辺りもまた壮観たる杉の巨樹群です。途中にあるのは玉置神社の末社の玉石社。
[13:32-13:48]玉置山
程なくして本日のメインとなるピーク、第10靡玉置山に登頂……初日からアップダウンが多くてきつかった。
展望はそこまで良くないですが、木々の切れ目から少しだけ展望が開けています。
やや望遠で。南東方面の山々。
先に進みます。奥駈道はそのまま尾根沿いに北上していきますが、またまた外れて寄り道。玉置山駐車場方面へ。
駐車場にはこんなお店があります。めはり寿司やさんま寿司、干し椎茸などの各種特産品が並んでいました。
中は食堂となっているようです。店主の方が外でタバコを吹かしていたので営業しているか訊ねてみるとOKとのこと。ここでは当初お寿司だけ買う予定でしたが貴重な食事の機会、せっかくですので頂きましょう。
メインメニューはうどん。きつねとしいたけの二種類ありましたが、ちょっと変わっているなと思い後者を選択。
運ばれてきたしいたけうどん。店頭に並んでいるものと同じものと思しき十津川村産の超肉厚な椎茸の含め煮がゴロゴロ乗っています。中々に腹持ちのいい代物でした。つまみに椎茸だけ欲しいって言えば売ってくれたかな。流石に自重したけど。
喉も乾いたので八咫烏ラベルのじゃばらサイダーも頂く。邪気を払うが語源とされる『じゃばら』という名の柑橘を使ったサイダーで、レモンとグレープフルーツの間の子のような酸味と爽快感のある味わいでした。五臓六腑に染み渡る。
このお店、場所柄奥駈道縦走の人がよく立ち寄るらしく、うどんを啜りながら店主の人と暫く奥駈道トーク。春のシーズン時には一日あたり十人以上が来るものの、晩秋で日の短いこの時期はぽつぽつ。とは言え、つい昨日も逆峯の若い女の人が居たなんて話を聞きました。
帰り際、夕食用にめはり寿司も購入。紀伊長島で買ったものを食べたばかりとは言え、さんま寿司も追加で買っておけばよかったかも。なにせ、弥山小屋が閉まってしまったこの時期、奥駈道においてこの場所は最初で最後の食料調達ポイントだったので。
玉置山駐車場→花折塚→蜘蛛ノ口
この日は玉置山の周辺で宿泊の予定でしたが、少々早く着いてしまったのでもう少しだけ先に進んでおきます……が、すっかり寛ぎモードになってしまったせいで足が進まない。でも歩く。少しでも翌日楽にする為に。
奥駈道に復帰する。この付近の区間は林道と殆ど重なっているので……ぽつぽつと展望台のようなものもあります。
山頂よりも圧倒的に展望の良い玉置山展望台。砂利敷で広い駐車スペースがあり、ここでテントを張る人も多いみたいです。
ちなみに右側の山は翌日向かう地蔵岳、笠捨山の稜線です。右の大きな山が笠捨山。
展望台に登って北側の眺め。これから向かう奥駈道の山並みが見えますが、午後なので雲が多く霞んでしまっています。
中央部に奥駈道の稜線が続いていますが、残念ながら主峰である釈迦ヶ岳、弥山は雲に埋もれて見えないみたいです。
束の間の舗装路歩き。通り過ぎる車もいない。途中で花折塚方面に分岐する山道が奥駈道です。
[15:15-15:36]花折塚
鎌倉時代最末期に戦死した、後醍醐天皇の皇子である護良親王に使えた武将、片岡八郎の塚があります……後に訪れた吉野や笠置といい、今回は何かと後醍醐天皇にゆかりのある旅でした。
地図上では林道が直ぐ側を通っていますが、殆どの区間は山道を進みます。途中には水呑金剛と書かれた石柱。
この分岐を最後に林道から完全に離れます。
[16:32]蜘蛛ノ口到着
テント適地とされる塔ノ谷峠まで行きたかったのですが、暗くなってきましたし残念ながらここで時間切れです……けど、前日張った七越峰の展望台なみに平地が少ない。
張れそうな所が少なかったので道の上に堂々と張りました。クソ邪魔でしょうけど、どうせ未明に出発するので問題ないでしょう。こんな寒い時期ナイトハイクする人もいなそうですし。
めはり寿司+豚汁+コンビーフポテト……今日の食事は一段と豪勢です。殆ど重りも同然だった那智の滝で貰った素焼きの盃も醤油皿として活用できました。
翌日は難路の地蔵岳を通過したりと行程上おそらく最もしんどい日と考えていたので、この日は早々に就寝して備えました。
次回記事『大峯奥駈道その2』に続く。